第34話 美少女メイドの姉妹
「お前、なんか機嫌悪い?」
「あ? そう見えるか?」
翌日、雄介とだべっていると突然そんなことを聞かれた。
俺としては特段機嫌が悪い気もないのだが、雄介が言うという事は多少なりとも機嫌が悪いように見えるという事か。
「かなりな。普段から人相は良くないけど最近は険しい顔をしてるからちょっと怖い印象を受けるな」
「マジか。気をつけないとな」
「なんかあったのか? お前がそこまで機嫌悪そうにしてるのなんて珍しい」
「いや、そう言うわけじゃない。最近寝不足だからかもしれないな」
自分でもなんで機嫌が悪く見えているのかわからない。
だけど、確実に昨日の天城の一件が関係しているのだと思う。
「なるほどな。また勉強か? ほどほどにしとけよな」
「わかってるって。またもうちょっとしたら期末テストが近いからな。少し熱を入れすぎた」
「マジかよ。言われてみれば確かにもうそろそろテストだもんな。やべぇ」
うまくごまかせたみたいだ。
まあ、期末テストに向けて勉強をしてるのも本当だけどそれ以上に俺はその後に控えてるイベントに思考が向いてしまっている。
「お前も勉強はほどほどにしないと赤点取るぞ」
「わかってるって。でも、やばくなったらまた助けてくれ」
「ああ。でもヤバくならないようにちゃんと普段から勉強しろよな」
雄介はやればできるのにやらないからできないのだ。
本当にもったいない。
「へ~い」
気の抜けた返事を返して雄介は自分の席に戻っていった。
俺も今日の授業予定を確認して教科書を用意して席に着いた。
「……全く集中できねぇ」
授業中もまともに集中できないままその日の授業は終わってしまう。
この後は天城の家に行って家庭教師だ。
お金をもらっている以上ちゃんとやらなければ。
◇
「陸斗様、大丈夫ですか? いつもと様子が違うようですが?」
「大丈夫だ。すまない」
「いえ、謝ってもらうような事じゃないですけど。何かあったんですか?」
「何もないって。ちょっとぼーっとしてただけだ」
辻にも指摘されてしまった。
そんなにも俺の表情や仕草に出ているのだろうか。
俺としては本当に自覚が無いのだが。
「嘘ですね。いつもみたいな感じじゃないです。やはり昨日のお嬢様関連ですか?」
「……多分な。いきなり天城が全く知らない奴と婚約をさせられそうになってるって聞いて変に落ち着かないんだ」
「左様ですか。陸斗様もお嬢様の事を考えてくれているようで安心しました」
「そんなんじゃねぇ」
俺は照れ隠しでそっぽを向きながら頬をかく。
素直に認めてしまうのはなんだか負けた気がしてならないのだ。
「ふふ。そういう事にしておきましょうか。でも、嬉しいからこうしちゃいます」
対面に座っていた辻は俺の隣に正座するとそのまま俺の頭を持って自身の膝に寝かせてくる。
とても柔らかくて暖かい感触が俺の側頭部を襲う。
その瞬間に心臓がとんでもない速度で早鐘を打つ。
「つ、辻? 何してるんだ?」
「何って、膝枕ですよ。疲れた殿方はこうすると癒されるって本に書いてありましたので。違いましたか?」
「……全然違わないが」
一体どんな本を読んだのか。
まあ、あながち間違ってはいないけど完全にあっているというわけでもない。
偏り過ぎている情報だ。
「それよりも、どうかな。わたくしの膝枕」
「めっちゃいい。凄く安心するというか、落ち着く」
「よかった。えへへ。こうしてると陸斗様が子供みたい」
辻は笑みを浮かべながら優しい手つきで俺の頭を撫でてくる。
柔らかくて小さな手が頭を撫でまわす。
心地いいけどなんだか気恥ずかしい。
そんな感情が共存していた。
「子供みたいッていうがな。俺はまだまだ子供なんだぞ?」
「でしたね。いつものあなた様は同年代には見えないくらい落ち着いてるので。なんだか少し年上に見えてしまうんですよ」
「そんなもんなのか?」
「そうですよ。まあ、こういうのはご自分では気が付きにくいとは思いますが」
話ながらも俺を撫でる手は止まらなかった。
不快感は無いし、むしろ凄く安心する。
少し前までざわついてた心が浄化されるような錯覚に陥る。
「言われて初めて気が付いたな。そんなに年上っぽく見えるのか?」
「はい。年上のお兄さんと言った感じですね」
「辻は姉妹がいるんだったか?」
「姉と妹がいます。仲は良くなかったですけど」
少しだけ暗い声音で返答をしてくる。
あまり触れてはいけない話題か。
俺が気まずくなって話題を変えようとするがその言葉は辻によって遮られてしまった。
「わたくしの話、聞いてくださいますか?」
「辻が話してスッキリするならいくらでも聞くぞ。こんな体勢だけどな」
膝枕をされながら重大な悩み相談を聞く状態じゃないけどな。
それでも彼女が良いというのであればどれだけでも、話を聞くつもりだ。
きっと、闇が深い話になりそうな気がするし。
「全然大丈夫ですよ。むしろ、この体勢の方が話しやすいので」
「そうか?」
そう言われてしまっては無理に退くこともできないからこのままの姿勢で話しを聞くことにする。
「はい。あと、一つお願いしても良いですか?」
「俺にできることならするけど。なんだ?」
「一度でいいので、名前で呼んでいただけませんか?」
「そんなことでよければ。菫」
自分で言ってみて気恥ずかしくなるけど、何とか表情に出さないようにして名前を呼ぶ。
辻の顔を見てみると、彼女は顔を真っ赤にしていたけどなんだか嬉しそうだった。
「ありがとうございます。話す勇気が出ました」
「ならよかった」
「じゃあ、聞いてください。私の姉妹の話を」
こうして俺は辻の姉妹の話に耳を傾けるのだった。
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