第33話 あなたに撫でられるの好きです
「天城家の方々は家柄を特に気にする傾向にあります。言ってしまえば古臭い家なので。ですので陸斗様を連れて行くことで変な事を言われるのがお嬢様はお嫌なのでしょう」
「なるほど。確かに、俺の家柄は特段いいってわけでもないしな」
俺の家系は本当に普通の物だ。
何なら父親が蒸発してるから一般的に見ても良い家系とは言えないのかもしれない。
俺が子供の頃に一人でどこかに出て行ったくそ野郎だからな。
「あの家の方々はおそらく陸斗様に対して酷い物言いをするでしょう。だから、お嬢様は連れて行きたくないのだと思います」
「辻は一緒に戻らないのか?」
「……わたくしは戻らないと思います。天城家の方々と言うよりはわたくしは姉妹たちに会いたくないので」
普段の辻はあまり感情を表に出さないのだが、今は感情が表に出ていた。
苦虫を噛み潰したかのような苦い顔をしている。
どうやら、姉妹たちとは仲があまりよくないらしい。
「そうか、なんか聞いちゃいけないことを聞いたみたいだな。すまん」
「いえ、謝らないでください。それよりも陸斗様は天城本家に行く気がございますか?」
「それが必要であるならな。正直言って知らない人たちにどんな罵詈雑言を言われてもそこまで気にしないし」
天城家の人たちがどんな人間なのかは知らない。
辻から聞く感じいい人達でないのかもしれないけど、そんなことは正直どうだっていいんだ。
天城が変な奴と婚約させられるよりは百倍マシだ。
「いや、大丈夫ですって。別に宮野くんを連れて行かなくてもなんとか二人を説得して見せますから」
「いくらお嬢様でもあのお二人を説得するのは難しいと思います。どうにか丸め込まれてどこかの御曹司との婚約話をされるに決まっています」
どうやら、天城の両親はかなりのやり手らしい。
まあ、天城もかなり頭が回るからその両親の頭の回転が速くても全く不思議ではない。
「それは……むぅ」
最終的に反論せずにまた拗ねたようにむくれてそっぽ向いてしまった。
こんな風に終始拗ねている天城は本当に見たことが無い。
「それで俺が天城家に行くとしたらいつなんだ?」
「夏休みに入ってすぐですね。おそらくですが三日ほどあちらに泊まっていただくことになるかと」
「わかった。予定はあけとく」
「ちょ、勝手に話し進めないでください!」
天城の抗議を無視して俺は夏休み最初の方に天城家に行く予定を立てておく。
その後は辻が夕飯を作りにキッチンに行ってしまったため俺と天城が部屋に取り残された。
「なんで勝手に話しを進めるんですか?」
「なんでって、行かないと天城が変な奴と婚約させられるんだろ?」
「それは……宮野くんには関係ないじゃないですか」
「関係大有りだ。今の所、お前は俺の家庭教師だし。それに知り合いが変な奴と婚約して不幸な目に遭うとか後味悪いだろ?」
天城が変な奴と婚約するのはなんか嫌だ。
これは俺のエゴなのかもしれないけど。
どうしてもいやなものは嫌なんだ。
「それだけが理由ですか?」
「……別にそれだけだよ」
「そうですか」
天城は少しだけ残念そうにしながら俺の肩にもたれかかってくる。
女子特有の甘い香りがしてドキドキする。
天城を意識してしまいそうになるが、頭の中で円周率を唱えて意識を向けないようにした。
「天城本家ってそんなにやばい場所なのか?」
「そうですね。みんな何を考えてるかわからなくて全く心が落ち着きません。ここにいる方が百倍楽しいです」
「じゃあ、とっとと用事を終わらせてここに帰ってくるしかないな」
「本気で行くつもりですか?」
不安そうに俺を見あげながら天城はそう聞いてくる。
何でここまで不安そうにしているのか。
俺にはわからない。
天城家にはまだ彼女が俺に話していない《《何か》》があるのかもしれない。
そう考えてしまう。
「さっきも言っただろ? 天城が変な奴と婚約させられるよりかは百倍マシだ」
「……そうですか」
諦めたように目を閉じて体重を俺の体にかけてくる。
下手に抵抗する気もないし、今は抵抗してはいけない気がしたのでそのままにしておいた。
「何を気にしてるかは俺にはわからないけど、何があっても天城を嫌いになったりしないから心配すんなよ」
左肩に寄りかかってきている天城の頭を撫でる。
やはり、撫で心地が良くて撫でていて凄く気持ちがいい。
「ふふっ、宮野くんに撫でられるの私好きです」
「ならよかった。俺もこうやって天城を撫でるの案外好きかもしれない」
「じゃあ、結婚しません?」
「それはまだ無理」
勢いで求婚されたが流されることなくきっぱり断っておいた。
だが、最初みたいに完全に拒絶する気が無くなったのは進歩なのかもしれないな。
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