第32話 天城乃々の抱える問題
辻が言ったことに俺は一瞬頭が真っ白になった。
あの天城が婚約するのか?
いや、それ自体は全然おかしなことじゃないはずだ。
良い家のお嬢様が政略結婚をするなんてありふれた話じゃないか。
じゃあ、なんで俺はこんなにも動揺しているんだ?
「私は絶対に婚約なんかしたくないけどね」
「知っております。というか、あの場では婚約の話を全て断ってしまったではありませんか」
「そうなんだけど。どうせ、お父様とお母様は何としても私と誰かを婚約させる気だわ。ここで下手に婚約者が見つからなかったらまた面倒な事になりそうだし」
「それで、俺が巻き込まれる云々の話はどうなったんだよ」
俺は頑張って平静を装いながら辻に質問を投げかける。
ハッキリ言ってなんで俺がここまで動揺してるのか自分でもあんまりわからない。
だけど、変に嫌な感じがするというか、胸がモヤモヤするんだ。
「それがですね、お嬢様が婚約者を決める時の条件を現在のご当主さまに言ったんです。苗字が宮野で名前が陸斗の人としか婚約する気がないと」
「だって、こうでも言わないとお父様もお母様も引き下がってくれないんだもの。しょうがないじゃない」
「しょうがなくはないと思いますが。というわけで、陸斗様は天城家やその分家に目をつけられてしまったというわけです」
「マジかよ」
そんな連中に目をつけられて良いことがあるわけもない。
でも、天城が望んでもいない相手と無理に婚約させられるよりかはマシな展開かもしれない。
「マジです。で、ご当主様が今度陸斗様を天城本家まで連れてくるようにとお嬢様に言ったんです。それでお嬢様は今拗ねているというわけです」
「拗ねてないもん」
そっぽを向きながら彼女は頬を膨らませている。
完全に拗ねている子がする仕草だった。
「そう言うわけで今度わたくしたちと天城本家まで来てほしいのです」
「ちなみに拒否権は?」
「限りなくないですね。拒否しても構いませんが拒否した結果天城家があなた様に何をしてくるかはわたくし達でも想像ができません」
それはつまり、拒否権は全くないという事か。
まあ、天城が変な奴らと婚約させられないで済むのなら俺は一向にかまわない。
なんで天城が拗ねているのか不思議なくらいだ。
「私はあんまり来てほしくない」
「なんでだ? 俺が行けば、とりあえずは変な奴と婚約をしなくて済むんだぞ?」
「あんな魔窟に宮野くんを連れて行きたくない。何を言われるか分かったもんじゃないですからね」
天城はいつにも増して頑固にそう言った。
普段なら俺が何かを頼めば仕方ないですね~とか言って簡単に承諾してくるのに。
「別に何を言われても俺は気にしないぞ? 俺は俺だからな」
「でも……」
何を言われても関係ない。
俺がそれで変わることは無いし、天城に対する印象が変わるという事ももちろんない。
だというのに、天城は今にも泣きだしてしまいそうな顔で俺に天城本家に来るなと訴えかけてく。
「どうしてそんなにもお前は俺を連れてい行きたくないんだ? 何か他に理由でもあるのか?」
「……」
「言いたくないのなら別にいいんだけどな。言ってくれなきゃどうすることもできないぞ」
言ってくれないとわからないし、何もしてあげることができない。
だから、俺としては相談してほしいのだが。
「ごめんなさい。少し部屋で休むわ。宮野くんは菫と話しておいて頂戴」
「ちょっと待てよ!?」
俺の静止を全く聞かずに天城はリビングを後にした。
何か不味い事をしてしまっただろうか。
「申し訳ございません。陸斗様。今のお嬢様は少し不安定なのです」
「辻はなんで天城があんなに俺が本家に行くことを拒絶しているのか知ってるか?」
「見当は付きます。まあ、確信はないわけですけど」
「それでもいいから聞かせてくれ」
今回の問題を解決するにしろ傍観するにしろ、俺は知らないことが多すぎる。
知らないことはどうすることもできないから、知ってから行動に移すことにしよう。
「かしこまりました。少し長くなりますがよろしいですか」
「ああ。頼む」
こうして、俺は天城が抱える問題の確信に迫ろうとするのであった。
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