第23話 あの女……誰ですか?
「中間テストお疲れ様でした。手応えはどうですか?」
「天城のおかげでかなりいい点取れたと思う。いや、マジでありがとう」
めんどくさかった中間テストがついに終わった。
これで、重かった体が少しは軽くなったと言うものだ。
「私はそこまで大きな事はしてませんよ。全ては宮野くんの努力の成果です」
「いや、それもあるだろうけど。やっぱり天城に教えて貰ったからってのが大きい。今までで1番手応えあったから」
いつもは80点そこいらかなーと言うくらいの手応えだったのに、今回はもっと上だ。
90点台どころか100点取れたんじゃね?
と思えるくらいの手応えだった。
「そこまで褒められると流石に照れますね」
「いや、マジで感謝してる」
「なら、良かったです。まあ、私はこうやって宮野くんとデートをする対価に教えてるだけですのでお気になさらないで結構ですよ」
今日は土曜日。
中間テストが終わったと言うこともあってかなり開放的な気分の日に俺たちは週に一回のデートをしていた。
「最近は私の体調が優れなかったり、中間テストがあったりで中々デートできませんでしたからね! 今日は全力で楽しみましょう!」
「だな。俺もせっかくだから全力で楽しむ事にするよ」
久々に遊びに行けるのだ。
俺自身結構楽しみにしていた。
それに、辻の家庭教師の収入で懐はかなり暖かいしな。
「そうしましょうそうしましょう! では、ついてきてください」
「目的地はもう決まってるのか?」
「はい! ショッピングモールに行こうかと思いまして。いかがですか?」
「全然いいぞ。今日はとことん天城の行きたいところに付き合うよ」
元々そのつもりだったしな。
あの日以降、天城は普段の調子に戻ったが問題が解決したようには思えない。
だから、たまにの息抜きくらいは好きにさせてやりたい。
「ふふ。ありがとうございます! じゃあ、行きましょうか!」
天城はご機嫌に鼻歌を口ずさみながら歩いていく。
俺もその後に続いていくのだが、やはりこの子は俺といる時だけ様子が変なんだよな。
年相応というか、少し幼く見えるというか。
学校ではいつも凛としていて真顔なのに、一緒にいる時は表情をコロコロ変えている。
「天城の素はどっちなんだろうな」
「ん? なにか言いましたか?」
「なんでもない。それより、何か買うものとか決まってるのか?」
「いえ、決まってないのでウインドウショッピングと言うやつをやってみようかと思いましてね」
なるほど。
まあ、今日は一日中デートのために予定を空けてるから全然いいか。
俺もたまには買い物をしてもいいだろうし。
「話は変わるんだが、この前はどこに行こうとしてたんだ?」
「この前?」
「天城が熱でぶっ倒れた日だよ」
あの日の天城は明確に何かの目的地があったように見えた。
そこに行きたくてしょうがなくて、なんとしてもあの日にその場所にたどり着きたいという意思を感じた。
なのに、今日は目的がなくウインドウショッピングをしたいという、
一体どういう風の吹き回しだ?
「……あの日ですか」
「言いにくい事なのか?」
「そう言うわけではないのですけどね。今日はいけないんですよ。だから、ウインドウショッピングにしようと思ったわけです。いずれまた、一緒に行ってもらおうと思うのでそれまでは秘密にしていてもいいですか?」
露骨に何か隠しているような感じだけど、こういう時の天城は絶対に話してくれない。
であるならば、話してくれる時を待つのが一番いい選択なのかもしれないな。
「わかったよ。別に無理して聞き出したい事でもないしな。じゃあ、今日はここをぶらぶらするって感じでいいんだよな?」
「はい! そろそろ夏も来るので夏服とかも見たいですね~」
「そう言えば、もうそんな季節か」
中間テストが終わり季節は六月。
そろそろセミの鳴き声が聞こえてくる季節になった。
こうして歩いてるだけでもじんわりと汗をかいてくる。
「そうですよ! あと少しで夏休みなんです。楽しみですねぇ~」
「天城は夏休みの予定がもう決まってるのか?」
「当たり前です! 将来の旦那さんの家に入り浸るつもりですよ!」
「……初耳なんだが?」
彼女は目をキラキラさせながらそんなことを言ってくる。
夏休みの予定はそこまで明確に決まってるわけじゃないけど、お盆に関しては実家に帰る予定だ。
久しぶりに母さんの顔も見たいしな。
「だって、今初めて言いましたからね。ダメですか?」
「流石に毎日はやめて欲しいけどな。まあ、少しなら勉強を教えてくれるならいいけどさ」
「ではそうしましょう! ふふ。楽しみが増えました」
ニコニコしながら今後の予定を彼女は立てていく。
すんなり夏休みの予定が埋まっていくのを感じるが、お盆以外に特段予定もなかったので別にいいだろう。
ずっと家で一人で過ごすよりは楽しい休みになりそうだしな。
◇
「この服、どうですか?」
「凄く似合ってると思うぞ? 天城の黒髪にも合ってるし、めちゃくちゃ清楚な感じがして可愛いと思う」
俺は今、試着室の前に三十分ほど居座っていた。
理由は簡単で天城の夏服ファッションショーが行われていたからだ。
彼女の選ぶ服のセンスはとても良くて、見ていて飽きない。
本当に、そこら辺にいる芸能人よりも可愛いのではないか?
と、俺は素で思う。
「そうですか? じゃあ、買う事にしましょうかね。ふふふ」
嬉しそうに微笑みながら彼女は試着室のカーテンを閉めていく。
こんな風に女性の服をたくさん見る機会なんて今までなかったから新鮮味があるな。
まあ、モデルが天城だから何を着ても似合っているから感想が難しいのだが。
「にしても……はぁ」
ここまで綺麗な女性が試着室を出入りしていると周囲の視線がかなり痛い。
痛いというか、めちゃくちゃ視線を感じて仕方がないのだ。
嫉妬の視線や羨望の眼差し。
多種多様な視線を感じる。
「少し面倒な事になったな」
ここまで人が多くて注目を集めていると変な奴が近づいてきたときに対処のしようがなくなってしまう。
最近、近くに居すぎて忘れてしまうが天城は良いところのお嬢様だ。
変な奴が狙っていないとも限らない。
普段はSPが付いていると辻は言っていたが、俺と出かける時は付けていないと言っていたためなお更に警戒が必要だ。
「ん? どうしたんですか? 難しい顔をして何かあったのですか?」
「いや、何でもないよ。それよりももう試着は済んだのか?」
「はい。気になる物は全て試着できましたので。これ買ってきますね」
「ああ。行ってら」
天城は試着をした服を数着持ってレジに並んでいった。
その中にはさっき見せてくれた白いワンピースも入っていた。
正直、あのワンピースが今日見た中で一番似合っているように思える。
まあ、俺の趣味趣向の問題だとは思うけど。
「あれ? もしかして陸くん?」
俺がそんなことを考えていると後ろから声をかけられた。
聞き覚えのある声だが、しばらく聞いてなかった声だ。
「久しぶりだな。理子」
俺のことを陸くんと呼んだ彼女は木下 理子。
同じ中学で俺がヤンキーだった時によくつるんでいた女子だ。
この前電話した奴の彼女でもあるな。
地元から結構離れてるのにどうしてここにいるんだろうか?
こいつも俺みたいに一人暮らししてるのだろうか?
「だね。元気してた? というかすっかり丸くなったね」
「あれから結構時間も経ってるしな。そう言うお前はあんまり変わってないな」
「なにそれひど~い」
肩まで伸びた桃色の髪と綺麗な琥珀色の瞳。
身長は小さい方で150cmくらいだろうか?
中学の頃からあんまり伸びてないな。
「酷くないだろ。それよりもこんなところでどうしたんだ?」
「ああ、久しぶりに遠出してたんだよ。別に目的があったとかじゃないし、ここであったのも本当に偶然」
「なるほどな。卓也は元気にしてるか?」
「もちろんよ。この前陸さんから電話があったってすごく喜んでたんだから」
島根 卓也はこの前俺が電話をした昔の仲間だ。
ヤンキー時代の仲間で俺のことを慕ってくれていた弟分みたいなもんだな。
「あいつらしいな。また、夏くらいには実家に戻るつもりだからその時はみんなで会おう」
「いいね。みんなきっと喜ぶよ」
「俺も楽しみだよ」
「うん! じゃあ、私はそろそろ行くからまたね~」
そう言って理子はぶんぶんと手を振って走り去ってしまった。
相変わらずせわしない様子の理子に苦笑が漏れながらも昔を思い出して笑ってしまう。
そんな俺の後ろから底冷えするほど低い声が聞こえてきた。
「あの女……誰ですか?」
心臓を握りつぶされるかのような威圧感。
俺は死んだかもしれない。
この時、真剣にそう思った。
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