第20話 天城乃々の闇
「私、完全復活です」
「あいよーよかったな治って」
「……なんだか対応が適当ではありませんか?」
「そうでもないさ。それよか、今日はどうするんだ? 予定的には辻の家庭教師の日だよな?」
本来であれば、今日は俺が辻の勉強を見る日だ。
辻は理解力があって教えたことをほとんど完璧に理解してくれるから教えるのが非常に楽なのだ。
「はい。今日も菫の勉強をみていただけると嬉しいです。私の方は学校に残って少しだけやることがあるので。今日は菫と二人で帰ってください。私は迎えの車を呼ぶのでご心配なく」
「わかった。このことって辻には伝えてるか?」
「もちろんです。ですので、心置きなく二人で勉強しておいてくださいね」
「わかってるよ。報酬をもらっているわけだからそこら辺は心配しないでいい。それよりも、気を付けて帰れよ。最近は物騒だから」
「わかっていますよ。ありがとうございます」
近藤の件もある。
あいつが逆恨みして天城に何かをしないとも限らない。
一応忠告だけはしておいた方がいいだろう。
近くに誰かがいない状況ならなおさらだ。
◇
「はぁ、私は言ったはずですよ? 次はないと」
「あ、天城」
「私に何かをすることは無かったですし、宮野くんにも何もしなかった。まさか、菫に手を出そうとするなんて思ってもいませんでした」
あれは私の不覚でしたね。
まさか、菫に何かをしようとしてくるなんて。
宮野くんがいなかったら菫がどうなっていたか。
考えるだけでおぞましい。
「あ、アレは違うんだ! そう言うつもりじゃあ……」
「菫は私にとって唯一無二の従者です。それを傷つけようとした愚者をこの私が見逃すとお思いですか?」
「ま、待てよ。何する気だ!?」
「今この場で何かをするつもりはありませんよ? それに意味はありませんしね。言ったでしょう? 私はあなたを家ごと潰すと言ったでしょう」
近藤家を根絶やしにする。
それが私が決めたことです。
私が動かせる力を総動員してでもね。
「ふ、ふざけんなよ! いくら天城家でもそんな事できるわけねぇ!」
「どうでしょうか? きっとそろそろ不味い事になるころ合いだと思いますが」
私がそう言った瞬間に目の前の彼はスマホを取り出す。
おそらくは、彼の父親からの連絡でしょう。
このタイミングにそうなるように仕向けましたから。
「い、一体何をした!」
「答える義理はありませんね。もう二度と顔を見ることもないとは思いますが。それでは」
私は崩れ落ちる近藤から視線を外して家に向かうのでした。
◇
「お嬢様、大丈夫でしょうか?」
「心配なのはわかるが、今は勉強に集中してくれ。もうそろそろで中間テストだし。家庭教師として辻がいい点を取れるようにサポートしないといけないからな」
天城の屋敷に着いて辻の部屋で勉強を教えているのだが、さっきからずっと上の空だった。
心配なのはわかるけどな。
近藤の一件もあるし、何もないとは思うけど俺も心配になってしまう。
「そ、そうですよね。申し訳ございません」
「いや、そこまで真剣に謝らなくてもいいぞ。俺も心配っちゃ心配だからな」
そろそろ戻ってくる時間帯だとは思うけど、もう少しして戻ってこないようであれば一度学校に向かってみることにしよう。
「はい。すいません。集中します」
そう言って辻が問題集に視線を落としたとき、玄関が開く音がした。
辻はすぐに立ち上がって玄関の方に走っていく。
俺も、なんとなくそれに続いて玄関に向かう。
「ただいま。菫。宮野くん」
「おかえりなさいませお嬢様」
「おかえり天城。って、俺が言うのもなんか変だけどな」
「全然変じゃないですよ! 凄くしっくり来たのでもう一度お願いしてもよろしいでしょうか?」
天城は何故か興奮気味にそう言ってくる。
どうやら、おかえりが相当嬉しかったらしい。
きっと、彼女に尻尾があったらぶんぶんと振っているに違いない。
「おかえり」
「はい! ただいま戻りました!」
おかえりっていうだけで天城が幸せな気分になるのであればそれでいいだろう。
それに、こうやって笑みを浮かべている天城は凄く可愛いから見てて全く飽きない。
「お嬢様、夕飯にいたしますか?」
「そうね。そうしましょう。宮野くんも食べて行ってくださいよ」
「じゃあ、お言葉に甘えようかな」
「かしこまりました。では、わたくしは夕飯の準備をしてまいりますのでお二人はおくつろぎくださいませ」
辻はスカートの端を持ち上げて流麗な動作でお辞儀をしてキッチンの方に消えていった。
「リビングでお話でもして待っていましょうか」
「だな。俺もちょうど天城に聞きたいことあったし」
「何ですか? スリーサイズですか! いいですよ教えて差し上げましょう」
「待て待て!? 早まるな。俺はそんなことを聞こうとはしていない」
いきなりとんでもない事を言おうとする天城を何とか静止してリビングのソファーに腰かける。
当たり前のように肩をピッタリつけて密着してくる。
まあ、いいか。
「ええ~じゃあ、何を聞きたいんですか?」
「今日、学校でなにをしてたんだ?」
「ふふ、気になりますか?」
「気になるな。特に今日は表情が暗い。何かあったんじゃないのか」
帰って来た時から口調は馬鹿みたいに元気なのに、表情はどこまでも暗かった。
だが、外傷があるわけでもない。
……こういう時は昔から何かある。
嫌な感じだ。
「……」
「別に、話したくないなら話さなくたっていいけどな」
俺に彼女の深いところに踏み込む資格はないだろう。
話してくれるのなら聞くが、無理に聞きだすようなこともしない。
「優しいですね。でも、大丈夫です」
そう言って彼女は俺の肩にもたれかかってきた。
普段なら避けるけど、今回は弱ってそうだったから避けるようなことはしなかった。
女の子特有の甘い香りが鼻孔をくすぐってくるのを感じながら、俺は辻が夕食を用意してくれるのを待つのだった。
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