第19話 照れてるメイドって可愛くない?
「ふぅぅぅ、陸斗様あのカッコよさは反則ですよ」
陸斗様がお嬢様のお見舞いに行っている間、わたくしはキッチンでお嬢様の夕食の準備をしながら悶えておりました。
頭の中にあるのは、わたくしの事を颯爽と助けてくれた陸斗様の姿だった。
「初めて、男の人にあんなふうに優しくされた気がします」
わたくしの今までの人生において男の人に良い思い出はありません。
酷いことをされたり、いやらしい視線を向けられたり。
今日みたいに無理に迫られたりすることも多かったのです。
だから、何の見返りもなく当たり前のように助けてくれた陸斗様が気になっているのかもしれません。
「ダメです。陸斗様はお嬢様の想い人なのに」
ドキドキが止まりません。
頭を冷やさなければ。
主人の想い人に恋慕するメイドなんて最低です。
しっかり冷静な思考にならないと。
「はぁ、陸斗様はどうしてあんなにもお強いのでしょうか」
本人に聞いてみましたが、詳しくは話してくれませんでした。
何か言いにくい事情でもあるのでしょうか?
あまり詮索するのも良くありませんよね。
しっかり彼が話してくれるようになるまで待たないと。
◇
「陸斗様改めまして、本日は助けていただいて本当にありがとうございました」
「そんなに頭を下げるなって。当たり前の事をしただけだし。本当に無事でよかったよ」
天城の部屋を後にして俺はリビングで紅茶を貰っていた。
辻が入れる紅茶は本当に美味しくて一息つく感じがして本当にいい。
こんな風にめちゃくちゃ感謝をしてくれるのは良いけど、そこまで気にしなくてもいいと思う。
当たり前の事をしただけでここまで感謝されるとなんだかむず痒い。
「ですが……」
「本当にいいんだって。それよりも、怖くなかったか?」
「それは大丈夫です。お昼休みでも言いましたが陸斗様がすぐに助けに来てくださったので」
あれ以上遅れてたら不味い展開になっていそうだったから間に合ってよかった。
にしても、本当に近藤は何とかしたいな。
あいつの事だから、逆恨みで俺のことをどうにかしようとしてくる可能性もある。
面倒だが、降りかかる火の粉は払わないといけない。
「ならよかった。今度から変な奴に絡まれたら声をかけてくれよ。俺ができる範囲でどうにかするからさ」
「はい。その時はお声がけいたしますね」
「そうしてくれ。あと、この紅茶凄くおいしいな。辻が入れたのか?」
「そうです。お嬢様はよく紅茶を飲まれますので自然と淹れるのが上手くなったのかもしれません」
なるほど。確かに天城は紅茶をよく飲んでそうだな。
本当にうまい。
俺の家とは茶葉も違うだろうけど、やはり淹れ方も違うのだろう。
香りの感じ方が違うような気がする。
「本当に美味しいよ。淹れてくれてありがとな」
「いえ、陸斗様はお客様ですのでお気になさらないでください」
「ありがとう。でも、そろそろ帰ることにするよ。時間も遅いし、天城の体調もまだ完全に治ってるわけでもなさそうだしな」
「わかりました。本日はお見舞いに来てくださって本当にありがとうございました」
辻は俺に向かって深々と頭を下げる。
相変わらず流麗な動作で見ていてもはや気持ちいいが、そこまで頭を下げられるようなことをした覚えもないのでなんだかむず痒い。
「ああ。じゃあ、また明日な」
「はい」
俺は辻に一言言って屋敷を後にした。
家に帰って勉強でもしようかな。
最近ごたごたしててゆっくり勉強することができていなかったし。
◇
「……はかどらん」
家に帰って勉強机に向き合ってからすでに三十分が経過していた。
普段の俺ならば問題集を数ページは終わらせることが出来ていたはずなのに、今日は一ページも終わっていない。
一体なぜなんだ。
軽く頭を抱えてしまう。
「ここ最近はずっと誰かと一緒に居たから急に一人になって落ち着かないのかもな」
俺も中々女々しくなったものだ。
昔ならそんなことは絶対になかったのに。
「ダメだ、コーヒーでも飲んで落ち着こう。このまま座ってても非効率的だ」
立ち上がってキッチンに向かう。
そのままコーヒーが入っている棚を漁ってドリップコーヒーの袋を探すのだが……
ない?
ちょっと前に結構な量を買いだめしたはずなんだが?
無くなるにしてはちょっと早すぎはしないか?
「なるほど。最近は天城が来てたから普段の二倍の速度でコーヒーが減ってたのか。それに気が付かないなんて、俺は疲れてるのか?」
普段なら絶対に気が付くはずのことだが。
全く、散歩がてら買いに行くか。
近くにコンビニがあったはずだ。
そこでちょっと高いけど買おう。
既に俺の口はコーヒーを求めている。
「そうと決まれば、とっとと行くか」
サッと着替えてコンビニに向かう。
久しぶりの一人の時間。
こんな風な日常を送っていたのに、最近は違う。
いつも隣に誰かいて、勉強を教えてもらったり教えたり。
そんな日常を俺は、楽しいと思ってる。
「変だよな。中学のころまではほとんど喧嘩しかしてこなかったのに。今は全く喧嘩してないし」
自然と笑みが浮かんでしまう。
喧嘩をしていた中学時代はこんなに楽しい気持ちになることは無かったけど、天城たちと関わっている今は毎日が充実しているように感じる。
「にしても、結婚かぁ。高校生にしては考えることが早すぎるよな」
勉強には全く集中できなかったのに、天城関連の事を考える時は嫌に思考が回る。
完全にあいつの思惑にハマっているのかもしれないな。
「ダメだダメだ。変な事を考える前に早くコーヒー買って家に帰るとしようか」
とぼとぼと歩きながらコンビニで安物のドリップコーヒーを買って家に帰る。
何故だか、行きの時よりも帰りの時の方が気分が重かった。
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