第18話 メイドの救世主は脱ヤンキー
「お前、俺の女になれよ」
「何を言ってるのですか」
不味い事になりました。
陸斗様の教室にむかっている途中に変な輩に絡まれてしまいました。
早く、戻って陸斗様の教室に行かないとお待たせすることになってしまう。
「簡単だろ。お前が俺の女になりゃあいいんだよ。お前自体はそこまで家柄がいいわけじゃねぇしな」
「……」
確かに、わたくし事態の家柄は昔から天城家に仕えてるとは言っても良い物であるとは言えません。
であるならば、この男が言っていることもあながち間違いではない。
ですが、こんな粗野で乱暴な男の物になんてなりたくありませんし、そもそもわたくしはお嬢様の物です。
「今ここでお前が素直に俺の女になるなら何もしないが、ならないのなら天城に迷惑がかかるかもな」
男は下卑た笑みを浮かべながらそう言ってくる。
お嬢様に迷惑がかかる?
ここまで自信に満ち溢れているという事は家柄も相当いいはず。
それはダメだ。
わたくしが我慢をすればいいんだ。
「わか、りまし」
わたくしが諦めようとしたその時でした。
あの方の声が聞こえてきたのは。
◇
「そんな要求飲む必要全くないだろ。変な要求を呑もうとするんじゃない全く」
危機一髪と言ったところか。
こいつ、確か近藤と言ったか。
天城の次は辻に手を出そうとするなんて本当に節操なしだな。
「お前、何してんだ?」
「チッまたお前かよ。邪魔すんじゃねえ」
「邪魔と言うか、この状況を見て見ぬふりはできんだろ。道徳的に」
家柄を盾に人を脅すクズを見逃してやるほど俺は優しくない。
辻とは仲良くしていきたいし、こいつは天城のメイドだ。
何かあったら彼女が悲しむだろう。
「いつもいつも、邪魔ばっかりしやがって! うぜぇんだよお前!」
「知るかよ。とりあえず、辻から離れろ」
位置的にこのまま近藤に殴り掛かれば、辻に怪我をさせてしまうかもしれない。
それは避けたいため、できれば移動してほしい。
何となくアイコンタクトをとって意志を伝えることを試みる。
上手く伝わったようでコクコクと可愛らしく頷きながら近藤から距離を取ってくれる。
これで遠慮なく殴れる。
「今度こそお前をぶっ殺してやるぅ!」
辻が離れたことに気が付いた様子もなく近藤は頭に血が上りきったみたいで殴り掛かってくる。
相変わらずの大ぶり。
こいつはこの前俺にボコられてから何も学ばなかったらしい。
大ぶりに単調な動き。
もう一度ボコって欲しいならそうしてやろう。
「お前さ、態度のわりに実力がなさすぎる。お山の大将もいいところだ」
拳を避けて足を払う。
それだけで近藤はバランスを崩して地面に倒れる。
拍子抜けにもほどがある。
この程度で俺のことを殺すとか笑えるぜ。
「がっ」
「もう辻に手を出すな。お前みたいな屑が口説いていい相手じゃない」
近藤に辻はどう頑張っても釣り合わない。
こんなクズと辻が結ばれるなんて天地がひっくり返ってもあり得ないだろう。
「行くぞ。辻」
「は、はい」
呆然と立ち尽くす辻の手を引いてその場を後にする。
これ以上面倒ごとに巻き込まれるのは御免だし、何よりも辻と昼飯を食べれなくなってしまう。
それは避けたい。
◇
「た、助けていただいてありがとうございました。陸斗様」
「別にいいよ。それよりも助けるのが遅くなってごめんな。怖くなかったか?」
「最初は怖かったですけど、陸斗様が来てくださって凄く安心しました」
「そか。ならよかったよ」
俺たちは互いに弁当を持って中庭に来ていた。
玲瓏学園には巨大な中庭があって数々のベンチや机が設置されている。
昼休みの憩いの場だ。
流石は金持ち学園と言ったところか。
かなり綺麗に整えられている。
「でも、どうしてあの場所がわかったのですか?」
「わかったってわけじゃない。しらみつぶしで探し回ったんだよ。主に人通りが少ない場所をね」
「それは何故?」
「辻が少し経っても来なかったから何かのトラブルに巻き込まれたんじゃないかと思ってな。で、探してたら案の定巻き込まれてたってわけだ」
近藤も中々懲りない奴だ。
というか、家の権力に頼って女の子をどうこうしようとするなんてダサすぎる。
本当に救いようのない奴だ。
「なるほど。お手数をおかけして申し訳ございません」
「謝るなって。俺は気にしてないし、むしろ助けれてよかった。次からもなんかあったら声をかけてくれ」
何も声をかけられずに辻がやばい目に遭ったら後味が悪い。
むしろ起こるなら俺の前で何かあったほうが対応が出来ていい。
「……そうですね。そうします。というか、陸斗様はお強かったんですね。格闘技か何かをしていらしたんですか?」
「昔にちょっとな。それよりも早く飯を食うか。時間結構経っちゃったし」
残りの昼休みの時間は既に三十分を切っている。
早く昼食をとらないと、午後の授業は腹ペコで過ごす羽目になってしまう。
それだけは勘弁願いたい。
「ですね。わたくしも早く食べないと」
俺たちは急いで弁当を食べた。
本当はゆっくり話をしながら食べる予定だったのにそんな余裕がなくなってしまっていた。
近藤の奴め、次絡んできたら半殺しにしてやる。
◇
「それで、今日は菫とずっと一緒に居たのですか?」
「なぜ睨む」
「だって、羨ましいんですもの。私も宮野くんに助けてもらいたかったです」
「こうやってお見舞いに来てるんだから満足してくれ。体調はだいぶマシになってそうだな」
昨日見た時は凄く顔色が悪くて心配だったけど、今はそれなりに顔色がいい。
明日には元気になってそうだった。
「はい。おかげさまで。あと、菫を助けていただいてありがとうございます」
「別にいい。俺は当たり前のことをしただけだから」
「ふふっ。やっぱりあなたはそう言うのですね。流石は私が見込んだ殿方です」
「やっぱりって何だよ。やっぱりって」
なんだか、妙に俺のことを理解してるような事を言ってくるけどまあ気にしないでおこう。
「やっぱりはやっぱりです。それと、いくら菫が可愛いからって手を出したらだめですからね? 出すなら私にしてください」
「どっちにも出す気はねぇよ。ま、元気そうにしてるなら何よりだよ」
思ったよりも元気そうで安心した。
もっと高熱でやばい感じになっているのかと思ったけどそう言うわけでもないらしい。
だから、辻は今日学校に来たのかな。
「む~もうちょっと心配してほしいんですけどね」
「結構心配してるぞ? 何かして欲しいことがあるんなら聞いてやるが?」
「じゃあ、手を握ってください」
「それくらいならお安い御用だな」
ベッドに寝ころんでいる天城の手を俺は包み込むようにして握る。
あまり力を入れすぎないようにできるだけ優しく。
手を握ってみると、やはりほんのり熱い。
まだ、完治しているというわけではないのだろう。
「えへへ、宮野くんの手おっきくて暖かいです」
「そうかい」
あんまり自分の手を褒められたことが無かったから、少し嬉しくなるな。
こんなことでここまで顔を綻ばせて喜んでくれるのは、それだけ俺のことを好きでいてくれてるからか。
それとも、別の打算があるのか。
俺にはわからなかった。
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