第16話 天才お嬢様の体調不良
「最近菫と仲が良すぎじゃありませんか?」
「なんだよいきなり」
週に一回の天城とのデートの日に開口一番そんなことを言われた。
別に特段仲が良くなったという事もないだろうけど。
険悪になったという事もないと思う。
そもそも険悪になりようがない。
「だって、この前は一緒に買い出しに行ってましたし。最近は二人っきりで勉強をする機会が増えてから、菫が宮野くんに懐いてきてる気がするんですよね。宮野くんもまんざらでもなさそうですし」
「言いがかりすぎる。辻と二人でいる機会が増えたのは家庭教師をすることになったからだし。今だって天城と二人きりじゃないか」
「それはそうなんですけど……むぅ~」
何が不満なのかはわからないけど、何かが不満であるという事だけはわかる。
ま、普通に過ごしてれば機嫌も直るだろ。
知らんけど。
「それよりも、今日はどこに行くのか決まってるのか?」
今まではデートスポットの王道みたいなところを回ってきたけど、そろそろネタも尽きてきたはずだ。
つまりは、どこに行くのか全く読めないという事。
変なところに連れて行かれるという事もないだろうけど、一体どこに行くのやら。
「今日は少し遠出しようと思っています。ここから電車で二時間ほどかかるのでついてきてください。電車代はお出しします」
「それは別にいい。せっかく家庭教師の仕事を貰ったんだ。こういう時に使わないと意味がないだろ」
俺たちはすぐに駅構内に入って電車に乗る。
幸いなことに今日の電車は凄くすいていて座ることができた。
普段ならうざいくらいに様々な事を話してくる天城が今日は何故だか静かだった。
心なしか顔色が悪いように見える。
いや、気のせいかもしれないが。
普段も白磁のように白くて綺麗な肌をしているのだけど、今の彼女の白さは美しいというよりは病的な白さだった。
「天城、大丈夫か?」
「何がですか?」
「いや、なんだか顔色が悪くないか?」
「そんなことないですよ。宮野くんの気のせいです」
彼女はこちらを振り向かずに呟くように言うだけだった。
絶対におかしい。
普段の彼女であるなら、「私の事心配してくれてるのですか? 嬉しいです!」と満面の笑みを浮かべて喜ぶはず。
少なくともここ最近関わってきた天城乃々はそういう行動をとる女の子だった。
「気のせいならいいんだけどな。ちょっと失礼するぞ。セクハラとか言うなよ」
「え、ちょっと」
何か言おうとする天城を無視して俺は彼女の額に触れる。
熱い。
体感温度は38度くらいか?
思いっきり熱があるじゃないか。
こんなに熱があるのなら全然連絡してくれれば、中止にしたのに。
「はぁ。熱があるじゃないか。とっとと帰るぞ」
「い、嫌です。絶対に帰りませんからね」
「ダメに決まってるだろうが。無理やりにでも家に連れて帰るからな」
こんなに高熱を出してる病人を放っておくことなんかできない。
早く屋敷に戻して辻に任せた方がいいだろう。
どちらにせよ、まずはこいつを家に帰さなければ。
「い、嫌です。今日はせっかくの宮野くんとのデートなのに」
「そんなのは後日いくらでも付き合ってやる。体調が悪い時に無理してんじゃねぇよ」
駄々をこねる天城を何とか説得して先ほどまでいた集合場所である最寄り駅にまで戻ってきていた。
ここは天城の家の最寄り駅だから徒歩でも10分足らずで屋敷にお送り届けることができる。
「ほら、歩けるか?」
「……」
拗ねてるのか、本当に体調が悪化したのかわからない。
でも、返答がない以上あまり無理をさせるわけにはいかないか。
「ちょっと失礼するぞ」
「え!? ひゃっ」
天城を抱きかかえて屋敷まで向かう。
ここら辺は最近通いなれてるから迷う事もないし、天城は軽いからそこまで苦でもない。
今はこいつをベッドの上に寝かせないと。
「今日は普段よりも優しいんですね」
「そんなんじゃない。病人に気を使うのは普通の事だ。お前は変な事を考えなくていいから今はゆっくりしてろ。すぐに屋敷まで運んでやる」
できるだけ、体を揺らさないようにして屋敷までの道のりを進む。
いつも通っているはずなのに天才お嬢様を抱えているからか普段とは全く別の道を歩いている気分になる。
「やっぱり、あなたは変わってない」
「なんか言ったか?」
か細い声で何かを呟いたようだが、聞き取ることができなかった。
そもそも、今の言葉は俺に向けて放ったものなのか独り言なのか。
その判断もつかない。
「なんでもないです。それよりも、重くはないですか?」
「全然軽い。むしろ、もう少しちゃんと食べた方がいいんじゃないかと心配になってくるな」
これは本心で本当に彼女は軽かった。
羽のように軽いとまでは言わないが、そう言う例えが相応しいくらいには重みを感じなかった。
「なら、良かったです」
「そんなん気にしなくてもいいんだが」
「好きな殿方に抱き抱えられているのにそこを気にしない女性はいないと思いますが?」
「そーかい」
俺には理解できないが、天城が言うならきっとそうなのだろう。
そんな事はさておき、早く彼女を連れて行かねば。
俺は天城を屋敷に運ぶ事に意識を集中させて足を動かし続けた。
それから、数分で屋敷にたどり着くことができ辻に天城を託すことができた。
◇
「本日はお嬢様を連れてきていただきありがとうございました」
「いや、そんな風に畏まった礼は必要ないぞ。当たり前のことをしただけだしな」
「そう言うわけにも参りません。もし、陸斗様がいらっしゃらなければお嬢様が変な輩に連れて行かれると言う可能性もあったのです」
考えすぎな気がするが、確かに天城はお嬢様でこれだけの美人だ。
下手すると何か問題が起きていたと言うのはあながち間違っていないのかもしれない。
「気にするな。俺は自分のやりたいようにやっただけだから。それより、天城の様子はどうだ?」
「お嬢様なら、今は部屋でぐっすり眠っておられます。陸斗様が早めに連れてきてくださったおかげで大事にはならなそうです」
「なら良かったよ。じゃあ、俺は帰った方がいいかな? いる意味もないだろうし」
今日の予定は天城とのデートだけだ。
その天城がダウンしてるのなら俺は帰った方がいいだろう。
いつまでも、自分の家に男がいたんじゃ気も休まらないだろうしな。
「そういわけには参りません。お礼もまだしていないのに」
「だから、そう言うのは必要ないんだが……」
でも、辻の性格上このまま何も受け取らずに返してくれそうにないんだよな。
一体どうすればいいのか。
本当に何かが欲しいわけでもないし。
うーむ。
「ダメです。しっかりお礼させてください」
「じゃあ、一つお願いしてもいいか?」
「はい! 何なりとお申し付けください」
どうやら、俺がお礼を要求することが本当に嬉しいようで彼女は目をキラキラ輝かせて俺の方を見つめてきた。
「今度、俺と二人で遊びに行かないか?」
「ふぇ?」
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