第15話 メイドと買い出し
「買い物付き合っていただいて申し訳ありません」
「謝られることじゃないし。いつもご馳走になってるからこれくらいは任せてくれよ」
今日も今日とて辻に勉強を教え終わり、夕食にしようという所で辻が冷蔵庫に食材が全くない事に気が付いた。
車の運転手の方は既に家に帰ってしまったらしく、呼び戻すのも申し訳ないため辻が買い物に行くことになったので俺も同行している感じだ。
「でも、家でお嬢様と二人でくつろいでくださっても良かったんですよ?」
「流石に女の子一人に買い物に行かせて室内でくつろげるような人間性は持ち合わせていないんだ。それに買い物をするなら荷物持ちがいたほうがいいだろ?」
「それはそうなんですけど。陸斗様はお嬢様の想い人であらせられますし。なんだか申し訳ないです」
なんでこの子はここまでかしこまってくるのか。
俺が天城の思い人だからって理由が全てなのか?
だとしたらこの距離感が縮まることは永遠に無いんだが……
それは嫌だなぁ。
「マジで気にしなくていいんだけどな。俺は何の気兼ねもなく辻と関わりたいんだが」
「わたくしには難しいです。今までお嬢様の事しか考えてこなかったので。他の事を考えるのは」
少し俯きがちに彼女は語る。
きっと、過去に何かがあったのは間違いがないのだろうけど聞かない方が良いのだろう。
少なくとも、今の関係性では。
「君がそう言うのなら無理強いはしないけどさ。余裕が出来たらで構わないから、他のことも考えてみてみてくれ」
「はい。もし、わたくしの精神的な余裕が生まれたらその時は考えてみることにいたします」
どこまでもまっすぐ真摯に辻は告げる。
普通ならこういう時は適当に流すものだが、彼女はそんなことはしない。
いつも真っすぐに、見ている側が心配になるくらいに彼女は答えてくれる。
嬉しくはあるけど、いつか潰されてしまいそうで心配になってしまう。
「ありがとな。じゃあ、早く買い物を済ませて帰ろうか。あんまり遅くなると天城に怒られそうだ」
「ですね。急いで向かいましょう」
すっかり普段のメイドの顔に戻った辻はスタスタと先を急ぐ。
俺も彼女に遅れないようにしっかりと後を追う。
まさか。こんな美少女と一緒にスーパーに行くような関係になるとは思いもしなかった。
少し前の自分に教えたら、「そんなわけないだろ。頭大丈夫か?」とでも言ってきそうだ。
◇
「わたくし少しはお持ちしますよ?」
「大丈夫だ。これくらいなら俺一人で持てるし。せっかく荷物持ちとしてきたんだから持たせてくれ」
「そうおっしゃるのであればお願いいたします」
買い物を終わらせて俺たちは帰路を辿る。
ちなみにかなり買い込んでいてレジ袋の大きめの奴が二つパンパンになっている。
流石に重いが、持てないわけでもない。
というか、こんなに重い荷物を女の子に持たせるわけにはいかない。
俺のそんなちっぽけなプライドが両手の重みだった。
「やっぱり陸斗様は優しいですよね」
「そんなんじゃないって。いつも夕飯をご馳走になってるしこれくらいはしたいんだよ。優しさとかそんなんじゃない」
「お嬢様はそう言う優しいところをお好きになられたのでしょうか?」
「それを俺に聞かれてもな。そもそも、あいつなんで俺と結婚したいのか教えてくれないんだよ」
「それはわたくしもでございます。話せる時が来たら話すと言われました」
辻にも言っていないのか。
それほどまでに何か大切な秘密なのか、ただただ秘密にしたいだけなのか。
マジでわからん。
「辻もか。気になるよな」
「ですね。今までお嬢様がわたくしに秘密事なんてなさらなかったのに」
「ま、いつか教えてくれるだろ。俺たちは気長に待つしかないだろうな」
「もしくは、陸斗様がお嬢様とご結婚されたらいいのでは?」
確かに結婚したら教えてくれそうだけど、何度も言うが俺は好きな人としか結婚なんてしたくない。
家柄とか容姿とかそんなのどうだっていい。
一緒に居て幸せを感じられる人と一緒に居たいから。
「秘密を知りたいからって言う理由だけで結婚はしないな。俺はちゃんと相手を好きにならないと付き合う気もない」
「陸斗様も頑固ですね。お嬢様のどこがご不満なのですか? 従者の私から見ても素晴らしいお方だと思いますよ」
「不満があるから結婚しないわけじゃない。ただ単に好きじゃないからだ。もちろん嫌いって意味でもないけどな」
そもそも俺は彼女を好きになるほど人柄を知らない。
何が好きでなにが嫌いなのか。
普段はどんなふうに過ごしているのか。
彼女のプライベートな一面を俺は見たことが無いのだと思う。
常に俺によく見られようとしているというか、作り物っぽさがあるんだよな。
「そうですか。わたくしはお二人がご結婚されることを心から望んでいますよ」
「そりゃあ、天城の願いだからだろ。本当に辻は天城のことが大好きだよな」
「当たり前です。わたくしはお嬢様第一ですからね」
真っすぐな瞳でそう言い切る彼女のことを俺は素直にすごいと思った。
人のことをここまで第一で優先できる奴なんてそうそういないと思うし。
だから、天城は辻のことを一番に信用してるのかな。
「知ってるよ。じゃあ、そんなお嬢様のためにも早く帰らないとな」
「はい!」
俺たちは大量の食材を抱えながら急いで天城の待つ屋敷に戻った。
なんだか、今日だけは俺も使用人になったような気分で少しだけ面白かった。
辻とも、ほんの少しだけ距離が近づいたような気がするし、今日は進歩が多い一日だと俺は思う。
ちなみに、今日の夕飯は辻が気合を入れて作ってくれた麻婆豆腐であまりにもおいしくて感動した。
ちゃくちゃくと胃袋を辻に掴まれる今日この頃だった。
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