第11話 天才お嬢様のダークマター
「どうしてこうなったんだ……」
「わたくしがもっとお嬢様のことを注意深く見ていればこんなことには……」
俺と辻は二人して頭を抱えていた。
理由は簡単で天城が用意した料理? が丸焦げのダークマターのようになってしまっていた。
ここまでしてよくミスに気が付かなかったな。
天才でも苦手分野はあることがわかってなんだか少し安心してしまった。
「ふ、二人してそこまで頭を抱えなくてもいいではありませんか。そんなにひどいですか?」
「ひどいというか……なぁ?」
「はい。もはやひどいひどくないという次元の話ではありません。これを料理としてひどいとは評価できませんね。そもそも料理というカテゴリーに当てはめる事すらおこがましいというか」
「ひどすぎない!?」
天城は少し涙目になってしまっていたが、そういわれても仕方がないくらいにひどいありさまだった。
こんなことなら俺もしっかり天城のことを見ておけばよかった。
呑気に自分の勉強なんてしてるんじゃなかったな。
「ひどくなんてありません。それよりも、私が片づけますからお嬢様はリビングでおくつろぎください」
「いや、片づけ位は自分でするわ」
「そういうわけにはまいりません。お嬢様にお怪我を負わせるわけにはまいりませんし、何よりもこれ以上キッチンを大変なことにしないでください。この家にはわたくしとお嬢様しかいないのですから片付けるのは私なのですよ?」
ため息をつきながら辻は天城を諭す。
どうやら、辻は従順なメイドというわけではなく言う事はしっかりいうタイプのメイドの様だ。
「むぅ、確かに。なら、お願いするわね菫」
「お任せください。お嬢様と陸斗様はどうぞおくつろぎくださいね」
にこっと俺たちに微笑みかけてきて辻はさっそく作業に取り掛かっていた。
流石の手際で壊滅的だったキッチンが見る見るうちに元通りになっていっていた。
「菫の勉強はどうだった?」
「さすがに無理やで?」
リビングに置かれていた大きなソファーに座った天城は上品に座ってから真剣な表情で俺に問いを投げかけてくる。
めちゃくちゃまじめでここだけ切り抜けば頭のいい人が真剣に何かを話しているように見えるかもしれないが、先ほどのダークマターを見た後だとどうも印象が変わってしまう。
ポンコツな子が頑張って優秀な人間を演じているような違和感のようなものを。
「……何のことでしょうか?」
「だから、今更シリアスな感じにしようとしてもさっきの失敗は忘れられないぞって」
「忘れてください」
「無理でしょ。あそこまで派手に失敗して忘れろっていうのは無理な話だ」
あんな風に大失敗をした人間を見るのは今日が初めてかもしれない。
それも、天才お嬢様と言われている天城がだ。
なんだか、ギャップを感じるというか彼女でも失敗をするという事実に安心感を覚えるというか。
「ひどいじゃないですか。一度の失敗を一生引きずるおつもりですか?」
「だってそれくらいには衝撃的だったしな」
あんな真っ黒な謎の物体を見るのも生まれて初めてだった。
あんな原型をとどめていない漆黒の塊がもとは食材だったというのだから驚きだ。
「それはもういいじゃないですか。早く忘れてください。それよりも菫の話です。あの子の勉強はどうでしたか?」
「まあ、いいか。辻の勉強についてか?」
「はい。あまり心配はしていませんが彼女はしっかりやれそうですか?」
「しっかりやれそうも何もあそこまで呑み込みが早いのになんで今まで勉強ができなかったのか不思議なくらいだ、正直授業をちゃんと聞けば家庭教師なんかいなくてもすぐに成績は上位層に追いつくと思うぞ?」
それほどまでに辻は呑み込みが早かった。
一度行ったことはすぐの覚えてくれるし、その応用方法までも考えている。
あれだけできるのにどうして今まで赤点ギリギリなんかを取っていたのか。
謎で仕方がなかった。
「そうですか。なら安心です。これからも引き続き勉強を教えてあげてください」
「それは構わないが、そうしてあそこまで成績が悪くなったんだ? 地頭が悪いってわけでもなさそうだし、勉強が苦手とか不真面目とかでもないと思う。特別な理由でもあるのか?」
「特別な理由……というわけでもないんですけど、予測くらいでいいなら話せます」
「それでいいから聞かせてほしいな」
特別な理由が何なのかは知っておいたほうが今後関わるにしても、勉強を教えるにしても損がない。
関係を良好に築くためにも知っておきたいものだ。
「あの子は常に私のことを第一優先で考えてしまうんですよ。学校にいるときなどは特にね」
「……? どういうことだ?」
話しが見えてこない。
辻が天城のことを第一に考えていることは見ていてわかるけど、それと勉強ができないことにどんな関係性があるのか。
「あの子は学校で私のことを考えすぎるあまり、授業を全く聞いていないんですよ。だから、地頭はいいのに全く勉強ができない。まあ、そりゃあそうですよね。授業を全く聞いていないんですもの」
「……冗談だろ?」
全く持って意味が分からない。
いや、正確には言葉の意味は分かるのだけど脳が理解することを拒んでいる。
授業中に話を全く聞いてないから勉強ができない?
すごく当たり前のことだ。
ならば、授業を聞けばいいのでは?
「それが、本気で本当なのが彼女の怖いところですよね」
「他人事みたいに言うなよ。天城が何とか言えば授業をちゃんと聞くんじゃないか?」
「私もそう思っていってみたんですけど、もはや無意識レベルで私のことを考えているらしくて意味がなかったです」
どんだけ天城のことを慕ってるんだよ。
意味が分からんだろ。
いや、使用人が主人のことを思うのは大事なことだけどさ。
「じゃあ、なんで俺が教えたことは真剣に聞いてくれてたんだ?」
「それはこの環境でしょうね。家にいる限りまず私に危害が及ぶことがないですし。それに、一対一でちゃんと教えてくれるから身に入りやすいんじゃないでしょうかね」
「なんか投げやりだな」
「さすがにそこまで詳しくは私もわかりませんからね。でも、できるようになってくれるのなら私は安心ですよ」
慈愛に満ちた表情で天城はキッチンに立っている辻を見つめていた。
本当に天城は辻のことを大切に思っているんだなと伝わってくる。
「まあ、なるべく勉強をちゃんと教えるさ。仕事だしな」
「はい! 私は宮野くんの勉強もちゃんと教えるので安心してくださいね」
「助かる」
俺たちがこうして話しているとものすごくおいしそうな昼食を持った辻がやってきた。
この日は辻の手料理を食べて解散になったわけだけど、今まで一番おいしい料理だったことを記憶しておこう。
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