71話 最後の一文、そして──
世界は、静かに動き出していた。
真新しい風が吹き、未記述だった大地に草が芽吹く。
《世界名:ラスト・レコード》
《記述開始より:1分20秒経過》
まだ何も決まっていない。
だからこそ、この世界には無限の可能性がある。
「なあ、レイ」
カイルが空を見上げながら言った。「この世界……やり直せるってことか?」
「やり直しじゃない。ここからが、本番だ」
俺はそう答える。
ノーラは大地に魔法陣を描いている。
「この世界に、知識の記録を残していくわ。忘れられないように」
ルゼは子どもたちに絵本を読み聞かせている。
言葉は少ないけれど、その想いは誰より深く伝わっていた。
ノインは旅の記録を巻物にまとめていた。
「誰かの旅が、また誰かの勇気になるなら、それだけで価値がある」
ヒカリは、最後に記された光を塔へと変えていく。
「この世界が迷ったときに照らせるように」
そして、俺は筆を持つ。
これからの旅の記録は、まだ白紙だ。
だが、最後の一文だけは決まっていた。
──『この物語は、誰かの生きた証である』
《記録保存完了:オーサリア/リカレント・コード》
《“観測”と“記録”の循環が安定しました》
仲間たちと歩んだ道。
選び続けた記録の連なり。
それが、今ここに“生きた物語”として刻まれた。
──ありがとう。
そう心の中で呟いて、俺は空を見上げた。
物語は、終わらない。
なぜなら、記す者がいる限り──それは常に、続いていくのだから。
最終回です、ご覧くださいましてありがとうございました。




