70話 記す者たちと、世界の選択
≠NULLが消滅し、空間に静寂が戻った。
だが、それは“記録の終わり”を意味しない。
むしろここからが、“世界をどう記すか”という最大の問いだった。
「……白紙に戻った世界。これから何を記す?」
カイルの問いに、沈黙が落ちる。
「未来を、記すことはできる。けど、それは“誰の手”によって?」
ノーラが言った。
ルゼが前に出る。そして一枚の記録紙を差し出した。
《記述台起動:継承記録》
《記述者指定可能:多数決式・意志投影型》
「じゃあ、俺たち全員で……未来を記そう」
レイが静かに筆を取り、皆に手渡す。
まず、カイルが笑って書く。
──『仲間と笑える世界でありますように』
次にノーラが、迷いなく記す。
──『誰も見捨てられない、そんな記録を』
ノインは黙って、ただひとこと。
──『知を継ぐ』
ルゼは静かに、震える指で書いた。
──『言葉は少なくても、届く記録を』
ヒカリは涙をぬぐいながら。
──『光の中で、何度でも立ち上がれるように』
そして最後に、レイ。
──『俺たちは、選ばれたわけじゃない。選び続けたんだ。だからこの世界に、生きる価値があると、記す』
記録が共鳴し、空間に巨大な世界樹のような“記述構造”が立ち上がる。
《記録統合完了:新世界コード生成》
《世界名:ラスト・レコード──最終の記録》
「……これで終わりか?」
カイルが言う。
「いや、ここが始まりだ」
レイは筆を置く。「これからは、誰かじゃなく、皆が記述者になるんだ」
静かに、世界が再起動していく。




