68話 最終記録への鍵と、選ばれし書体
反記述領域の扉が音もなく開かれた。
その先に広がるのは、何も書かれていない──完全なる白紙の空間だった。
「これは……記録される前の、“初期世界”だ」
セラの言葉に、俺たちは息をのむ。
《識別:ゼロ・リファレンス空間》
《状態:記述許可待ち》
「この空間に、私たちが何を記すかで……未来が決まる」
ヒカリが、掌をそっと広げる。
その中心に、小さな光の断片が浮かんでいた。
“希望”、“過去”、“意志”、“選択”──これまでの旅で得た全てが、ひとつの核となっている。
「最後に記される“最終記録”……それを書けるのは、レイ。あなたしかいない」
皆が俺を見ていた。
ノーラも、ルゼも、ノインも、カイルも。
あのアミナですら、微笑んでうなずいている。
俺は静かに頷いた。
「だったら……書くさ。全てを記す。俺たちがどう生きたか、その証を」
《スキルガチャ:ラスト・インストール起動》
《分類:最終記録構成要素/出現条件達成済》
──排出結果:《スキル・オーサリア》獲得
《効果:物語そのものの“語り手”となり、あらゆる記録と構造を書き換える権限を得る》
「このスキル……世界の“書き手”になるってことか」
その瞬間、空間の中心に巨大な書台が現れた。
“終末の書板”──これに記された記録が、世界の未来を定義する。
だがその背後、白紙を侵すようにして“黒”がにじみ出す。
「やはり来たか……≠NULL」
空間を包囲するように、中枢構造体とその守護兵が出現した。
そして、再び姿を現したのは、アクシア・NULLだった。
「記録は、制限されるべきです。無限の可能性は、混乱を生む」
「違う。記録は選ぶものじゃない、“残すもの”だ」
俺は静かに答えた。
「ならば、最終の問いを……記す資格があるか、証明してもらいます」
アクシアが手をかざすと、空間が変容し始める。
最終決戦にふさわしい、“記述そのものを巡る戦場”が現れた。




