62話 写本騎士と、断章の記録
激闘の最中、≠NULLの戦争写本級──異形の騎士は、言葉ではなく記述によって攻撃してきた。
空間そのものに文字が刻まれ、構文と構造で構成された攻撃が降り注ぐ。
「これは……戦闘じゃない、“上書きだ”!」
セラが叫ぶ。
「奴らは、空間そのものを再定義して、私たちの存在を塗り替えようとしてる!」
「なら、こっちも書き足せばいい」
レイが冷静に応じる。
《スキル使用:リカレント・コード》
《記述対象:戦闘空間》
──『侵食される構造に、拒絶の余白を挿入』
──『我々の存在は“削除不能”と記録する』
書き換えられていた足場が再構成され、仲間たちの位置が元に戻る。
「レイ、左翼の記述が崩れてる!」
ノーラの指摘に、ノインが跳び込む。
「転位魔法!」
ノインが崩壊寸前の足場に新たな記録を刻み、その場を支える。
その間に、ヒカリが結界を展開。
「光の干渉記録──“私たちが確かにここにいる”って、照らし続けて!」
カイルの剣が閃き、騎士の片腕を切り裂く。
「おい、記録騎士って言っても、普通に斬れるじゃん!」
「斬れるのは、“矛盾した記述”だけよ」
セラが説明する。
「今のカイルの一撃は、“この存在は矛盾してる”っていう記録と共鳴してたの」
「つまり、無理やり存在してる奴は、俺の剣で消せるってわけだな!」
戦いの中、レイは再びガチャ端末を呼び出す。
《スキルガチャ起動》 《分類:応戦用即時適応型/記録衝突環境》
──排出結果:《スキル・オーバーロード》獲得 《効果:現在発動中スキルの“記録強度”を最大化する。ただし使用後、一定期間すべての記録干渉スキルが使用不能》
「……短期決着を狙うなら、ここだな」
《スキル発動:リカレント・コード+スキル・オーバーロード》
レイの文字列が、空間全体に焼き付くように展開する。
──『我々は記される者。削除されず、消去されず、断章の隙間にさえ残り続ける』
戦争写本級の騎士が悲鳴のような記述を残して崩れ落ちた。
空間が静かに明滅する。
《記録確定:戦争記述抗争──“断章の戦場”勝利》
戦いは終わった。
だがその余波として、次なる“記録の権限者”が動き出している気配がある。
俺たちはまだ、“最終の記述”にすら辿り着いていない。
だが確かに、すべての戦いが、文字となって残り始めていた。




