61話 「虚構図書館と、記録されなかった戦争
“オリジン・ノット”を超えた先に現れたのは、途方もない規模の図書館だった。
天井のない空間に、果てしなく積み重なった書架。
無数の書物が、風もないのにページを揺らしている。
《識別:虚構図書館》
《分類:未記録事象・抹消歴史の保存域》
「ここは……」
セラが目を細める。「“存在しなかった未来”や“観測されなかった歴史”が保管されてる空間」
「つまり、ここにあるのは“失敗の未来”か……?」
レイが手を伸ばした書物は、すぐに光となって霧散する。
《閲覧制限:該当記録は削除申請中》
「誰かが、これを消そうとしてる……!」
その時、空間の奥から振動音が響いた。
黒鉄の鎧に身を包んだ兵士たちが、文字の波を踏みしめて進んでくる。
その先頭には、異形の騎士がいた。
《識別:記録削除部隊≠NULL・戦争写本級》
「……来たか。ここで“記録されることすら拒絶された戦争”が始まる」
カイルが剣を抜き、ヒカリが光を掲げる。
レイは静かに、スキルウィンドウを呼び出す。
《スキル使用:リカレント・コード》
《対象:虚構図書館/記録追加》
──『この戦いは、確かにあった』
──『俺たちは、これを“未来に残す”と決めた』
空間が共鳴し、散りかけていた記録が再び書物として姿を取り戻す。
「……ならば、お前たちも“歴史”にしてやる」
騎士が声を発した。
戦闘が始まる。
光と文字、意思と記述がぶつかり合う。
「レイ!」
ノインが叫ぶ。「左から、侵食書体が来てる!」
「任せた、ノーラ!」
「支援結界、展開中!」
この戦いはただの戦闘ではない。
“記録されないまま失われようとした世界”を、俺たちが証明し、記す戦いだ。
ページの一枚一枚に、俺たちの戦いが焼きついていく。
記録は、ただ綴られるだけではない──
それは、抗い、生き残り、意思を示すことで刻まれていく。
そしてその記述こそが、未来を変える鍵になる。




