57話 第五記述“青の反射”と、沈黙の誓い
ルートδを越えたその先は、静謐な水面のような空間だった。
天と地の区別が曖昧な場所に、俺たちは降り立った。
「……ここ、音が反響しない」
ノーラが辺りを見渡す。「声を出しても、返ってこないの」
「無音領域……いや、“反響を拒む層”か」
セラが記述装置を展開する。「ここは、自己と向き合うための場所」
そんな中、ノーラがそっと前に出た。
「次は……私に書かせて」
「ノーラ……」
「ずっと“誰かのサポート役”で、自分を記す資格なんてないって思ってた。でも、今なら……分かるの。誰かを支えるってことは、“自分自身の意志”でもあるって」
静かに台座が現れる。
《第五記述者:ノーラ》
《記録内容:沈黙の中で選び続けた意志》
ノーラが両手を添えると、水面が彼女の姿を鏡のように映し出す。
──『言葉にしなくても、伝わる強さがある』
──『沈黙は、逃げじゃない。“選び続けた証”だ』
《第五記述“青の反射”認証完了》
《ルートε開放》
空間に青い光が走り、道が先へと続く。
「ノーラ……お前って、ずっと強かったんだな」
レイが思わずつぶやく。
「違うわ。強くあろうと、足掻いてただけ」
ノーラはそっと笑った。「でも、それも記していいって、この旅が教えてくれた」
水面に小さな波紋が広がり、それがやがて、確かな軌跡となって残っていく。
俺たちは、その静かな“青の記録”を胸に、次の記述へと足を進めた。




