51話 セカンドの審問と、未来の投影体
イグナート・セカンド──それは、≠NULLが未来の中枢に置いた代理観測者。人の形をしているが、その存在は“選ばれなかった未来”の集合体に近い。
「観測者レイ。あなたに問います」 セカンドの瞳が、こちらを正確に捉える。 「なぜあなたは、“確定された未来”を壊そうとするのですか」
「……未来ってのは、決まってたら面白くないだろ」 レイは言う。「選べるってことが、俺たちの唯一の武器なんだ」
「選択は同時に“責任”でもあります」 セカンドが手を上げると、空間に複数の未来映像が投影される。
──都市が焼け落ちる未来。 ──仲間が失われる未来。 ──≠NULLが完全支配した静寂の未来。
「これらはすべて、“あなたの選択の延長線”にあるものです」
ヒカリが口を挟む。「そんなの、誰にも分かるわけない……でも、私たちは選ぶしかない」
ノーラがうなずく。「だからこそ、観測者は孤独で、強くなければならない」
「……分かってる」 レイがゆっくり前に出る。 「だから、俺たちで決める。“この世界の未来”を」
セカンドが一歩退いた。 「その意思、確認しました。では次の段階へ進みましょう」
空間が震える。 周囲の扉が次々と閉じていき、残るはひとつ──“未来確定領域”と呼ばれる扉。
《転送座標:セントラル・フォーマット層》
《分類:確定された未来の記録保管域》
「そこには、あなたたち自身の“未来”が記録されているはずです」 セカンドが告げる。「見ることを選ぶかどうかは、あなたたち次第です」
レイは少し考えてから、静かに言った。 「……見ない」
「なぜですか?」
「そんなもん、見ちまったら選べなくなる」 レイの目に、確固たる意志が宿る。 「未来は、歩いて決めるもんだ」
セカンドは一瞬沈黙し、それからわずかに微笑んだ。 「それもまた、“選択”です」
門が開かれる。 その先には、記録と選択、世界の収束点が待っていた。
そして俺たちはまた歩き出す。未来を、誰かの決定ではなく──自分たちの意志で選ぶために。




