48話 零地点起動と、刻まれた原初コード
アーカイヴ・リヴァース──その内部は“記録が始まる直前の世界”だった。 空間全体が、言葉にならないざわめきで満ちている。
「……空も地面もあるのに、どこにも“確定した情報”がない」 セラが慎重に空間をスキャンするが、返ってくるのは“未定義”の連続だった。
《空間認識:仮定構造》
《情報層:原初コードと同期中》
「つまり、ここでは“観測したものが記録される”ってことか」 俺は口にする。
そのとき、足元の地面が震えた。 全員の視界に、唐突にガチャUIが浮かび上がる。
《イベントスキルガチャ:アーカイヴ限定》
《条件達成:零地点到達》
《現在の観測者:レイ》
「……なんで今このタイミングで!?」 カイルが半笑いで叫ぶ。「どんだけ世界とリンクしてんだよお前!」
ノーラが目を細めて言った。「この場所……世界のすべての“可能性”が交差してる。 だから、ここで引くスキルは……きっと“特別”」
俺は、無言で【引く】を選択した。
──ガチャ演出が空中に舞う。 星が砕け、コードの文字列が回転し、空間が淡く光る。
《スキル獲得:コード・アーカイヴΩ》 《分類:構造書換型・単発展開式》 《効果:対象の“観測された事象”を一度だけ巻き戻し、再定義できる》
「……これは、スキルというより、“世界の編集権”じゃねぇか」 カイルが本気で引いていた。
「一度だけ……ってのが、重いわね」 ノーラが呟く。
俺は静かに、スキルウィンドウを閉じた。 (いつ使うか。それはまだ、分からない)
ふと、ノインが立ち止まった。 彼の視線の先、空間が歪み、“観測拒否領域”が生まれていた。
「……あそこ、誰かいる」
霧の中から、ふたつの影が歩み出る。 ひとつは、黒衣に身を包んだ女。 もうひとつは──俺自身。
「……まさか、これって──」
「うん」 ノーラが断言する。「おそらく、“もしレイが≠NULLに与していたら”という可能性」
俺は目を細めた。 スキルガチャによって得た力。 観測と記録の意味。 そのすべてが、いま問い直される。
──“もうひとりの俺”は、無言でこちらを睨み返していた。
この対峙が、次の扉を開く鍵になる。




