32話 共存定義と、鏡面の彼方
スキル《共存定義〈デュアル・リアリティ〉》が発動した瞬間、世界が二重に揺れた。
視界が二層に分かれ、俺と影のレイ、ふたりの存在がそれぞれ“同時に正しい”状態へと書き換わっていく。
《存在確定中……》
《パラレル構造受容体、安定化進行》
ミラー・コアが初めて反応した。 その全身が軋むようにうねり、構造を修正し始める。
「……拒絶。観測不能構造の強制安定化は、記録理論に反する」
「なら、お前の“理論”を壊す!」
俺と影のレイ、ふたりは同時に跳びかかる。 動きは完全に同期している。ふたりでひとつの軌道を描き、ミラー・コアに双方向から斬撃を加える。
「《ダブル・レゾナンス》」
剣が交差した瞬間、スキルが共鳴した。 《虚数再構築・断層転写》と《残響型スキル・断面接続》が融合し、空間を縫い裂くような閃光が走る。
「この力は、“どちらも選ばなかった世界”が生んだ答えだ!」
ノーラが結界を外し、周囲の因果干渉を制御。カイルがその隙に重力場でコアの足元を縛り、セラとヒカリが反射干渉を逆手に取ったサポートを展開する。
「もう逃げられねぇぞ、鏡野郎!」
ミラー・コアの身体が音を立てて砕け始める。
《存在定義:上書き不能》
《並行受容:認定》
《構造体“ミラー・コア”、記録破損により自壊》
その最後、ミラー・コアは小さくつぶやいた。
「矛盾が……肯定された……か……」
空間が一度だけ、優しく光った。
すべてが静かになったとき、影のレイは俺の前に立ち、ふっと笑った。
「……少しだけ、救われた気がする」
「俺もだ」
ふたりの視界が重なり、次の瞬間、影のレイの身体は光となって俺の中へ溶け込んでいく。
《転写体 統合完了》
《スキル統合:残響定義/自己干渉許容モード 解放》
「……これが、俺たちの“次の姿”か」
仲間たちが静かに見守る中、俺は新たな感覚を抱いていた。
誰かを否定せずに生きること。 それは、戦いよりも難しい選択だ。
でも、今ならできる。
「さあ……帰ろう。次の未来へ」




