31話 未定義存在・ミラー・コアの介入
空間が軋むような音を立てて、姿を現した“ミラー・コア”。 それは人型のようにも、液体のようにも見える異形だった。 全身が鏡のように光を反射し、視線を合わせるだけで意識が混濁しそうになる。
「こいつ……俺たちの存在情報を“写してる”」 ノーラが青ざめた声で言った。
セラのスキャンが応える。 《構造認識:反射型定義吸収体》 《ミラー・コア──観測された記録情報を転写・模倣・構築可能》
「つまり……戦ったら、俺たちのスキルが相手のものになるってことか」 カイルが唇をかみしめる。
「それどころじゃない。これは、“記録を食って生きる”存在だ」 俺の《虚数再構築》が警告を発した。
《危険:統合準備中の転写体が対象に吸収される恐れあり》
影のレイがわずかに身を引いた。「……あいつ、俺の存在を“記録ごと”食おうとしてる」
ミラー・コアが音もなく手を広げる。そこには俺と影のレイ、双方の姿が重なって映っていた。
「……“本物”を決めさせようとしてる?」 ヒカリが震える声で言う。
「否。これは“存在の選別”だ。記録者すら裁けないものを、強制的に定義へ帰属させる構造体」 セラの声にも緊張が走る。
「選ばせねぇよ……俺たちは、全部背負ってここにいるんだ!」 カイルが前に出ようとしたその瞬間、ミラー・コアが口を開いた。
「──定義せよ。 存在の矛盾に価値なし。選定を要求。原本か、影か」
世界が、一瞬で静まり返る。 まるで、この瞬間だけ“時間が選ばされている”ような感覚。
俺は剣を握った。
「どっちが原本でもいい。どっちが影でも構わない。 “両方が存在していい世界”を、俺は選ぶ!」
スキルガチャが起動する。 《緊急抽選モード:存在矛盾耐性抽出》
──スロットが走る。
《取得スキル:共存定義〈デュアル・リアリティ〉》 《効果:並行構造体の同時存在を許容、観測者干渉を抑制》
「いくぞ……これは、選ばれなかった俺たちの世界の、選び直しだ」
次の瞬間、ミラー・コアとの戦いが始まった。




