30話 鏡合わせの戦場と、綻びの記憶
霧の中、俺と影のレイは何度も剣を交えた。
──音が、重い。 どの一撃も、俺自身の癖とリズムをなぞってくる。まるで未来を見透かされているような錯覚。
「なあ、お前は……」 俺は一瞬、距離を取って問いかけた。「何がしたいんだ。俺を倒したいのか? それとも、証明したいのか?」
影のレイは答えない。ただ、その目に深い虚無と、焦がれるような感情を宿していた。
「……選ばれなかった者にも、存在の意味はある。 俺は、書き換えを拒んだ“欠片”だ。 お前の中に入れなかった『後悔』と『怒り』の塊……」
その言葉に、俺の胸が妙に痛んだ。
ノーラが外から結界を張り続けている。 「この構造、戦ってる二人が“同じ位相”で揺れてる……! どちらかが崩れれば、もう一方も──」
「共倒れってことか」 カイルが地面を踏み鳴らす。「なら、勝つしかねえだろ」
セラが冷静に補足した。「影のレイは≠NULL由来の断片を核に再構築されています。構造を壊せば、残留定義も消えます」
「だとしても……」 俺は息を整え、剣を下ろす。「お前の言う通り、俺には後悔がある。怒りもある。 だけど、それを“人にぶつけること”で救われたいなんて思ってない」
影のレイの剣がわずかに揺れた。
「……なら、どうする。消すのか、俺を」
「消さない」 俺は剣を背に戻した。 「その苦しみは、俺の一部だ。否定するんじゃなく、“認めて”前に進む」
霧の中、空間が震える。
《干渉レベル変動:転写体との同期発生》 《統合フラグ検出》
ノーラが驚く。「まさか……融合する気!?」
「統合できるなら、それが一番だ」
俺と影のレイが、静かに歩み寄る。
──その瞬間、空間が割れた。
《警告:外部構造体の干渉を検知》
《識別:未定義コード……構造名『ミラー・コア』》
俺たちの前に、別の“何か”が現れる。
それは影でも、レイでもなかった。 あまりにも滑らかで、冷たい存在──第三の視線。
「……やっぱり、誰かが“見ていた”か」
物語は、さらに深く“記録の闇”へと潜っていく──。




