27話 再定義の余波と、影の記録者
数日が過ぎ、新たな世界に人々は順応し始めていた。 スキルの暴走は収まり、街には市場の声が戻りつつある。
俺たちは小さな宿に拠点を移し、地図にも載っていなかった地域──“ラグスト丘陵”の調査依頼を受けていた。
「これ、ただの再建支援じゃないわね」 ノーラが報告書を指差す。
「丘陵一帯の土壌コードに、≠NULL由来の断片……?」 カイルが眉をひそめた。
ルゼは静かに呟く。 「残滓が、揺れてる。“誰かが見てる”感じがする」
俺の《虚数再構築》も反応を示していた。
《解析:残留コード/分類:非攻性/識別不能記録媒体》 《観測記録:エラータグ付き構造体『観測者』の存在を検出》
「観測者……?」
そのときだった。宿の外から、奇妙な気配が流れ込んでくる。
階段を下りると、そこにはフードを被った人物が立っていた。 手には古い巻物──否、スキルコードを転写した古文書。
「……君たちだな。“世界を書き換えた者たち”」
その声には、人間とも機械ともつかぬ奇妙な音が混じっていた。
「私は“記録者”。観測の義務に従い、この世界の変化を追っている」
「≠NULLの残党か?」 カイルが警戒を滲ませる。
「否。≠NULLすら記録対象に過ぎない。“構造の観察者”……そう呼ぶと分かりやすいか」
その目が、俺を見据えた。 「だが、今や君たちこそが“観測対象”となった。存在そのものが、記録と矛盾している」
──新たな影。
≠NULLなき世界においてなお、“全てを記録し続ける者”。 その視線の先には、まだ知られざる領域が広がっていた。
「君に問いたい、相澤レイ。君の選んだ未来は、果たして“観測に耐える意志”を持つか?」
俺は静かに息を吐いた。
「なら、確かめてみろ。“生きる”ってやつの、続きを」




