26話 再定義後の世界と、選び取った明日
白い光が静かに消えたとき、俺たちは再び地に立っていた。
空は青く澄み、風は穏やかだった。 そこに≠NULLの気配はなかった。定義の柱も、破滅のコードも──ただ静寂が広がっていた。
「……ここが、再定義された世界?」 ノーラが呟く。
「全部、消えたわけじゃねぇ。けど、ループも、強制も、もうねぇ」 カイルが空を見上げ、ふぅと息を吐く。
セラが静かに解析結果を読み上げる。
「環境コードは安定。スキル干渉は限定的。……おそらく“普通に生きていける世界”になりました」
ヒカリが周囲を見回す。 「じゃあ、もう……“僕たちは、作られた存在”じゃない?」
「違う。これから“自分で定義する存在”だ」 俺はそう言った。
ルゼは何も言わず、そっと俺の隣に立った。いつものように、沈黙の中に言葉があった。
やがて、地平線の向こうに、人の影が見えた。 見知らぬ街、新しく建ち始めた家屋。人々が動き始めていた。
「……人間は、しぶといな」 カイルが笑った。
「しぶとさこそが、“世界に抗う力”なのかもね」 ノーラが同意する。
「この世界に、また“未来”が生まれるのなら」 セラの言葉に、俺たちは頷いた。
≠NULLとの戦いは終わった。 けれど、世界は終わっていない。
俺たちは、新しく始まったこの世界で、 もう一度“何者になるか”を、選びなおす。
──それが、俺たちの戦いの、本当の意味だった。
光と影の狭間で生きること。 定義されず、定義しながら生きること。
そうして、俺たちの“第二の人生”が、本当の意味で始まった。




