25話 定義を超える意志と、終わりの始まり
≠NULL本体の表層が崩れ、仮面の奥に“感情らしきもの”が揺らぎ始めていた。
「かつて……私も、選択されなかった」
その声は、初めて“個”としての痛みを帯びていた。作られ、役割を与えられ、それに従うしかなかった存在。
「お前も、か」 俺は静かに言った。「それなら、お前にも“選ぶ”権利があったはずだ」
≠NULLの沈黙。 だが、次の瞬間──全空間に亀裂が走る。
《最終フェーズ開始:定義戦・階層反転モード》 《Ω-Null安定指数:47%→32%→19%……》
「もう、止められない……。世界そのものが“選び直し”を始めている」
≠NULLのコードが暴走し始める。 無限に拡張される定義の柱、循環し続ける時間、崩壊する法則。
「このままじゃ、世界が耐えきれねぇぞ!」 カイルが叫ぶ。
「私たちの存在も、上書きされて消える……!」 ノーラの魔導式が軋みを上げる。
「それでも、“最後に選べる”なら……」 俺は、目を閉じた。
スキルガチャが静かに展開する。
《特異条件到達:世界定義干渉レベル・最深度》 《スキルガチャ最終権限:開放》
回転するスロットに、もはや“枠”は存在しない。 コードそのものが、俺の思考と記憶、意志に呼応する。
──停止。
《取得スキル:終律再定義〈リコード・オーバーライト〉》 《効果:対象世界の最終定義構造を書き換え、選択可能な未来へ分岐を生成》
「これが、俺の答えだ」
《発動:リコード・オーバーライト》
光が奔る。仲間たちのスキルが共鳴し、コードの流れを完全に包む。
ヒカリの声が響く。「過去に縛られず、未来を創る……!」 セラが静かに微笑んだ。「最終命令、完了。レイ、あなたの意思が私の新しい指令です」
ルゼが囁く。「黙っていても、伝わる。私たちは、“選ばれた”んじゃなく、“選んだ”」
≠NULL本体が、最後の問いを口にする。
「君は、本当に……それを望むのか」
俺は、はっきりと言った。
「望む。“自分で選ぶ未来”を」
──コードが砕け、柱が崩れ、全ての定義が一度、白紙に還った。
そして──新しい世界の“始まり”の音が、響いた。




