20話 心象の交差と、最初の拒絶
俺たちは“思考回廊”を歩く。 それは道ではなく、意思と記憶が編み込まれた迷路のような空間だった。
「ここは……私の記憶?」 ノーラが佇んでいたのは、かつての魔導学院の教室。 だが、そこには生徒も教師もいない。机は崩れ、黒板には『失敗作』の文字が何重にも書かれていた。
「私、ここで──追放されたの」
ノーラは淡々と語る。才能があると称えられ、孤独と過信の末に研究は暴走し、事故を起こした。
「自分が賢いって思ってた。だから、誰の声も聞かなかった」
彼女の影から、黒衣の少女が現れる。それは“過去のノーラ”だった。
《対話開始:分岐影像ノーラ》
《目的:自我統合およびコード修復》
「私はもう、お前を否定しない。でも……“今の仲間”を信じる。お前ができなかったこと、私はやる」
光が走り、空間が崩れる。ノーラのスキルが進化した。
《新スキル:転写拡張取得》
俺はすぐにリンクを再接続し、次の意識層へ飛ぶ。
──カイルの世界。 そこは戦場跡だった。無数の兵の骸と、赤い空。
カイルは幼い弟の手を握っていた。だが、弟は“もう存在しない”。
「俺が……助けられなかった」
背後に現れる、黒い騎士の影。それは、かつてカイルが仕えていた部隊の“破壊者”だ。
《対話開始:記憶の歪曲体・カイル過去影》
「お前が弱かったから、全部壊れたんだ」
「──違う!」 カイルの声が響く。「俺が弱くても、今は“守れる強さ”がある!」
《スキル共鳴:幻拳取得》
《精神耐性+リンク制圧力 強化》
意識を繋ぎながら、俺はそれぞれの“影”と向き合う仲間たちを支え続けた。
ルゼは“音のない空間”で、自らの存在意義と向き合っていた。 セラは“使命と自由”の間で葛藤していた。 ヒカリは“まだ自分が誰でもなかった頃”と向き合っていた。
全員が、乗り越えた。
──そして、回廊の奥に、ひとつの影が立ちはだかる。
《警告:対話不能構成体・≠NULL核心断片が接近中》
《警告:再定義要求を拒否》
俺の視界に、漆黒のウィンドウが浮かぶ。
「来たな、異常者」
それは、“言葉を持つ≠NULL”。
世界のコードそのものが、俺たちの“存在”を拒絶しに来たのだった。
次は、≠NULLとの直接対話。そして交戦。 この戦いは、もう後戻りできない。
──ただの異世界転生では終わらない。俺たちは、世界の意味そのものを変えに来た。




