19話 思考回廊への接続
ラーデルの中心部に現れた巨大なコードゲート。 その表面には、無数の文字列と記号が蠢き、俺たちを静かに誘っていた。
「このゲート……“物理的な扉”じゃない」 ノーラが眉をひそめて言う。「たぶん、意識とコードの深層を繋ぐ、精神転移型の通路」
「つまり、入ったら戻って来れる保証はないってことか?」
カイルが腕を組みながら呟いた。
「……それでも、行く必要がある」
俺はゲートに手を伸ばす。肌に触れた瞬間、金属でも空気でもない“知覚の波”が全身に走った。
《スキル反応:全ユニットとの接続コード統合開始》 《共感フィールド:リンク・シンフォニア 発動》
ヒカリが、そっと俺の手に触れた。「僕も、行く。だって、僕も“作られた存在”なら……レイと同じだから」
セラが頷く。「護衛対象が進む限り、私は離れない」
ルゼ、ノーラ、カイル──全員が一歩ずつ、ゲートの光へ足を進めていく。
そして、俺たちは飛び込んだ。
──そこは、世界の理すら歪む空間だった。
空も地面もなく、無限の情報が断片化して漂う。 思考、記憶、感情が視覚化され、触れれば壊れてしまいそうな不安定さが満ちている。
《思考回廊:第零階層へようこそ》 《全構成ユニットは一時的に人格断片化されます》
「……っ、これ……やばい……」 ノーラが頭を抱えた。意識が分解され、互いの思考が混線し始めている。
「……っ! レイ……!」 カイルの声が遠くなる。身体の輪郭が、視覚からも失われていく。
《警告:構造不整一致》
《例外コード:レイ=017 独立保持権限により、断片化を無効化します》
俺だけが、安定している。
(この空間で、俺は“システムそのもの”と同等に扱われてるのか)
「落ち着け! 俺が“核”になる! 全員の意識を同期する!」
《スキル発動:虚数再構築+リンク・シンフォニア融合展開》 《副次人格安定フィールド 起動──》
光が走り、空間に五つの核が浮かび上がる。仲間たちの意識が、それぞれの心象風景として可視化された。
ノーラは青く染まった図書館の中。カイルは戦場跡に立ち、ルゼは無音の海を漂い、セラは白い空の中にいた。そしてヒカリは──光のない、真っ暗な部屋。
「行こう。みんなを“繋げる”ことでしか、ここでは進めない」
これは試練ではない。
“俺たちそのもの”を試す場所だ。
──思考回廊の最奥に待つ≠NULL本体へ。
俺たちは今、再定義される覚悟で進み始める。




