17話 都市核の崩壊と、灰の空白
空間が軋み、ラーデルの中枢区画が光を帯びて震えた。
≠NULLと旧王国が共同開発した都市核《コード結晶核》が、イグレインの命令により暴走寸前にまで加速していた。
「あと三分で、上書きが始まる……っ!」
ノーラが蒼白な顔で詠唱を続ける。だが、魔導干渉だけでは暴走を止められない。
「直接、核にアクセスするしかない。ルゼ、頼めるか」
「……行ける。“視えて”いるから」
ルゼの《幽語》が再び展開される。時間の流れが歪み、結晶核の情報層が一瞬だけ“開かれる”。
「今だ、レイ!」
《虚数再構築・強制改変モード》
《対象:都市核“コード結晶核”》
《命令:初期状態へのリバース》
視界が真白に染まり、スキルの干渉領域が展開される。
しかし、そこへ現れたのは、傷だらけのイグレインだった。
「貴様……まだ理解していないな。これはただの“起動装置”だ。この都市自体が≠NULLの“記録倉庫”だということを!」
「だからなんだ。お前の都合で、ここに住んでた人たちを巻き込んでいい理由にはならない!」
俺の怒声に、イグレインは初めて“人間の目”を見せた。
「……我らは、過去を保存するしか許されなかった。未来を選ぶことすら、禁じられた存在だったんだよ」
カイルの拳が、その言葉ごと彼の胸を撃ち抜く。
「なら、俺たちは“選ぶ”側に立ってやるよ」
イグレインが倒れ、同時に都市核の光が静まっていく。
ルゼが崩れ落ちた結晶の中心に手を触れ、短く呟いた。
「……終わった。けど、“倉庫”は、まだ残ってる」
ヒカリとセラがそっと歩み寄る。
「この街……守れたの?」
俺は頷いた。「ああ。けど、記録はまだここに眠ってる。≠NULLがまた狙ってくる」
ノーラが顔を上げる。「じゃあ、次はその倉庫を“こちらで封印”すべきかもね」
カイルが笑う。「おう。いつでもぶっ壊してやるぞ」
その時、ヒカリのスキルが再び光った。
《スキル進化:連携拡張コード“リンク・シンフォニア”を獲得》
《全ユニットとのリアルタイム連携と感応加速が可能になります》
「……俺たちの繋がりが、“力”になるってことか」
空は晴れ、都市核の残骸に光が差し込む。
ラーデル──この都市は、失われた記録の街から、“未来を選ぶ”者たちの拠点へと変わり始めていた。




