16話 灰騎士団の残響と、鍵を握る者
戦いは熾烈を極めた。
灰騎士団の兵たちは、かつての王国軍の誇りを捨て、≠NULL由来のコードと融合していた。人ならざる力を得る代償に、彼らは感情を削り、思考を削り、命令だけに従う存在となっていた。
「こっち、囲まれるぞ!」
カイルの叫びに、ノーラがすかさず詠唱を終える。
「──《幻光結界・斜層式》!」
光の壁が縦横に展開され、敵の突撃を寸断した。そこにルゼが無言のまま《幽語》を発動。空間全体に“恐れ”のコードが染み出す。
「……撤退命令を上回る、存在拒絶反応」 ノーラが驚きの声を上げた。「幽語が、命令系統ごと破壊してる……」
しかし、敵の指揮官はまだ健在だった。
「我が名はイグレイン。かつて王に仕えし第一魔導将。今は≠NULLに再定義された者だ」
イグレインは崩れた教会の柱を背に、右腕を掲げる。そこから浮かび上がる光の紋章──“鍵”の形をしたコードシンボルだった。
《コードキー:α-Prime》
《用途:都市機能制御権限の奪取/外部干渉遮断》
「……この都市、まさか≠NULLに再構築される前の“管理区”だったのか?」
俺は息を呑んだ。
「正確には、旧王国が“≠NULLと共同開発していた中継都市”だ。お前たちが介入したことで、予定が前倒しになっただけだ」
イグレインの口調には、機械ではない“皮肉”が混じっていた。
「……お前にも、まだ“人間”が残ってるのか」
俺の問いに、イグレインは答えず、そのままスキルを発動した。
《スキル発動:灰機構爆印》
大地が揺れ、街の中央区画が浮かび上がる。そこには、巨大なコード結晶が埋め込まれていた。
「それが、“都市の核”か……」
ノーラが顔を青ざめさせる。「あれが完全起動したら、半径100kmのコードを全部“上書き”される」
ルゼが一歩前に出た。「止める。私たちが、今ここで」
「任せろ。こんな破綻した歯車……ぶっ壊してやる!」
カイルが吠え、突進する。
俺は剣を構えながら、ヒカリとセラに目を向けた。
「ヒカリ、守るだけじゃなくて、“繋げる”んだ。お前のスキルは、仲間を強くする」
「うん……セラ、いこう!」
《同期結界・展開》
《連携リンク:カイル/ノーラ/レイ/ルゼ/セラ》
光の網が一斉に発動し、全員の動きが一つに同期する。
それは、単なる“チームワーク”を超えた、世界の反撃だった。
そして──イグレインのコード核を打ち砕く瞬間が、目前に迫っていた。




