15話 灰都に潜む旧王国の影
俺たちは、ゆっくりとその一団を観察した。
黒いマント、銀の縁取り、肩章に刻まれた王国紋章──確かに旧王国軍の意匠だ。
「解体されたはずじゃ……」
ノーラが呟く。
「もしかして、≠NULLと裏で繋がってた連中かもな」
カイルの言葉に、俺は頷く。
彼らは教会跡の前で立ち止まり、何かを探っている。先頭の男が口を開いた。
「……反応が消えた。コード断層に飲まれた可能性がある」
どうやら、≠NULLが作った“副次コードスフィア”の痕跡を探しているようだ。
その瞬間、セラの目が青く光る。
《敵性コード:旧王国特務部隊“灰騎士団”を検出》
《任務:≠NULL技術の回収および適合者の確保》
(やはり……≠NULLと繋がってる)
ヒカリが小さく震えた。「あの人たち……前にも、僕を……」
「覚えてるのか?」
「断片的に……でも、追われてた。僕だけじゃない。施設にいた子、みんな」
俺は息を呑む。≠NULLによる“子供たちの実験”──それを行っていたのは、灰騎士団か。
「もう、放ってはおけないな」
俺は短く告げ、武器を構えた。
「ノーラ、広域幻影。カイルは前衛で撹乱。ルゼ、周囲のコード歪みを封じろ」
ルゼは頷き、すでに空間に“沈黙”の波動を放ち始めていた。
「……セラ、ヒカリを守って」
「了解、戦闘域を最小化し、護衛優先」
幻影が霧のように街路を覆い、俺たちは一気に灰騎士団の背後を取った。
だが、敵もただの人間ではなかった。
「コード解放──《灰翼展開》」
リーダー格の男の背中から、黒いコード翼が広がる。その形状は≠NULLに酷似していた。
「……もう人間じゃねえな、あれ」
カイルが歯を食いしばる。
「実験の被検体は、あいつら自身でもあったってことか」
俺は呟いた。
その戦いは、これまで以上に熾烈なものになった。
だが、俺たちはもう“ただの旅人”じゃない。
この世界の理不尽に、少しずつ抗う力を持ち始めている。
──そして、灰の街の影には、まだ真の核心が眠っていた。




