11話 再構築戦闘と灰色の狩人
警告と同時に、周囲の空気がピリつく。 風が止まり、木々が揺れをやめた。あまりに静かな“異常”──来る。
「出るぞ!」
俺の声に、ノーラが詠唱を始め、カイルは構えをとる。ルゼは一歩後ろに下がり、スキルの準備を整える。
空間が破れた。 現れたのは、一人の男。灰色の外套、銀髪、瞳は虚無を宿していた。
《識別完了:≠NULL実行因子 第七位『グレイ・ハント』》
「……ユニークスキル《幻鏡界層》、実地確認に来た」
彼の声は、冷えた鉄のようだった。
カイルが飛び出す。「口より拳で歓迎してやるよ!」
瞬間、カイルの拳がグレイに届く──はずだった。 が、影が反転する。
「! 身体が……逆方向に!?」
《敵スキル発動:鏡反写》
攻撃は逆流し、カイル自身を吹き飛ばした。
「くそっ、スキルの効果ごとコピーしてやがる……」
「レイ!」
ノーラの呼びかけと同時に、俺は前に出る。 《幻鏡界層》、発動。
視界が歪む。 重力が左から下に反転。グレイの動きが一瞬止まった。 その隙に、ルゼが《幽語》を展開。
「……削る」
言葉ひとつで、グレイの影が消える。
が、それでも彼は立っていた。
「さすがだ。なるほど、“外側”を持つ者は、やはり──」
その言葉の途中で、俺は《深層コード干渉》をグレイの影に放つ。 彼の動きが止まり、構造が暴かれていく。
「……お前のコード、書き換えさせてもらう」
世界が、一瞬だけ静止した。
次の瞬間、グレイの姿が空間から蒸発するように消えた。
《≠NULL因子撤退確認》
カイルが倒れたまま、笑いながら言う。 「やっぱ、お前、主人公っぽいよな……レイ」
「いや、主人公なら、もう少しスマートに決めてる」
そう返すと、ノーラがくすっと笑った。 「でも、今のは……ちょっと、かっこよかったわ」
「……照れるから、やめろ」
夜が来る。 そして、≠NULLの次の刺客も──すでに動いている。
俺たちの旅は、まだ始まったばかりだ。




