10話 スキルガチャと歪んだ運命
≠NULLの残骸が風に溶け、静寂が戻る。
ルゼは無言のまま振り返り、俺を見つめていた。
「……レイ、あんたも引いたら?」
「何をだ?」
「スキルガチャ。ここで回せる」
彼女が示したのは、空中に浮かぶ微かな光の渦。 この村の地脈上に存在する“スキルノード”と呼ばれる地点らしい。
ノーラが頷く。「この世界では、“運命の鍵”は場所にも宿るの。そこに立って、意思を示せば……スキルが、選ばれる」
カイルがにやっと笑った。「俺の《雷脚》もそこで引いたやつだぜ! レイ、いっちょ試してみなよ!」
(……運任せか)
そう思いながらも、俺はゆっくりとその光の中に足を踏み入れた。
《スキルガチャ起動》 《スキルコード照合中……対象:相澤レイ》 《異常構造検出──歪曲コード認証へ移行》
空間が一瞬だけ暗転する。
《SSRユニークスキル抽選中》 《抽選結果:スキル《幻鏡界層》を獲得》
ノーラが息を呑む。「ユニーク……!」
《幻鏡界層》──戦闘中、自身の視界内にある任意の空間を“反転”させる。対象の動き、物理法則、さらにはスキル発動順までを歪め、改変する。
「おいおい……それ、もはや物理無視ってやつじゃねぇの?」 カイルの驚きに、俺は肩をすくめた。
(……また、バグみたいなスキルか)
ルゼがぽつりと呟く。「やっぱり、“外側の者”……スキルも、普通じゃない」
その瞬間、再び警告ウィンドウが走った。
《観測端末起動──≠NULL第七因子が近傍に干渉開始》 《迎撃準備推奨》
──どうやら、俺たちの旅は、次の段階に突入したようだ。
「よし……こっからは、こっちがコードを壊す番だな」
俺は無意識に笑っていた。




