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掃除の時間



「ねぇーお父さんあれ何ー?」


街中を歩いている子供が父親に質問する。

子供が指さした場所を見て父親は笑みを浮かべて教える。


「あれはラディア騎士団っていう悪い魔物から俺たちを守ってくれるすごい人なんだよ」


「へー! すごーい! 頑張ってー!」


子供は無邪気にラディア騎士団の団員に手を振る。

そんなラディア騎士団もとい俺はーー


「急げ急げっ!」


全速力で街中の屋根を蹴りながら目的地に一目散に向かって駆けていた。

俺は頭の中でイメージを組み立てる。

そう、自分が雷を身に纏い超スピードで移動する姿を。


雷速らいそくっ!」


イメージの参考にしたのは超電磁砲レールガン

SFの醍醐味である超電磁波レールガンの弾丸を自分に置き換える。

言ってしまえば人間大砲もとい人間超電磁砲にんげんレールガンである。


俺の全身、そして足元に重点的に雷が纏われ、一気に加速する。

王都に住む人は超絶金持ちであるため、普通の住宅であっても物理、魔法に対してものすごい耐性を誇る。

つまりいくら俺らが蹴りまくっても問題ないのである。


逆にラディア騎士団が守る代わりに移動のための足場として使っても良いという契約を結んでいたはずだ。

自分の家が踏まれるのは絶対に嫌だという家庭を除いてだが。


そんなことを考えていると空中で声をかけられた。


「あ、いたいた! ユメ!」


「ん? あぁ。一体誰かと思ったが主人マスターか」


「あぁ、ってなんだよ。合流しようっていったじゃん」


「いや言ったけどさ。勝手に現地で合流だと思ってたからさ。という主人マスターは相変わらず身体強化ゴリ押しなのな」


主人マスターの魔力が足元に集中しているのを見て俺はそう推測する。

すると主人マスターは嫌な顔をしながら文句を言う。


「別にいいでしょ? 私これが1番得意だし。それにユメの使ってる……なんだっけ?」


「雷速?」


「そうそれ。私スピード出しやすい雷魔法じゃないからそういうのできないの」


主人マスターは確か炎魔法だっけ」


「そう。でも私魔法飛ばすの得意じゃないから魔法の身体強化でなんとかしてるかな」


「身体強化を魔力と魔法のダブルで発動できるってことか」


「正解! こんなふうに……ねっ!」


その瞬間主人マスターは一際早く加速する。

身に炎を纏っていたことからさっき言っていた炎魔法による身体強化を上乗せしたんだろう。


「遠距離攻撃が苦手な魔法使いとはな……まぁその分剣技がやばいんだが」


遠くで赤く光っている主人マスターを眺めながらそんなことを呟く。

さてと、これ以上悠長にしてるのは流石にやばい。

もっと飛ばしていく。


「雷速っ!」


俺はさらに加速し、目的地へと一直線に飛んでいく。

すると


「あれか」


「グゴォァァァァァァッ!」


やってきたのはかつて俺と主人マスターがドルネスによって王都に連れてこられた場所。

ブルムケイヤの森である。

そしてそこには超低音の唸り声をあげる馬鹿でかい熊、通称、深林熊フォレストベアが現れていた。


近場の木に降りてよく見てみると下で深林熊から逃げている人たちがいる。

逃げ遅れた市民だろう。

だがおかしいな。

今の時間帯は立ち入り禁止のはずだが……まぁそれは今はいい。


「さて……と」


俺は制服についているフードを深く被る。

理由は特にない。

強いて言うなら団長に言われたからだ。

なんの説明もされなかったけれどもあの人に従わないと面倒なことが起こりそうだからな。


そんなことを思いながら俺は短剣を手に持つ。

そして深林熊フォレストベアに標的を合わせーー


「掃除の時間開始!」


俺は強く木を蹴り体を砲弾のように打ち出す。

そして深林熊フォレストベアが気づかないほどの刹那のすれ違いの時、俺は短剣を振る。

それにより深林熊フォレストベアが断末魔をあげる暇すらなく首が落とされた。


「んでもって掃除の時間終了っと」


深林熊フォレストベアが確実に死んでいることを確認してから俺は懐からとある魔道具を出す。

鏡にようなその魔道具に人の姿がうつりその人物の声が聞こえる。


『終わったかい?』


そう、団長である。


「はい、終わりましたよ。森に侵入して逃げ遅れた市民がいるのでその人たちはお願いします」


『……はぁ、わかったよ。それじゃあ帰っておいで。リアちゃんも終わったって言ってたしね』


俺の言葉を聞いて団長はだるそうな声を上げながら帰還するように命令した。


「もう一体いましたもんね。深林熊フォレストベア


この森に俺の倒した深林熊フォレストベアは計2体いた。

一体は俺が倒した森の入り口付近の個体、もう一体は森の奥深くにいる個体だ。

主人マスターが森の奥まで向かったため、俺がここの個体を処理したというわけだ。


『こっちでもその個体の掃除はできてると確認したよ。あ、そうそう。好奇心で聞くけどフードは被っていたのかい?』


「リアの方は知らないが俺は深く被ってたさ。団長の言う方は聞かないと後から面倒なことになりそうなんでね」


『ははは、酷いなぁ。そんなわけないじゃないか、と言いたいところだけど……今回は面倒なことになりそうなんだよね』


「え?」


めんどうなこと?

ちょっと待ってくれ、嫌な予感しかしないぞ。

俺にその話しているということが特に!


『ひとまず帰ってきてくれ。話はそれからだ』


「え、ちょ、ま。俺を巻き込むんじゃないでしょうね!? って切れてるし……はぁ」


こりゃもうダメだ。

完全に巻き込まれた。

あの人から逃げられる気がしないからなぁ……はぁ。

とりあえず帰るか。


そう思い、この場を離れようとした時


「あ、あの!」


「ん?」


一体何事か、と振り返るとそこには白髪の少女が立っていた。


「ありがとうございました」


「別に大したことじゃないさ。これが仕事だしな。あ、そうそう。今の時間帯は立ち入り禁止の時間だ。あそこで職員の人が待っているからその人に理由とかを説明してくれ」


俺はすぐ近くで待っているラディア騎士団の職員の人の方向を指差しながらそう言う。


「はい、すみませんでした」


俺の話を聞き、少女は素直に謝る。

なんでこんな子がわざわざ時間帯を破ったんだ?

……いや、それは俺の仕事じゃないか。


「ま、ともかく無事でよかったよ。それじゃあな」


俺がそのままそそくさと立ち去ろうとすると


「あ、その。お名前を拝見させてもらうことはできるでしょうか」


「名前?」


「はい。助けていただいた方のお名前も知らないのは嫌でして」


なんでかと思ったけどそういうことか。

顔を見られないようにとは言われてるけど名乗らないようにとは言われてないしな。


「俺の名前はユメだ」


「ユメ……さん。本当にありがとうございました」


「別に大したことじゃないから大丈夫だよ。それじゃあ俺は用があるからこれで失礼させてもらうよ」


そう言い、俺はその場を立ち去るのだった。

帰還途中は人助けをしたからか清々しい気分だった。




ーーーーー




清々しい気分も即終了。

気分が変わるのは本当に早い。


「やぁ、おかえり」


「おい、なんでここにいる……んですか?」


俺が自分の部屋に窓から戻ると部屋にある椅子に団長がコーヒーを飲みながら優雅に座っていた。


まるで自分の部屋のように我が物顔でコーヒーを堪能しているのもムカつくが、それ以上の問題がある。

なぜ部屋にいるか、ということだ。


「なんで団長室にいないんです? リアはそっちに向かってるんじゃないんですか? というかなんで俺の部屋にいるんです」


「まぁまぁ落ち着きたまえよ」


「……別に激昂はしてないですよ。ただちょっと団長の行動が理解できなさすぎてね、頭がこんがらがってるんですよ」


俺の怒りと困惑の混ざった声を聞き、団長はやっと自分のしたことのヤバさがわかったのか少し申し訳なさそうに謝った。


「それは申し訳ない。では団長室に向かおう」


そう、これだけ。

本当に反省してるのかこの人は。


俺は自分の部屋を一通り見てから団長の後をついていく。

部屋を確認したのは何か抜け穴的なものがあるかどうかを確認するためだ。

流石にないとは思うが……団長はなにをやってもおかしくないと思うからな、確認するくらいはいいだろう。


……本当にないよな?


一通り見てみたがおかしなところはなかった。


「どうした? 部屋は特に汚してないと思うが」


「なんでもないです。いきましょう」


俺と団長は訓練場の横の渡り廊下を通り、ラディア騎士団本部へと向かう。


団長の部屋はラディア騎士団本部の2階にある。

本部と繋がっているシェアはにも団長の個人の部屋はあるがその部屋に入っていく姿を見たことがない。

おそらくずっと団長室に篭っているのだろう。


「ずっと団長室にいますけどそんなに仕事量やばいんですか?」


階段を登りながら俺は団長に尋ねる。


「おや、気になるかい?」


「そりゃまぁ。ずっとシェアハウスの部屋にいないですしね」


それに相変わらずクマも酷いし。

一日にどれくらい寝てるんだ?


「そうだね。冒険者がこの街にはいるだろう?」


「そうですね。今日屋根の上を飛び回った時に冒険者の人は結構見ましたね」


別に冒険者がザ•ファンタジーという見た目をしているわけではないが、一般市民と比べると明らかに武装しているため以外とわかるのだ。


「我々ラディア騎士団は王都の魔物の掃除をしているが戦うことが仕事の冒険者はどうなっていると思う?」


「そりゃ、冒険者だって魔物と戦っているんじゃないですか?」


「そう、その通り。冒険者も魔物を倒している。王都だからこそ冒険者も猛者揃いだ。あ、そこのソファーにかけてくれ」


団長室に案内されるとそのままソファーに座るように促される。

どうやら主人マスターは来ていないようだ。


「リアくんもまだ来てないみたいだし少し話そうか。あ、コーヒーでいいかい?」


「え? あ、はい」


団長はコーヒーを準備しながら話を続ける。


「それで続きだが魔物は人から微妙に空中に溢れる魔力から生まれてくる。それは知ってるね?」


「はい、キャスティーさんに教えてもらったので」


「無論人口が多いほど魔物は強力になる。王都は魔物の侵入を拒む結界を常に発動しているため魔物に王都が犯される心配はないが念のために魔物の討伐を日頃からしている。それを仕事としているのが?」


そこで団長は俺に答えを言うように促す。


「冒険者とラディア騎士団」


「そう。そしてその強力な魔物はよく冒険者で対処するかラディア騎士団で対処するか問題になることがある」


「……あぁ……そういう」


俺はそこでその団長の長労働の理由を察する。


「そういう魔物をラディア騎士団が対処するのか。冒険者が対処するならどの冒険者に依頼するか。それは全て私の判断で決まるのさ。無論ギルドの長も判断するんだがラディア騎士団の意見が優先させるから下手なことは言えないんだよ」


「そりゃ過労になりますね……」


「おや、慰めてくれるのかい?」


俺の思いがけない言葉に団長は食いついてきた。


「別にいいじゃないですか。一応は団長なんですし」


「そうかい。ま、これが私の仕事さ。……さて、リアくんが来たみたいだね」


その言葉を発した刹那、団長室の扉が開く。


「失礼します……って団長とユメ!? くるの早くない!? というか何飲んでんのユメ。私にもちょうだい」


入ってきた主人マスターは俺と団長を発見した騒ぐ。

よく気づいたな団長。

誰かが来るのは察してたけど主人マスターとはわからなかったぞ。


「これコーヒーだけどそれでもいるか?」


「あ、じゃあいいや。私コーヒー嫌いだし」


「さて。2人が揃ったところで本題だ」


主人マスターが自然に俺の隣に座ると団長は話し始めた。


「私とユメに何か用があるんですよね?」


「ああ。単刀直入に言おうか」


団長はそう切り出し、その言葉を口にする。


「君たちには今度、アルファウス王国最高峰の学園であるグラウディア王立学園に通ってもらいたい」



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