戦闘訓練
「おう、きたか」
扉を開けるとリックがこちらに振り向いた。
ここはラディア騎士団の訓練場だ。
魔法の訓練も剣の訓練も自由にできる。
「お前……よくそんな状況で挨拶できるな」
リックのやっていることに俺は呆れを通り越してもはや尊敬してしまう。
「まぁあくまで訓練だからな。殺し合いをしてる訳じゃないしいいじゃねぇか」
「この! 避けないでよ!」
「おいおい、いくらなんでもそれは理不尽じゃないか?」
「訓練してる相手をほっといてユメと話をするのはどうなんだろう……ねっ!」
少女がそう言いながらリックに向かって剣を振り下ろす。
それをリックは軽々と避けながら「悪かったって」と謝る。
多分それ逆効果だぞ。
「……っ! このっ!」
「うぉぉ!? おいリア! いきなりなんだよ!」
やっぱり。
そろそろ止めないと主人がガチギレしそうだ。
「で? 俺はいつまでこうしてたらいいんだ?」
「おっと悪い。ひとまず訓練はここらでおしまいだ」
リックは足を止め、そう言いながらリアの方は振り返る。
するとその目の前には剣を振り下ろしている主人がいてーー
「えい!」
「いってぇーーーー!」
リックは高らかに悲鳴を上げるのだった。
「痛っ! いくら木剣だからって痛いものは痛いんだぞ?」
「それはお前の自業自得だ。さて、次は俺の番か」
俺は立ち上がり、壁にかかっている木剣を手に取る。
剣とは言ったが実際のところは探検なのだが。
「お前はやっぱそれか」
「なんとなくこれがしっくりくるんでね」
「ま、実際お前にはそれが1番使いこなせると思うぜ。お前剣は良くも悪くも普通だからな」
「うるせぇ。俺はリアみたくうまく扱えねぇんだよ」
俺は短剣を構え、準備をしながら言葉を吐く。
「あいつ才能ありすぎるからな」
「でも、私全く攻撃当てられてないんですけど?」
リックの言葉に主人が不貞腐れたような口調で文句を言う。
「才能がある=初めから強いは決して成り立たない。才能を鍛えて強くなるんだからな」
「そもそもリアは最初から剣で打ち合えてるだけすごいさ。俺なんか2ヶ月かけてやっと打ち合えるようになったんだぞ?」
「まずは基本を叩き込んだからな。基本ができてなきゃ話にならん」
「わかってるさ。リアと自分を比べて俺がどれだけ剣が下手か悲しいくらいよくわかったからな」
さっきのやつも撃ち合いが早すぎるんだよ。
俺じゃあの長い剣でそんなに早くできない。
「リアは剣のセンスがいいからな。魔力を使わないで俺と打ち合えてる時点で才能の塊だ」
「……なら、いいや」
リックの心からの賞賛に主人の溜飲は下がったようだ。
「さて、そろそろ始めるとしますか」
「そうだな。こい、ユメ」
「言われなくともっ!」
俺はリックに向けて走り出す。
リーチの短い短剣では近づくしか攻撃できないからな。
まずは近づくことがステップ1だ。
「さてと……やるか!」
リックは剣を構えて俺を向かい撃つ。
俺がリックの間合いに入り、俺の攻撃が届かない絶妙な距離でリックは剣をまっすぐと振り下ろす。
それに対し、俺は姿勢を低くしリックの左側に潜り込み背後を取る。
そしてそのまま振り払うようにリックの首元を狙う。
ここで当たることができたら良いのだがーー
「ま、当たらんよな」
リックは当然のように剣で短剣を受け止める。
それを予想していた俺は深追いはせず距離を取る。
「いきなり殺意が高すぎないか?」
「ひとまずの挨拶ってところだ」
「挨拶でいきなり殺しに掛かるなよ……」
リックは肩をすくめ、心にもないであろう悲しそうな顔をする。
そして次の瞬間、リックは真面目な顔つきになり俺に向かって接近してきた。
「俺のヒットアンドアウェイの戦法を潰しにかかるんじゃねぇよ!」
「すまんな! 俺はじっと待つのが得意じゃねぇんだわ」
「あぁ、嫌ってほど知ってるよ!」
リックの振り下ろした剣に短剣で応じる。
短剣で剣を受け流しそのまま首を狙う……が
「ッチ!」
「げ、マジかよ今の避けるか」
急いで距離を取る俺にリックは心底驚いた様子で声をかける。
なんでそっちが驚いているんだよ、何それ! って叫びたいのはこっちなんだが?
「なんでそんな早く切り返せんだよお前」
「俺の技術としか言いようがないな」
俺の呆れと驚きの混ざった質問にリックはいやらしい口調で答える。
「嫌味かな?」
「嫌味だよ。朝の仕返し」
「よりにやっていまかよ」
「俺的に今が1番いいんじゃないかと思ったんだが……どうだっ!」
リックはその言葉と共に踏み込み、攻撃を仕掛ける。
「なんとなんと大正解だ! そんな君には特別に俺の攻撃を一方的に受け続ける権利をあげよう!」
「それは勘弁願いたいな!」
リックと剣戟を繰り広げながら俺たちは会話をする。
「ただの言い争いじゃん……」
そんな外野のブーメラン発言を無視しながら剣戟を続ける。
絶対に主人が言える発言ではないがそれは心の奥にとどめておこう。
「つかお前長剣を扱う時との差が激しすぎねぇか!? 剣はまだ普通なのによ!」
「ここ2ヶ月間死ぬほど鍛えた甲斐があったよ! 魔法使いは近寄られたらおしまいだからな!」
無論魔法の練習もしているのだが思った以上に短剣の鍛錬にハマってしまったのだ。
それこそ訓練と食事と睡眠以外は常に手に持っているほどに。
「魔法を突破してもこの短剣と斬り合わなければいけない……その相手はなんともかわいそうだな」
「そうか? 今の俺とリアが戦ったら100パー負けそうだけど?」
「まぁ、実際そうだろうな。まだ俺が反撃する隙がある時点であいつには勝てん」
「やっべっ!」
俺は迫ってくる剣をどうにか対処しようとするがーー
「チェックメイトだ」
「……間に合わなかったか」
リックの剣が倒れ込んだ俺の頭の真上にある。
俺の短剣は振り下ろさせる長剣に追いつかなかった。
「姿勢を低くして受け流そうと思ったんだけどな……」
「実際決まってたら俺が負けてた。お前戦闘センスやばすぎるだろ。普通対処の動きすらできずに終わるんだぞ?」
「そりゃ、どうも」
「はー、全く。こんなんじゃ俺すぐこいつらに追いつかれるって」
「ふ、楽しみに待ってな」
「楽しめねぇよ。ったく、俺もぼちぼちやらなきゃな」
リックが実にめんどくさそうな表情を浮かべる。
正直俺じゃすぐにあいつに追いつけるとは思ってないんだがな。
主人ならいけそうではあるが。
「そういやキャスティーの講座はどうなんだ? 魔法と歴史とかそういったもろもろを教えてもらってるんだろ?」
「魔法なー。正直良くわかんねぇんだよな」
俺と主人は一日にリックによる戦闘訓練とキャスティーさんによる魔法訓練&もろもろの勉強を行なっている。
それにプラスしてたまに魔物狩りというのが俺と主人の1日の流れだ。
「というと?」
「キャスティーさんの魔法がすごいってこともわかるし魔法の仕組みの説明もわかりすい」
「ならいいじゃねぇか」
わからない部分なんてなくないか? とリックは言う。
だがそれに対して主人が口を挟む。
「それがそうとはいかないんだよね」
「どういうことだ?」
そう、魔法の仕組みはわかる。
頭では。
だが実践すると話は別だ。
「簡単に言えばいざやってみるときの説明が頭ではわかるけどできないという感じだ」
キャスティー先生による魔法の仕組みは大まかに言うとこんな感じだ。
ステップ1:魔力が溜め込まれている器官から魔力を
引き出す。
ステップ2:魔力をイメージという型に流し込んで魔
法を発動する。
型に流し込むから魔法は安定して発動できるのである。
ただ、その型がボロボロであり穴だらけだと魔法は発動しない、もしくは暴発という形で失敗する。
そんな事故を防ぐために詠唱というイメージを手助けするものが存在するのだ。
「でもそうすると詠唱で隙が生まれてしまわないか?」
「そう、その通り。だからすぐ発動できるようにそのイメージという紙切れを本のような形にする必要があるんだ。実際に本ができるわけじゃないけどな」
「……よくわからん」
「そりゃそうだよな。俺たちも最初はチンプンカンプンだったし」
「……で? それができるとどんないいことがあるんだ?」
「ちょっとズレてる気もするがわざわざ紙切れを拾い集めてイメージを一から考えずに最初から用意されてる本を見てイメージを思い浮かべることができるようになる」
「なるほどな」
「そんでそんな本に名前があったらさらにわかりやすいってわけだ」
言ってしまえば電化製品である。
掃除機で例えるとイメージが電気回路など、そして本のような形が掃除機だ。
掃除機に電気を通せばすぐに動く。
そんなように魔力という電気をイメージという掃除機に流し込む。
これにより魔法が発動するわけだ。
吸い込む機械、と言われるよりも掃除機と呼ばれる方が思い浮かべやすかったりする。
そういったものがあるから名前をつけることも重要なのだ。
「なるほどな。すると詠唱を省ける……巷で言われてる無詠唱魔法となるわけだ」
「そう。んで、魔法の仕組みである紙を本という形にするための方法がわからないわけだ。正確には教えてくれているけど理解できないが正しいが」
「へぇ? どんな風に言われたんだ?」
「キャスティーさん曰く、『なんかこうギュッ! とやるのよ〜』だ、そうだ」
俺がキャスティーさんがいった言葉をまんまリックに伝えると
「あぁ、全くわからんな」
リックは俺や主人に同情の視線をおくりながら苦笑した。
「それで本人は至って真面目だから下手にいうわけにも行かないってことだ」
「それはまた、ずいぶん大変な間に合ってるんだな」
「言葉で伝えるのは上手なんだがな。それをいざやるとなるとそうなるんだよ」
「私とユメは言葉だと大体理解したからあとは実践なんだけど……肝心のキャスティー先生が無理だから今は歴史とか地理についてだけ教わってるよ」
「歴史……地理……それ眠くならねぇか?」
「そうか? 俺は結構楽しいぞ。キャスティーさんが魔法でわかりやすく説明してくれるからな」
全く知らない歴史を学ぶのは案外楽しい。
意外なところで繋がりがあって新鮮さがあるからかもしれない。
それに加えてキャスティー先生の働きも大きい。
土魔法を利用して地名やその地形はもちろん歴史上の戦争の内容も人形劇の用とは言え視覚的に見えるため非常にわかりやすい。
キャスティーさんは絶対教師になったら大成功するだろう。
「えぇ……私はやっぱ頭使うより体動かした方が楽しいや」
主人は手に持っている長剣を振りながらそういう。
「ま、それは好みの問題だからな」
学校の体育が好きな奴がいたり歴史が好きな奴がいたりするように個人で分かれるだろう。
「っかお前らここで時間潰してていいのか? 今日の掃除はお前らの担当だろ?」
そのリックの言葉に俺と主人は顔を見合わせる。
その顔のどちらにも忘れていた、と書かれていた。
「……すぅっーー急げっ!」
「やばいやばいやばい!」
俺と主人は同時に互いの部屋に走り出す。
「場所は知ってるよな?」
「もちろん! そこで合流しよ!」
必要最低限の会話を交わすと俺は急いで部屋のクローゼットにかけてあるラディア騎士団の制服の上着を着る。
そして俺はそのまま開けてある窓から飛びだした。
魔法について。
少しわかりづらいかもしれません。
魔法という動作をするためプログラム(イメージ)をデータという形にすることです。
データを実行することでプログラムが実行され魔法が発動する。
これで魔法を発動する時にデータを実行するだけですみイメージというプログラムを組む時間を省略できるわけです。
これのこの世界にあるものでの表現の仕方が難しい……




