魔導列車
「おー! すご!!」
俺の隣にいる主人が目の前にあるものに興奮している。
初めて見る人はみな主人のような反応をするのではないだろうか。
とは言ったものの俺もちょっと興奮してる。
登校で日々似たようなものを見ていたとしてもこれはそんなのが消し飛ぶくらいのものだった。
「これが……魔導列車」
常に車体から魔力が溢れている。
溢れる魔力が煙のように見えるためかどこか幻想的に見える。
「お前ら……なんでいるんだよ……」
俺らが魔導列車に見惚れていると声がかかる。
振り向くとそこにはリックがいた。
「いや、お前についていくし」
「は? なんでだよ」
「キャスティー先生の講座で私たちもっと強くならなきゃって思ったからね。修行だよ修行」
「はぁ? 俺1週間しか行かないぞ?」
「でもそれってつまり1週間修行なしってことだろ? それだと強くならないよな?」
「いや、キャスティーの魔法訓練があるだろ!?」
「いやそもそもせっかくだから行ってきたらって言ったのキャスティー先生だし」
「……っ! あのやろう……!」
リックは主人の言葉を受け、左手で頭を乱暴にかく。
「つかお前ら魔導列車に乗るつもりなのか!」
「そりゃそうだろ。自力で行けるわけねぇだろ場所も知らんし」
「そもそもお前ら乗ったことないだろ!?」
「俺は似たようなのに乗ったことはあるから多分行ける。こいつは知らん」
「ちゃっとユメ! 私の味方なのかあいつの味方なのかハッキリしてよ」
「別にどっちの味方でもないな」
「えー! そこは私の味方ってハッキリ言ってよ!」
「あーもううるせぇ! さっさと帰れ……ってもう金払ってんだよな……」
リックは明らかに気分が落ち込んでいる様子だった。
なんかごめん。
「しゃあねぇか。おいちょっとチケット見せてみろ」
「ほい」
リックに言われたまま俺はポケットにしまってあった魔導列車のチケットを渡す。
「ん? なんだ俺と同じとこじゃねぇか。なんで知ってんだ?」
「いや、チケットとってくれたの団長だから知らん」
団長笑顔でチケットの注文やってくれたし。
どうせなにかやるとは思っていたけどこういうことか。
「またあの人は……まぁいつものことだ。気にしていても仕方ない。出発まであと5分だ、そろそろ魔導列車に乗るぞ」
その言葉に促され俺と主人はリックの後についていき魔導列車に乗車した。
列車の中は俺が最初にイメージした蒸気機関車ではなく新幹線のような感覚だった。
座席が一通り用意されており、互いに向き合う形で4人が座れるようになっている。
「ここだな。ほら、それよこせ」
俺と主人は荷物を渡して先に席に座り、リックは荷物を上に乗せてから席に座った。
「にしてもすごいな魔導列車。ここだけ別世界のようだ」
この空間だけ見たら日本に戻ったような気になってもおかしくない。
「それだけ魔導国の技術力がすごいってことだろ。ま、希少な分だけチケットの値段バカ高いがな」
「因みにこれいくらすんのさ」
俺はチケットをひらひらと振りながらそう尋ねる。
「お前知らないで買ったのかよ。確か50万イアルだぜ」
確かこの世界の金は1円=1イアルだ。
つまり50万。
「いや高すぎるだろ!?」
「往復でそれだから片道だけなら25万イアルだな。それでも高いが」
「この魔導列車ってどこまでいくの?」
先ほどまで列車の窓を開けて外を覗いていた主人がそう尋ねる。
「とりあえず終点までだな。そこから馬車に乗ってレーディアル伯爵領にいく」
「時間は?」
「まぁ数時間じゃないか?」
リックがそう言った時、振動が走る。
そう魔導列車が発車したのだ。
「うぉ、う、動いた!?」
「……ふぅ、何回か乗ってるが慣れねぇもんだな。……なんでお前は平気なんだよ」
リックがジト目で俺の方を見る。
「俺はこういったのに慣れてるからな」
だってほぼ毎日乗ってたし。
電車よりは発車するときの振動も大きいけど。
「おぉ! 早い早い! 私が全力で走るよりも早い!」
「このスピードに簡単に追いつけるわけねぇだろ」
「でもユメなら頑張れば行けるんじゃない?」
主人の言葉について少し考える。
俺の基本的な移動手段は雷速だ。
雷速は魔力を込めるほどスピードがあがる性質がある。
とはいえ現時点で俺が一度に込められる魔力量はそこまで多くない。
無理に魔力を一気に引き出すと吐きそうになるからな。
それを考えると……
「全力でやったら多分10分位は並走できると思う」
「それ以上は?」
「無理」
「そもそも追いつこうとしてることがおかしいだろ」
リックが呆れながら主人にそういう。
「いや、それはそうだけどさ。気になるじゃん」
「そうかぁ?」
「そうだよ」
「お前ら仲良いな」
俺のふとした呟きに主人とリックが瞬時に反応する。
「「どこが!?」」
「ほら息ぴったり」
「…………」
「…………」
「…………」
「……因みに会いに行くお爺さんってどんな人なの」
主人が話題を強引に変えてそういう。
「……そうだな。爺ちゃんは俺の剣の師匠だ」
「リックより強いのか?」
「俺よりも強いぞ、じゃなきゃ師匠できねぇし。今になってやっとまともに打ち合えるようになったんだ」
「そんなに強いの!?」
「なんか勇者の師匠してたらしいぞ」
「すごっ!」
「いやいや真に受けんなよ。嘘に決まってんだろ」
「そうだぞ。勇者の師匠が今生きてるわけないだろ。400年前なんだぞ?」
「うーん、それもそうか」
主人はそう言いながら窓の外に目を向ける。
俺も窓の外を見るとそこには山脈があった。
「なぁリックあの馬鹿でかい山脈がファグラ山脈か?」
「ん? あぁそうだな。とは言ってもそうそう行く機会はないな。あそこドラゴン蔓延ってんだよ」
「ドラゴンの巣でもあるのか?」
「とあるドラゴンの家族ってか勢力が住み着いてるらしいぞ」
「っていうかさ、ドラゴンがここまで近くにいて大丈夫なの?」
確かにそうだ。
ドラゴンが強いっていうのはこの世界もそうだ。
ドラゴンが街に来たらそれだけで街が全滅レベルだ。
「別に平気だぞ」
「え、そうなの?」
「そもそもドラゴンってのはそう簡単に勢力地から出てこないからな。変に挑発しない限りは問題ないぞ」
「変な挑発って具体的にはどんな感じなんだ?」
「例えば火を放ったり攻撃魔法を打ち込んだりとかだな。要するに喧嘩を売ったら確実に買われるってわけだ」
「ドラゴンに喧嘩売るバカはいないもんな」
「そうだ」
「だとするとドラゴン倒した人ってほんとすごいよな。死にに行くようなものだし」
「それでもやり遂げたやつが英雄になるんだろうな」
「ま、俺には関係ないな。意味もないのにドラゴンに凸って死ぬなんてぜったいやだし」
「そりゃそうだ。俺だってごめんだね」
「でもドラゴンとの戦いってちょっと興味ない?」
「えぇ?」
主人よ、もしかしなくても戦鬪狂?
そんなことを思いながら主人を見ていると声をかけられる。
「お、ドラゴンに興味あるのか?」
声の方向を見るとそこには使い古された革服と帽子を被った男性がいた。
「誰ですか?」
「ああ、申し訳ない。ドラゴンと聞いたのでね、来てしまったよ。私は竜学者をやってるミデスという。よろしく」
「竜学者……」
「そう、竜学者。ドラゴンの生態や勢力図について研究しているんだ」
「竜学者とは珍しいな……相当頭いいんですね」
「そうなのか?」
俺竜学者って職業初めて聞いたんだが。
「竜学者の試験は相当難しいらしいぞ。団長が前に試してみて諦めたらしい」
「団長何してんだよ」
「知らねぇよ」
「お嬢さん、ドラゴンとの戦いに興味があるんだって?」
ミデスさんが主人にそう話しかける。
「うん、まあちょっとね」
「ドラゴンは強敵だからね。ドラゴンと戦う人は事前に専門家から攻略のヒントを教わる人もいるんだ」
「冒険者でドラゴン倒す人っているんですか?」
「もちろんいる。例えばグロリア。彼はドラゴンスレイヤーとして有名だね。私もよく彼の討伐出発前に呼ばれたりするよ」
「ドラゴンと戦うのってそこまで情報いるの?」
「もちろんさ」
「例えばどんなのがあるの?」
「ドラゴンと戦った記録は珍しいからね。具体的な戦い内容が記されているものはさらに貴重だ」
「ドラゴンと戦ってる最中にどんなふうに戦ったか記録してる暇なんてないですもんね」
俺の言葉にミデスさんが頷く。
「何回かドラゴンと戦っているとはいえドラゴンは強敵だ。グロリアも事前に偵察をして情報を集めるんだ」
「相手の情報は知ってて損はないからな」
「その通り。そしてその情報と過去の記録と照らし合わせてドラゴンの攻撃内容とかを予測して事前に伝えるんだ」
「なるほど。初見で戦うよりはあらかじめ可能性を知っといた方がいいってことですか」
「そう。実力があまりない冒険者だと頭がこんがらがってうまくヒントを扱えずに死んじゃったりするだけどね」
確かにな。
俺もいきなり「こうかもしれない」って言われたらそればっか考えて焦っちゃうかもしれない。
『まもなくフィラガールです』
「おっともうここか」
ミデスさんがアナウンスに気付き、手荷物を持つ。
「ここで降りるんですか?」
「私の事務所がここにあるんだよ。お嬢さんもドラゴンを倒す時は是非」
ミデスさんはそう言って魔導列車を降りて行った。
「ドラゴン倒す時はだってよ」
「私がドラゴンと戦う時ってくるのかな」
「さあな。ま、その時は頼らせてもらおうぜ」
「そうだね。あ、因みにあとどれくらいで終点につくの?」
「まだ2時間はあるんじゃないか?」
「まだそんなにあるのー!?」
「馬車とかで行くよりは断然マシだろ我慢しろ」
リックの言葉に主人はブツブツと文句を言いながら景色を眺めるのだった。