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キャスティー講義



「ん? あぁ、リックの修行の話? 確かにそろそろその時期ね」


俺がキャスティーさんの講座の休憩中に質問すると懐かしむようにそう口にする。


「リックって毎年行ってるの?」


「えぇそうよ。毎年この時期になるとレーディアル伯爵のところに行ってるの」


「レーディアル伯爵?」


「そう。平民の出だけど現当主が戦争で大きな功績をあげてね。貴族に取り立てられたのよ。その後も着々と功績をあげて伯爵にまでなったのよ」


ある程度キャスティーさんから貴族社会の階級については教わっている。

確かちょうど真ん中だったはずだ。

平民でも領地を与えられてるんだから相当すごい活躍をしたんだろうな。


「でもそのお爺さんってそんなに怖いのかな。あいつ前までは私たちの訓練の時だけ訓練してたのに今はずっと訓練してるし」


主人マスターは窓から訓練場を見ながらそう言う。


「そういえば最近リック魔力使い始めたよな。前までは身体強化をしてもそれで実践はしなかったのに」


「ね。魔力使いながら訓練してるし」


「あ、そうそう。魔力といえば無詠唱はどうなったの?」


俺と主人マスターがリックのことで雑談しているとキャスティーさんが思い出したようにそう口にした。


「無詠唱……いや、全くできないですね」


「うん無理。本当にどうやればいいんだろ」


俺と主人マスターはキャスティーさんに無詠唱のことを教わってからずっとできないからためし続けていた。

たが、今まで一回もできた試しがなかった。


「そういえば気になったんですけど無詠唱って実際どんな感じなんですか? イメージはできるんですけど実物を見ないとわからないんです」


「それもそうね。見本を見せるのも大切だものね」


キャスティーさんはそう言い椅子を立つと徐に俺たちに手を見せる。


そしてその手に炎の剣が現れる。


確かに詠唱していない。

でも、なんだろう。

なんというか違和感が。


「これが本物の無詠唱魔法よ……と、言いたいところだけど少し違うのよね」


その言葉に俺たちは思わず声を上げる。


「「え?」」


「実は完全な無詠唱魔法って『勇者』しかできたことがないのよ」


その衝撃の事実に俺たちは戦慄する。

キャスティーさんは無詠唱を使えなかった?

え、じゃあ俺に言ったあのアドバイスは……


「あ、そうそう。別に私は嘘は言ってないわよ。『勇者』が使った無詠唱魔法。その原理を研究者が全力で解析してわかったものだもの」


「じゃあ……今のは一体?」


あれも無詠唱だったが。


「言ってしまえば劣化版無詠唱魔法ってところね」


キャスティーさんはチョークを手に取り、黒板にいろいろと書き込んでいく。


「無詠唱魔法は固めたイメージを瞬時に発動するということでしょ?」


「そうですね。それにより詠唱を省くことができる」


「でも今私がやったのは素早くイメージを思い浮かべるということ。イメージを固めたわけではないわ」


「つまりこういうことですか? 無詠唱魔法は最初から完成されたイメージを元に魔法を発動することで、今キャスティーさんがやったことはイメージを1から素早く組み立て発動した……と」


「えぇ、その通り。詠唱はあくまでも補助。それを必要としないくらいイメージがあればいい。ユメくん、あなたの雷速は今私がやったのと同じようなものよ」


「雷速と……」


だからちょっと似てるって思ったのか。

俺の雷速はずっと使っているからかイメージがしやすい。

まだ名前を呼ばないと安定はしないが。

げとそんなことよりも、だ。


「質問なんですけどなんで最初から無詠唱魔法の仕組みを教えてくれなかったんですか?」


そこだけは気になる。


「最初から答えを教えても仕方ないのよ。私はあくまでも教師だからね。簡単にはできない無詠唱魔法をどうやってクリアしようか考えて実践することが大切なのよ。まぁ、ユメくんはなぜか劣化版無詠唱魔法を最初からできてたんだけどね」


いや、それは俺が日本のラノベっていうブーストがあったからだと思われますはい。


「でも試行錯誤する中で魔法に対する印象がだいぶ変わったんじゃないかしら」


「はい。魔法っていうのはふわふわしたものじゃなくてちゃんと理論があるんだなって実感できました」


「考えないとできないもんね。私もその劣化版無詠唱魔法? を最近やっとできるようになったし。ユメはなんか最初からできたけどね」


「いや、お前は剣の才能バリバリあるからそれでいいじゃねぇか。俺剣の才能そこまでねぇから」


「仲良いところ悪いけど話を戻すわね。この前詠唱は大事って言ったけどそれはあくまでもイメージが複雑な魔法の話。簡単な炎を飛ばす魔法は詠唱なくても発動できるのよ」


黒板に火の玉を描き、その横に詠唱いらない! と書いた後、チョークを置き俺たちに向き直る。


「なんという、名ばかりですね。無詠唱魔法と呼ばれるものじゃなくても詠唱は省けるって」


「最初に見た時は衝撃だったと思うわよ。原理を知らなければ尚更ね」


インパクトが強すぎたからその名前が未だに残っている、とキャスティーさんは言った。


「ユメくんは魔法を使う時技名を言ったりする?」


「えぇ、そっちの方がイメージがはっきりとするので」


こういうのはこんな単純なことでも結構な効果があったりする。


「その技名をいうことすらも省いて尚且つ瞬時に発動できるのよ」


「簡単に見えて難しいんですよね、それが」


「完全な無詠唱魔法はイメージを組み立てる工程を省いた即発動できる魔法。それは本当に難しいのよ。私が君たちに送った言葉も私の師匠から教えてもらったものだしね。私もよくわかってないのよ」


「なるほど……だからあの時苦笑してたわけですね」


俺は前のことを思い出しながら少し笑う。


「私も師匠からそのことを聞いた時は頭が真っ白になったわよ。どんなすごいことかと思ったらほんわかしてたからね」


ギュッとするのよ、だからなぁ。

そりゃそうか。

俺も実際にそう思ったし。


「だから今では自分の得意な魔法のイメージをどれだけ素早く組み立られるかが勝敗を分けるのよ」


「なるほど」


「うーん、完全無詠唱魔法はよくわからない。とりあえずイメージをちゃんとやれってことはわかったけど」


「そうね。結局のところ1番大事なのは魔法のイメージね。戦ってる最中でもちゃんとイメージできるようにすることが大切よ」


そこまでキャスティーさんが言うと、黒板に書かれた内容を消していく。


「さて、そろそろ魔法の話はおしまい。歴史について勉強していきましょうか。ロックマップ」


そういうとキャスティーさんの魔法により大きな机に土でできた世界地図が現れる。

それはただの地図ではなく凹凸があり、山脈などの地形も視覚的にわかりやすくなっている。


「おお、土魔法。さすがキャスティー先生」


「ふふふ、褒めても何もできないわよ? あ、リアちゃん。この国どこかわかる?」


なキャスティーさんは地図の一角を指差しながら主人マスターに問題を出す。


「うげー先生、私に問題出さないでよ。えーとここは……あ、ディゴリラ帝国! そう、ディゴリラ帝国!」


「ちょっと違うわね」


「え、本当? 絶対あってるかと思ってたんだけどな……ユメお願い」


「おい俺に投げるんじゃねぇよ」


主人マスターはキャスティーさんの問題を俺に全部ぶん投げてきた。


「じゃあ、ユメくん。答えてくれる?」


「え、これ通るんですか」


主人マスターのキラーパスが俺に通ったので思わず聞き返す。


「まぁまぁいいじゃない。それで、答えは?」


「はぁ……ディガリア帝国です」


「あー! それそれ!」


「正解よ」


キャスティーさんのその言葉と共に各国の名前が地図に記されていく。


「ディガリア帝国。かつてここ、アルファウス王国と戦争をした国」


「確か今は停戦状態なんですよね?」


「えぇ、サイケス聖王国が『魔王』復活の兆しがあると警鐘してそれを聞いた2国が人類同士で争っている場合ではない、とね」


「……それってそんな簡単に停戦できるものなのですか? 戦争ってそう単純じゃないと思うんですけど」


戦争って互いに恨みとか残ってそう簡単にまとまるとは思えないんだけどな。


「ユメくんの言う通り。簡単にはまとまらなかったのよ。国の偉い人たちは戦ってる場合じゃないってわかってるけど現場の兵士はそれどころじゃなかったのよ」


「それでも停戦したんだよね?」


「そう。その間にいろんなごちゃごちゃがあったんだけどその中で大きな事件があったのよ」


「事件?」


「そう。アルファウス王国の兵士の一部がサイケス聖王国の『魔王』復活は嘘だってディガリア帝国に無断で攻め込もうとしてたのよ」


俺はそれを聞いて冷や汗をかいた。

だってそうなことをしたら……


「停戦どころじゃ……」


「ええ、実際成功したら今でも戦争していたでしょうね」


「ちなみにそれって誰が防いだの? 今戦争やってないってことは誰かがそれを止めたんでしょ?」


主人マスターが俺も気になっていたことをキャスティーさんに質問する。


「それが他でもないレーディアル伯爵とその部下の方々なのよ」


「え、すご。よく気づいたね伯爵」


「それな。本当すげぇや」


そりゃ伯爵にまでなるわけだ。

止めなければ戦争が続いて更なる被害者が出ていただろう。


「その部下の人たちもレーディアル伯爵のとこにいるの?」


「一部の方々はいるけど大部分はいないみたいよ。別の人に雇われたりしてるみたいね」


「なるほど……」


「キャスティー先生、さっき言ってた聖王国の『魔王』ってなんなの? あと『勇者』も」


「『魔王』っていうのは魔物の中で知恵と強力な力を身につけた特殊な個体に送られる呼び方よ。『勇者』はその『魔王』を倒すことができるとサイケス聖王国が認定した人がそう呼ばれるの」


「質問なんですけどその『魔王』の復活ってなんでサイケス聖王国はわかるんですか?」


急に魔力が強くなった、みたいなことなら他の国でも予測できる気がするんだけど。


「さぁ、それは国家機密になっているからわからないわね。ただ、かつて『魔王』の復活を預言しそれが見事に当たったって言う事実があるから『魔王』と『勇者』関係にはサイケス聖王国は絶大な影響力があるのよ」


「因みにだけどそれってどれくらい前の話なの?」


「確か400年くらい前の話じゃなかったかしら」


「そんな昔!?」


そんな昔のことが事実ってよくわかるな。

400年事実だと分かるほど酷いものだったのだろうか。

それだとしたら相当やばくないか?


あ、だから団長に学園に行ってレベル確かめろとか言う人がいるのか。


「だとしたら今やばくないですか? その『魔王』の被害って相当やばいですよね」


「そうよ。それもあるから停戦合意したのよ」


「知らない間に世界滅亡……?」


「まぁ、400年前よりも圧倒的に人類は成長しているから前回よりはマシだとは思うわよ?」


「それでもやばいですよね」


「それは間違いないわね。そのためにもしっかりと魔法と剣の訓練をしましょうね」


「はい」


「はーい」


キャスティーさんによる俺と主人マスターの講義は続くのだった。



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