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貴族騒動



「…………」


「…………」


団長室を気まずい沈黙が支配する。

ソファーに座るのは俺、主人マスター、リック、団長。

そして反対側には知らない赤髪の男性。


「ねぇ、この感じどうにかならない?」


「お前……よく喋れるな空気の中で……」


主人マスターの発言に俺は呆れる。

いや、呆れを通り越してどこか尊敬しそうだ。


「さて、ユメ。君はドムニル家のご令嬢にスカウトされたんだってね」


「ご令嬢……あぁ、あの茶髪の女の子ですか。はい。部下になりなさい、などと言われましたね。断りましたけど」


「……はぁ……」


俺が団長の質問に答えると赤髪の男性が深いため息をつく。

どこか疲れた顔だ。


「すみません。少々厄介なことになりましてね。私はグレル=アグラニド。『火鳥フィバエル』のアグラニド家現当主です。以後、お見知り置きを」


赤髪の男性は丁寧にお辞儀をする。

すげぇ。

さっきのため息をついていた人とは思えない。

というよりそれ以上に


「アグラニド家……貴族の方ですか。あの、それで厄介なことというのは一体?」


俺は言葉遣いに気をつけつつそう言う。

貴族に失礼なことは言えない。

だけど厄介事は気になる。


「あなたには申し訳ないのですがもう巻き込まれてしまったんです、厄介事に」


「ユメが巻き込まれた……ってマジ……ですか……」


赤髪の男性……もといグレルさんにリックは言葉を直しながらそう問う。


「あぁ。簡単に説明すると貴族たちの勢力争いだな」


「団長、勢力争いって貴族全員が敵対してるってことですか?」


もしそうならこの国相当ヤバいことになるが。


「いや、そういうわけではありません。表立って争っているのは『水鯨エアホエル』のスギライト家と『土亀アースシェイル』のドムニル家です」


「『火鳥フィバエル』に『水鯨エアホエル』、『土亀アースシェイル』これに加えて『風馬ウィルシル』と『雷竜サンリエル』が今の王国の公爵ですよね?」


俺は自分の頭の中を整理しつつそう確認を取る。

それに対し、団長とグレルさんが頷いてくれた。


この国には火、水、風、土、雷の基本属性ごとに貴族の中で最高位である公爵が存在する。

それぞれにはこの国の伝承をもとにした聖獣が二つ名のように貴族に付けられている。


例えばグレルさんのアグラニド家。

アグラニド家は火属性の公爵だ。

二つ名は『火鳥フィバエル』、かつてこの国に襲いかかった病を一瞬で治したらしい。


「えぇ、その中で『水鯨エアホエル』のスギライト家と『土亀アースシェイル』のドムニル家が王国の方針について酷く対立していましてね……」


「国の方針?」


「はい。簡単にいえば王国はこれから軍事をとるか政治をとるか、ということです」


なるほど、価値観からの対立か。

こう言った騒動は俺の世界だけの話じゃないんだな。


「スギライト家は軍事、ドムニル家が政治だね。それぞれ行動を起こして支持を集めている」


「軍事っていうのはわかるんですが政治というのは具体的にどういったものなのですか?」


「そうだね……祭りの規模を大きくしたりといった感じだね」


だいたいこんな感じか。


スギライト家は軍事拡張が目的。

それに対してドムニル家はさらに国を盛り上げるために祭りなどのイベントの規模を大きくしようってことかな。


「スギライト家は軍事のための技術の開発に熱心でしてね。魔導列車を見たでしょうか? あれもスギライト家によりもたらされたんですよ」


「魔導列車……あぁ、王都と他の都市を繋いで走っている……」


俺が王都に来た時に驚いたやつか。


「すごいですよね。これなら離れた都市の間でも素早く移動できますし」


「えぇ。これがブロイル魔導国では当たり前のように存在しているのですから」


グレルさんは羨ましそうにそう言った。


「あれ? 魔導列車はスギライト家が開発したものではないのですか?」


「いえ。魔導列車はスギライト家が王家に働きかけてブロイル魔導国から友好の証として輸入したものです」


なるほど、スギライト家が開発したってわけではないのか。

機関車もとい魔導列車があるのに馬車なのはおかしいとは思っていたけど。


「そこでスギライト家はさらに軍事も増強すべきだと武器の輸入は技術研修を提案しているね」


「それに対してドムニル家は戦争を起こすつもりかと、平和な今国の活気をより良くすることが大切だと言っているわけです」


「それって実際戦争をやろうとしてるの……ですか?」


気になったのかリックがそう質問した。

俺も気になる。


「戦争とは言ってないですが今後何があるかわからない、平和な今だから急いで軍備を整えるべきだとスギライト家は言っています」


「なるほど。別に軍備を整えることは悪いことじゃないですからね。国を守るためだし大事なことだ」


リックの言葉にグレルさんは頷く。


「ですが何かを焦っているのかその勢いが凄まじいのです。それこそアルファウス王国は戦争の準備をしているのではないか、と他国に疑われてもおかしくはないくらいには」


グレルさんは何かを思い出したのは本当に疲れたような顔を見せる。

何があったのだろうか。


「ともかく、スギライト家に対してドムニル家がよくない感情を抱いてるのは想像できるだろう?」


「そうですね。最悪戦争に発展しかねないですし」


団長の発言に俺は納得する。

国が滅ぶ可能性があるからな。


「だけどそれでもスギライト家は強引に軍拡を進めようとする。こうしてスギライト家とドムニル家は対立することになったんだ」


「その結果が互いの勢力の増強です。つまりより影響力をもった方が勝つということです」


「影響力……でもそれってわかりにくくないですか?」


主人マスターが気になったのか口を出す。


「いや、そうでもない。影響力っていうのは別の方向で測ることができるのさ」


「別の方向?」


「そう。例えばどれだけ優れた味方がいるのか、とかね」


そこで俺はピンと来る。


「なるほど。だから互いにスカウトをしまくっているわけですか。強かったり優秀な味方がたくさんいればそれだせその貴族の影響力が強いってことですね。まぁなんで俺がスカウトされたのかはわかりませんが」


別に街で戦ったりはしてないんだけどな。

強いていうなら逃げる時に雷速使ったくらいだし。

会う前に能力とか見せたことないんだけど……


「ともかく、しばらく貴族区にはいかない方がいいです。ドムニル家に狙われていますからね。そんな中で貴族区をまともに歩けるとは思いません」


「そうですね。自分としてもあそこは勘弁ですね」


また付き纏われたら困る。

というか今更だけどリックと主人マスターってどうなってたんだ?


「団長。リックとリアはどういう経緯でこうなったんですか?」


「あぁ。街を歩いていたグレルが見つけて巻き込まれそうだと思いラディア騎士団まで送り届けてくれてんだ」


「俺だけ見つかったのか。でもこれだと2人も貴族区にはいかない方がいいですよね」


「あぁ。ユメが見つかったし2人がいつ巻き込まれるかは時間の問題だ。いかない方がいいだろうね」


団長はめんどうなことになった、と文句を口にする。

貴族のあれこれはめんどくさいと決まっているが実際に体験してみると想像以上だ。


貴族区の図書館なら色々調べられると思ったんだがな。

悪魔についてとか。


「さてと、私はそろそろ失礼させてもらうよ。家族が待っているのでね」


グレルさんはそう言いながら立ち上がるとそのまま扉の方に向かう。


「あぁ、そうだ。2人は来年学園に入学するんでしたよね」


扉に出かけたところで振り向き、俺と主人マスターのことを見ながらそう言う。


「はい」


「そうです」


「私の息子も来年学園に入学するんです。その時は息子と仲良くやってくれると嬉しいです」


そういうとグレルさんはそのまま団長室を後にした。

それを見届けると


「あぁー疲れた……」


俺は全身の力を抜く。

グレルさんがいなくなったことで緊張が一気に解けた。

別にグレルさんが嫌いだったり怖いってわけではないが貴族の前である以上緊張した。


「どうだ? 貴族との対面は。疲れるだろう?」


「これを何回もやるなんて考えたくないですね」


「そう? 私はそこまで疲れてないけど。話聞いただけだし」


「俺もそうだな」


2人は逆にすごいな。

貴族ってことに慣れてないってのも加味して俺の方が緊張するとしても貴族って身分高いんだからそれなりなら緊張すると思うんだがな。


そう、なんというか。


「はは、2人は図太いね」


「ちょ、団長!」


「別にいいだろう? 2人は気にしないだろうし。それに君も少なからず思っただろう?」


「うぐ……」


実際に思っただけ何も言い返せない……


「あ、そうだ団長。一つ聞きたいんだけどいい?」


「ん? 何かなリア君」


「貴族区ってすっごく大きいけどさ。貴族ってさっき言ってた5つしかないの?」


「いや、別にそう言うわけじゃない。王都にあるのはあくまで仮住まい。本当の住居は別にあるのさ。王国の貴族はたくさんいる。その中でも有力な貴族が王都に別荘を持っているんだ」


「へー! じゃあ見えてないだけで貴族区にはもっとたくさん屋敷があるんだ」


「その通り。まぁ5つの公爵家は国で重要な地位についているから王都に住んでいると言っても過言ではないけどね」


「ふぃー、んじゃ俺はそろそろ部屋に戻るぜ。もうすぐあの時期だしちゃんと修行しとかなきゃな」


リックはそう言いながらソファーから立ち上がる。


「あぁ、確かにそろそろだね」


「ん? おい、あの時期ってなんだ?」


「そうそう。何それ」


俺と主人マスターは気になってリックに質問する。


「あぁ、俺は年に一回爺ちゃんに会いにいくんだわ」


「爺ちゃん?」


俺がリックにそう聞き返すと


「そう、俺の剣の師匠」


リックはそう返事をするのだった。



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