表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/16

休日の貴族区


「財布よし、魔道具よし、短剣よし、バッチよし、その他もろもろよし」


俺は忘れ物をしないよう、声に出しながら荷物を確認する。

準備は大丈夫そうだ。


「さて、いくか」


俺は念の為カレンダーで今日の日付をもう一度確認した後、部屋を出た。


この世界の時間感覚は俺の世界と酷似している。

1日は24時間で1分は60秒。

月は3月などと数字が並んでいるわけではないが1週間は7日である。

そして月、火、水、風、土、雷、日と経っていく。

木曜日が風曜日、金曜日が土曜日、土曜日が雷曜日と変わっていたりするが大まかには一緒である。

慣れるのに苦労はしたが。


リビングに降りると、ごろごろしていたリックが話しかけてきた。


「お、ユメ。どこか出かけるのか? 日曜日はいつも部屋で本読んでるじゃないか」


「あぁ、ちょっと貴族区にな」


「え、お前あそこ行くのか!? ちょっと待ってろ。俺行ったことないから一緒に行くわ。なんか面白そうだし」


「理由の9割それだろ」


俺のツッコミを放っておいてリックは自分の部屋に駆け込んで行った。

リックも今日は俺と主人マスターにやる訓練がないから暇なのだろう。


いくら訓練が大事だからと言って休みがなければ精神的にも肉体的にも害がある。

そのため1週間に一回、日曜日は訓練も勉強もない完全フリーな休日があるのだ。


今日はその日曜日である。


「よし、行こうぜ!」


ハイテンションな声に振り返るとそこには大荷物を持ったリックが立っていた。


「おま、そんな荷物いつ使うんだよ」


「わからん! とりあえずそれっぽいの持ってきた!」


バカかこいつ。

これが、今のリックに対する俺の率直な感想だった。

まぁワクワクしているっていうことはわかるが……いくらなんでも多すぎな。


「ちょっと見せてみろ」


「おわっ、ちょっ」


俺はリックの声を無視して体力の荷物の中身を覗き見る。


なんだこりゃ、本当にその場にあったものをかき集めたような感じだな。

なんだよ、歯ブラシなんで持ってきてんだよ。

どこかに泊まるつもりなのか?


「これも、これもあれもこれもいらない」


「お、おいそこらの放り投げるなって」


俺がいらないと判断したものをそこら辺に放り投げているとリックはそれをリビングにある机にどんどんと運んでいく。

それはどんどんと積み上げられて行って……


「お前どうやってこんだけの荷物しまってたんだよ」


「いやー、ちょっと浮かれてたわ」


「必要な荷物はこれで十分」


俺は片手で事足りるぐらいの荷物を残してリックに渡した。


「おー、軽くなったな」


リックは手荷物をぶらぶら振り回しながら笑顔でそう言う。


「バッチはあるか?」


「おう、これだろ? これだけはちゃんと持ってろって団長に口酸っぱく言われたからな。常に持ち歩くようにしてるんだ」


リックは投げたバッチをキャッチしながらそう言った。

団長が口酸っぱく言うなんて珍しい。

前も思ったがこのバッチはすごいものなのだろう。


「ともかくいくとするか」


「そうだな。あ、そういや気になってたんだがリアのやつはどこにいるんだ? いつも一緒にいるだろ?」


「ん? あぁ、あいつならーー」


俺とリックは貴族区へと繋がる門に向かう。

そして門の前には


「なんでこいつがいるの?」


「ほら、ここに」


「なるほどな」


主人マスターが不満そうな顔で俺たちを出迎えたくれた。


「先に行ってるってことだったのか」


「そういうことだ」


「ちょっと無視しないでよ。なんでこいつここにいるの?」


俺とリックが会話していると痺れを切らした主人マスターが割り込んできた。


「ん? あぁ。出かけようと思ったら暇だからってついてきてな」


「そういや俺も貴族区行ったことなかったと思ってな。どうせあそこにいてもやることはなかったし久しぶりに外に出ようと思ったんだ」


「ってかこいつじゃなくてリックって名前で呼んでやれよ。そんなに嫌いか?」


「嫌い……ではないけどなんか嫌なやつ」


「それって嫌と何が違うんだ?」


リックはそんな疑問を俺にぶつける。


「いや、俺に聞かれても困るんだが?」


「まぁ、きちゃったものは仕方がないし早く行こうか」


「そうだな。ここで立ち止まっていても仕方がない」


そう思い、俺たちは門を潜る。

門に足を踏み入れた瞬間、何かに観察されているような感覚がした。

おそらくこれが魔力を感知する機能なのだろう。


「なんか感じしたんだけど」


主人マスターもそれを感じ取ったのか不愉快そうな表情を浮かべていた。

それに対してリックはなんともなさそうにピンピンとしていた。


「リック、お前変な感じなかったか?」


「変な感じ? さぁ、わからんな。単純に俺が気づいてないだけかもしれん。でも別に敵意は感じなかったんだろ?」


「それは……そうだが」


確かに敵意は感じなかった。

こちらを害そうとするような感覚もなかった。

考えすぎか?


「ここは貴族区だからな。ちゃんと検査しようってことじゃねぇの?」


「そういうものなのかな。うん、そうかも。変に考えても仕方ないし」


主人マスターはリックの言葉に賛同した。

それもそうか。

貴族区に不法侵入があったら大変だもんな。


「そうだな。深く考えても疲れるだけだ。今日は休みに来てるんだからな」


せっかくの休暇なのに考え込んむなんて勿体無いしな。

そう、休暇だから楽しまなきゃ損なのだ。


「んで入ったはいいものの……」


俺は貴族区の街並みを眺め、歩きながら呟く。


「……あぁ」


リックも俺と同じ考えを持っているのだろう。

俺の発言に頷いた。


「あんま変わんないね」


「おい」


「せっかく俺とユメが誤魔化したってのに」


「でもあれだな。貴族区って家族の親族も住んでいるっぽいからな。一般住宅も平民区よりもちょっと豪華だし」


「あーそうか。貴族のいる屋敷だけってわけじゃねぇもんな」


俺は貴族の屋敷だけの貴族区を想像してみる。

貴族区には馬鹿でかい庭付きの馬鹿でかい屋敷が乱立している。

建物の建てられる感覚とかも長そうだからだいぶ寂しい光景になりそうだ。


「でもところどころにでっかい屋敷があるし貴族はちゃんといるんだろうな」


相変わらず奥には立派な王城が立っているし。


「それでみんなどこにいくつもりなの? 私は適当に街を見てみるつもりだけど」


「俺もそうだな。特に目的があったわけじゃねぇしぶらぶらしてるわ。ユメは?」


「俺はちょっと図書館行ってくる。そういや俺まともな図書館行ったことないなって思ってな」


「えぇ? キャスティーさんに教わってるし行く必要なくない? 本なら大量にあるじゃん」


「単純に俺が気になったってだけだからな。勉強しに行くわけじゃないさ」


貴族区の公共施設がどう言ったものなのか興味あるしな。

どれだけ豪華なのか、とか。


「そっか。じゃあここでお別れだな。日が落ちたら門のとこで集合しようぜ」


「了解だ」


そこで俺はT字路を左に曲がる。

さっきちらっとだが図書館っぽい建物が見えたのだ。

結構遠そうだが仕方ない。


「つかなんで私こいつと一緒に行動しなきゃ行けないんだろ。……あ、なんか面白そうなのあったら買ってれる?」


「はっ! やなこった!」


2人は俺とは逆に右に曲がる。

ここで一旦俺たちはお別れだ。


「とは言ってもやっぱ貴族なんだな」


俺は歩きながら周囲の人々を見るとその服装が豪華なものであるとわかった。

親族とは言えやはり貴族、金を持っている。


時々大きな屋敷が見える。

そこに本物の貴族が住んでいるんだろう。

一体どんな服を着ているのだろうか。

きっと超高級な素材とかを使ってるんだろうな。


と、俺がそんな想像をしていると俺の横に馬車が止まる。

うん? 馬車?

この前機関車見たんだが自動車的なものはないのか?

というかなんで止まったんだ?

なんかの店の前か?


そう思い俺は周囲を見渡すがそこにあるのはただの住宅であって店ではない。

親戚に会いに来たとかなのか?

それとも単純に馬車に乗って家に帰ってきたとか?


まぁどっちにしても邪魔になるだろう。

ちょっとペースを上げるか。


俺は少々早歩きで図書館を目指す。

すると後ろからガラガラと音がして振り向いてみると馬車が俺についてきていた。

俺が足を止めると馬車も止まる。


「えぇ?」


ちょっと待て。

なんでついてくる。

俺別にあなた方に何もしてないんだが!?


いや怖すぎ。

急に家族に絡まれるとか怖すぎるだろ!

うん、逃げよ。


俺は全力でその場からの逃走を開始する。

すると馬車も全力で俺を追いかけてくる。


「あぁクソ! せっかくの休暇なのになんで貴族と鬼ごっこせにゃならんのだ!」


俺は角を曲がり薄暗い路地に入る。

この狭い場所なら馬車は入ってこれないからだ。

路地は入り組んでいるはずだ、逃げるにはもってこいだろう。

土地勘がないから迷う可能性が極めて高いが……うん、貴族に捕まるよりはマシだ。


とりあえず魔道具で連絡を取ろう。

俺は路地を走りながら懐から魔道具を取りだす。


「団長聞こえます?」


『おや、どうしたんだい?』


俺が魔道具で呼びかけるとすぐに団長が出てくる。

ありがたすぎるぜ団長。


「ちょっと今貴族っぽい馬車に追いかけられててですね」


『貴族と鬼ごっこか。君は一体何をしたのやら』


「団長この状況楽しんでません? ってよりこれどうすりゃいいですか? 面倒ごとになりそうなんで逃げてるんですが」


『君は別にその貴族に何かをしたわけじゃないんだろう?』


「そりゃあもう。ただ道を歩いてただけですよ」


俺は特に何もしてない。

そもそもそんなことする勇気すらない。

明らかに高そうな馬車にちょっかいなんかかけるか。


『ふむ。因みにだがその馬車に何か特徴はあったかい?』


「特徴? 特徴といえば……」


俺は先ほど見た馬車を思い出す。

記憶の中の馬車は……


「あ、亀?」


『亀……なるほど、ドムニル家か。ユメ、厄介なところに目をつけられたね』


「は?」


『とにかく、見つかったら面倒くごとは避けられない。ひとまずは急いで戻っておいて。ラディア騎士団なら向こうも簡単には手を出せない』


「了解です。因みにリックとリアもいるんですが」


あいつらも絡まれてないといいんだが。


『あぁうん。そっちはもう大丈夫』


「え?」


団長のほっとしたような声を不思議に感じていると後ろから明るい声が聞こえる。


「むむむ! いましたわっ!」


それを聞いた瞬間、俺は反射的に服についているフードを深く被る。

フード付きの服愛用しててよかった!


向こうから俺の顔は見えていないだろう。

馬車も後ろから来たから俺の顔はまだ見られていないはずだ。


「おやおや、お嬢様。ここは危険でございます。お下がりください」


「いいえ爺や! さっき見かけたお方を見つけたのですわ!」


「ほほう。これはこれは流石はお嬢様でございます」


路地の入り口の方には豪華な服を着た華奢な少女と執事服の老人がいた。


いやはや、これまたベターな。

完全に貴族じゃねぇか。


「なるほど。確かにこのお方は相当な実力者であると思われます」


「そうでしょ爺や! やはり私の目に狂いはなかったのですわ!」


老人の言葉に少女は自慢げに胸を張る。

俺は一体何を見せられているんだ。

ともかく、ひとまずはここを離れるとしよう。

このまま会話に夢中になってくれると非常に助かる。


そう考え、俺は音を立てずに一歩後ろに下がる。

だがその逃げるという行動は気取られてしまう。


「おっとお待たせしてしまいましたな。お嬢様、目的を果たさなければ」


「あ、そうでしたわ!」


少女は思い出したように俺の方を向き、言葉を発する。


「あなた。私の部下になりなさい」


それは絶対に断られないという圧倒的な自信が感じられる言葉だった。


部下、貴族様直々にスカウトか?

こりゃ光栄な話だ。

だが俺の答えは決まっている。


「部下……ね。申し訳ありませんが私はもう主人マスターがおりますのでお断りさせていただきます」


その言葉と共に俺は雷速を発動する。

路地は複雑に入り組んでおり誰1人いない。

ここなら雷速を思う存分使える。


貴族区エリアでは屋根を飛び回ったりはできない。

屋根を踏まれるなんて嫌だ! という家庭が山のようにいる。

貴族の親族なのだから当たり前かもしれない。


ともかくあいつらのいない大通りまで出てそこから門を目指そう。


そこまで考えた時、魔道具から連絡が来る。


『やっと繋がった。やはり絡まれたかい?』


「えぇ! 部下にするとか言ってましたよ!」


『ははは! それで逃げ出してきたのかい。君、門の位置はわかる?』


「俺は貴族区ここ初めてなんでね。さっぱりですよ」


『なるほど。じゃあ今から私の指示に従ってくれ。まずそこの路地を出て大通りを左』


俺は団長の指示に従い動いていく。

団長はよくわからない人ではあるが俺たちの不都合になるようなことはしない。

それはここ数ヶ月でよくわかった。


「曲がりました」


『次も左、そしてその次に右に曲がってさらに右』


俺は全速力で大通りを走る。

だいぶ目立っているが気にしたら負けだ。

周りの視線なんて無視だ無視。


『最後にそこを曲がれば』


「あ、見えました!」


俺の目の前には集合の約束をした門が立っていた。


『よし、あとは大丈夫だね。団長室で待ってる』


「了解です!」


俺はそのまま門を潜り抜け、雷速で屋根の上に飛び乗る。

そして俺の部屋に窓から戻るのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ