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一年後の依頼



「グラウディア王立学園?」


団長から出た聞き覚えのない言葉に思わず俺は聞き返す。


「ああ。この国……いや、世界でも最高峰の学園だ」


「世界で最高峰……そりゃすごいですけどなんでそんなとこにいくんですか?」


「だよね。私とユメはキャスティーさんからいろいろ教えてもらってるから勉強の心配はないと思うんだけど」


主人マスターの言っているとおり俺たちには理由がない。

勉強もキャスティーさんから教わっているため不安はない。

キャスティーさんからも問題はないと言われている。

無論それがお世辞である可能性もあるが他の団員と話したりする中で特に知識に困るものはなかった。

常識は身についていると言ってもいいだろう。


魔法や剣についてもリックやこれまたキャスティーさんから教えてもらっている。

教育という面から見たら俺と主人マスターはそのグラウディア王立学園とやらとも遜色ない教育を受けていると思う。


「あぁ、キャスティーからちょくちょく報告を貰うが問題ないと言っていた。学園で学ぶのは基本戦闘についてだからな。もちろん文学もあるが重要なのは戦闘だ。戦闘についてはもちろん、文学についても問題はないだろう」


団長は俺たちがグラウディア王立学園で学ぶことは特にないと言い切った。

それだったら一体どうして?


「あ、ラディア騎士団関連ですか?」


俺は思いついた一つの可能性を団長にぶつける。

ラディア騎士団関連で学園に用があるのなら俺たちがいくのにも納得ができる。

今思えばラディア騎士団の仕事が冒険者の対処できない魔物だけというのも少なかった気がする。


「えーじゃあ何? 友達作ってきてーとか?」


俺とは別の方向で主人マスターがそう言う。

そういや俺たちってまともな友人っていなくね?


ずっとラディア騎士団のところにいたから知り合いがいないってわけじゃないけどせいぜい数人……うん、少ない。


「2人とも正解だ」


俺と主人マスターの答えに団長は満足げにそう言う。


「2人ともってことはやっばりただ友達作りにいくだけじゃないんですよね?」


「もちろん友達作りをして欲しいっていうこともあるけれどもね。ちょっとグレイドから頼まれちゃってね」


団長のいうグレイドという人が誰かはわからないがラディア騎士団の団長に頼めるってそうとう高価な人なんだろうな。


俺がそんなことを考えていると主人マスターが団長に思ったことをそのまま口に出した。


「頼まれた?」


「うん。今の学園の子供達のレベルを確かめてこいってね」


「レベルを確かめてこい?」


「そう。簡単に言えば今の子供はどれくらい強いんだ? ってことを調べたいんだって」


子供がどれだけ強いか調べるって……なんかすごいこと考えてるな。


「その学園って世界最高峰なんですよね?」


「あぁ、それを踏まえて現時点での強者のレベルが知りたいらしいよ」


無茶振りで困るよね、と団長は肩を落としながらめんどくさそうに文句を言う。


「ともかく、それを調べるには直接学園に行くしかない。でも今のラディア騎士団って顔が割れちゃっててね」


「……それで顔が知られていない俺とリアが行くってことですか」


「そういうこと」


「それって今から行くの?」


主人マスターは学園のことが気になっているのかそう質問した。


「いや、今すぐってわけじゃない。多分一年後くらいじゃないかな」


「一年!?」


想像以上に時間が長くて俺は思わず叫んでしまった。

俺の仕草に主人マスターと団長が驚いた様子で俺のことを見つめていた。


「……それでなんで今その話をしたんですか?」


恥ずかしくなった俺は気を紛らわすように団長に話の続きをするように促す。


「……あ、あぁ。話をしたのはグレイドが早めに説明してやれって言われてね」


「確かに団長残り数日とかでいいそうではありますもんね」


「急に言い出しそうではあるよね」


団長のことだ、突然だけど今から学園に行ってとか言われそうだ。

一年も先のことを言うのは早い気もするがそれでも急に言われるよりもいい。

俺と主人マスターはグレイドさんの気遣いに感謝するのだった。


「ちなみに学園ってどこにあるんですか?」


「グラウディア王立学園は貴族区にある」


「貴族区?」


主人マスターは貴族区を聞いたことがないのか質問する。


「俺たちが今いる王都は円形状になっているんだ。そんで外円の平民区と内円に別れているんだ。シェアハウスの後ろに巨大な壁があるだろ? アレが平民区と貴族区の壁なんだ」


「あ、あれそうだったんだ。一体なんだろって思ってたんだよね。今思えば一回も向こう側行ったことないや。ユメは?」


「俺も行ったことないな。特に行く予定ないし、貴族と関わりようがないしな」


「ラディア騎士団としても行くのはほぼ私とドルネスくらいじゃないかな。魔物退治するときも基本平民側にしか魔物は現れないしね」


「……確か貴族区の人々から漏れ出る魔力は結界の維持用の魔力に回されてるんでしたっけ」


「そう。学園も結界の維持として重要な意味を持っているんだよ。もちろん、君たちにとってもね」


団長は俺たちに視線を向けてそう言った。

特に主人マスターの方に視線を向けて。


「リアくん。君に頼まれていた秘薬だけどね。正直言ってまだ掴めていないんだ」


「……そう、ですよね。そう簡単に見つかりはしないですよね」


「すまない。ひとまず今私が知っている薬について知人に聞いたらしてみたが君の言う秘薬ではなかった。今はそれらしき秘薬について書かれた文献を探しているところだ」


「ありがとうございます。私じゃできたとしても長い時間がかかることを……」


「ただね。私でも見ることができないものがあるんだよ」


「見ることができない?」


ラディア騎士団って国の機関だよな。

しかもそのトップである団長でもみられないってそうそうあるものなのか?


「あぁ。それは学園にあるレミニセンス大図書館だ」


「大図書館? 学園の図書館にその文献があるんですか?」


「その通り」


「でも学園ですよね。学生でも閲覧できる文献をラディア騎士団の団長が見れないってことはあるんですか?」


「学生でも見ることはできないのさ。その図書館の司書に認められなければ閲覧はできない」


「司書に認められる?」


今度は主人マスターではなく俺が団長に向かって質問した。


「そうさ。とはいってもそれはわからない。そもそも学園には生徒しか入ることはできないからね。学園に入学できる年齢なのは君たちだけだからそう言う面でも行ってもらいたいんだ」


「年齢……今更なんですけど俺とリアって年齢違いますよね。俺が15歳でリアが14歳ですし」


俺の世界換算すると俺は高1で主人マスターは中3に当たる。

近い年齢ではあるが中学と高校と壁があるのだ。

いや、でも来年だもんな。

そしたら俺たちは俺の世界基準でどっちも高校生になるわけか。


「そうそう、言い忘れていたよ。リアくんにはそのまま新学年として入学してもらうのだがね。ユメくんにはちょっと第二学年に編入してもらうことになる」


「学園の編入も入学と同じような感じなんですか?」


「編入は別に編入試験があるらしい。入学試験とは完全に別物になってるわけだね」


「編入って結構してるんですか?」


流石に編入するのが俺1人だと気まずいのだが。

試験管と一対一とかどんな罰ゲームだ。


「なんたって世界に誇る学園だからね。編入もそれなりの数あるんじゃないかな。無論、入学もね」


団長は俺と主人マスターに油断するなと釘を刺した。


「とは言ってもまだまだ時間はあるからね。せっかくだし貴族区にでも行ってきたらどうかな?」


「貴族区ってそう簡単にいけるものなんですか?」


団長が散歩にでも行ってきたら、とでも言うように提案したことを不思議に思い俺はそう質問した。


貴族区は貴族が住んでいる場所であって団長とドルネスもたまにしか来ないって言うことしかわからない。


とはいえ貴族が住んでいるのにそんな簡単に入れたらやばいんじゃないだろうか。


「もちろんそんな簡単には入れない。入るには特定の魔力が込められた証が必要なんだ」


「証?」


「ああ。例えばそう、リアくんがつけているそのバッチだ」


その言葉に主人マスターはバッチに目を向ける。

俺もポケットに入れてあったバッチを手に持つ。


「それは結構優秀でね。貴族区はもちろん王城とか学園を除いてこの国の大体の施設には入れるよ」


「最初にもらったバッチがそんなにすごいものだったとは……」


俺はバッチを掲げて声を漏らす。


「これを門番に見せたりする必要があるんですか?」


主人マスターは団長にそう質問する。

確かに。

持っているだけでいいのだろうか。


「いや、特に問題はないよ。門自体に魔力を感知できる機能があるんだ。一応門番はいるけどあってないようなものだね」


「なるほど……ここ最近ずっと訓練と勉強ばっかだったしたまには息抜きとしていってもいいかもな」


「そうだね。たまには魔物退治以外の理由で外出てもいいかも」


「ま、そういうことは大事だからね。楽しんできなよ。でも、ちゃんと礼儀は正しくね? 大体の貴族は寛容だけど中にはうるさいやつもいるからね」


団長は実体験があるのかしんどそうな顔を浮かべて警告した。

本当に嫌なことがあったんだろうなとその様子からわかる。


「わかりました」


「了解出す」


ありがたい警告に俺と主人マスターは素直に頷いた。

せっかくだし貴族区にある普通の図書館にでも行ってみるか、とそんなことを考えながら俺は団長室を出て行った。


それにしても学園……か。

俺は心にかつての知り合いを浮かべるのだった。



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