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悪魔召喚



『まもなく2番線に各駅停車◯◯行きがまいりますーー』


アナウンスを聞き、ベンチに座りスマホをいじっていた俺は立ち上がる。

スマホには学校の友人からのLINEの通知が届いていた。


『明日の宿題の答え写させてくれよな、親友。お前一人暮らしだし家行ってもいいだろ?』


「こいつ……調子に乗りやがって」


焼きそばパンでも奢らせるか、と考えながらホームに立つと視界の端から電車がやってくるのが見える。


そこで気づく。

ベンチに先ほど買ったばかりのカフェラテがあることを。


「あっぶね、忘れてた」


幸いベンチに取りに戻り再び電車に乗りに戻る時間は十分ある。

さっさととってこよう、そう考えた時だった。




「ーーは?」



突如として体が、視界が傾いた。

そう落ちているのだ、電車が迫っている線路に。


足を踏み外したわけでもない。


わざと落ちようとしたわけでもない。


誰かに直接押されたわけでもない。


ただ急に何かに体が吹き飛ばされた。

風ではない。

人を飛ばしてしまうような強い風なんて吹いていない。


何に?


わからない。




一体なんで、どうして!

なんで俺がこんな間に合っているんだ!


あぁ、電車のライトの光が見える。

嘘だろ?

こんなところで死ぬのかよ俺。

まだ高校生だってのに……

現代医療の力を信じるほかないか、頼むぜほんと。


……はは、気のせいかな周りの景色が遅く感じる。

なんでこんな考えてる暇があるんだろうな。

普通だったらもうすでに跳ねられているだろうに。

体感でもうだいぶ時間経ってるぞ。


なんだ?

スポーツのゾーンとかいうやつか?

それならもっと別の機会に起こって欲しかったな。


せっかくなら、そう。

俺の部活の大会の時に。

もしかしたら優勝できたかもしれない。

まぁ、今更すぎるか。


ホームでたくさんの人たちが慌ててる。

そりゃそうだよな、こんなことが起こったんだから。

おい、そこスマホで動画撮るな。

そんなことやってる暇あったらさっさと助けろよ。


……ってもう遅いか。

もう電車の車体がはっきりくっきり見える。


俺が最後に見る景色がこれか。

人が慌てふためく光景。

事故であった人たちは毎回こんな光景を見てるのか?

死ぬ直前にも変な光景を見る羽目に……ん?


ほぼ生きることを諦めながらぼんやりとホームの人だかりを眺めているととある人物に目がいく。


何か特別ヤバいことをしていたわけでもない。

ただ、髪の毛の色が特徴的でたまたま目に留まっただけだった。


灰色の髪を持った女性、フードを深く被っているが倒れている俺からだとその表情がハッキリと見える。



その表情から感じ取れたのはーー



なんで、そんな冷静なんだ?


他の奴らは恐怖の顔だったり、逆に興奮しているような顔だったりなんらかの変化がある。

でも、お前は違う。


冷静に、真っ直ぐ俺を見つめている。

まるで最初から知っていたかのように……


まさか……お前か?

お前が、俺をここに突き落としたのか?

お前が……俺を殺そうとしたのか?


一体なぜ、なんで。

俺は別にお前に何かしたわけじゃない。

なんなら関わったことすらない。


心の中で様々な感情が入り乱れる。

それは死に対する恐怖であったり、半受け入れつつある諦めだったり、自分が殺した可能性のある女性に対する怒りであったりする。


だが、その中で1番強いのはーー




お前……なんなんだ。




困惑であった。


お前が俺を殺したのか?

それとも今の俺の状況について何かを知っていたのか?

わからない。

何もわからない。


せめてお前が何者なのか……それだけでもーー



ーー



「きゃーーーー!!」


「うわぁぁぁ!?」


次の瞬間、駅のホームに悲鳴が響く。

電車も先ほどとは異なり勢いよくその場を通り過ぎる。


大勢が駅のホームに集まり、現場の周囲に集まる。


「どいてください!」


「そこの人! 道を開けて!」


野次馬の中に駅員、そして更なる人がそこに殺到する。

そんな中、人混みに紛れてとある女性がゆっくりと歩いていく。


『それでよかったのかい?』


女性の頭の中に男とも女とも受け取れる中性的な声が響く。


「いいんだよ、これで」


そんなは言葉に女性はめんどくさそうに答える。


『でも、まだあの子には関係ないじゃないか。わざわざこちらに引き込まなくてもいいのにさ』


「それでもいいさ。結局あいつは俺と同じ選択するよ」


『そういうものかね?』


「そういうもんさ」


『ふーん?』


その声は子供のような微笑ましい存在を見たように嬉しそうな声だった。



ーー



「はぁ、はぁ、はぁ……」


1人の少女が森の中を駆け抜けている。

まるで何かに追われているかのように……否、実際に追われているのだ。


何に?


「おい待てこのクソガキ! この薄汚い月狐族の奴隷が!」


そう、人間に。


「にげ……なきゃっ!」


少女はどこか目的地があるわけでもなくただまっすぐ逃げる。

自身を追う人間から逃げるために。


少女は追っ手の視界から外れた瞬間、近くにあった背丈の低い草藁に隠れた。


「クソ……どこ行きやがった! 痛い目に遭いたくなかったらとっとと出てこい!」


少女は必死に息を殺して隠れる。

しばらく経つと追っ手が別の場所へ向かおうと離れていく音が聞こえた。


少女は無事に逃げ切ることができた、と安堵した。


だが、


「〝動くな〟」


「っ!?」


その言葉を聞いた瞬間、少女は一切動けなくなった。

手も足も何もかもが動かない。


「いやはや、隷属の首輪は有効範囲が短いのが欠点ですね。より性能のいい魔道具が開発されればいいのですが。じゃなきゃ貴方のような上玉を逃すハメになりませんからねぇ?」


目の前に現れた男はいやらしい口調で少女を眺めながらいう。


「ボス! やりましたね!」


「ええ、ここまで誘導してくれてありがとうございます」


そこまで会話を聞いたところで少女は気づく。

はめられたと。


はめられた、はめられたんだ!

さっきの人もそう。

多分もっと早く走れたはず。


わざとここまで誘き出して……


「さて、戻りますよ。奴隷。貴方はいい取引相手が見つかったので特段逃すわけにはいかないんです」


先ほどまでの軽い口調とは異なり、その目から決して流さないという決意をひしひしと感じる。

それを本能で理解した少女は察する。


今、このタイミング以外ではもう2度と逃げることはできないと。

どうにかして逃げなければならないと。


でもどうやって逃げれば……


この首輪があると、私は力が出ない。

それにどうにか動けたとしてもあの男の人に何が言われたらそれでおしまい。

この首輪のせいで、あの人の簡単な命令にはなぜか従ってしまう。


私じゃダメだ。

私以外の誰か。


こんな人たちをやっつけることができるくらいの強い誰か。


母様のためにも私は秘薬を見つけなきゃいけないのに!

このままじゃ連れて帰られちゃう。

せっかくあそこから出ることができたのに!


さっきあの人が言ってた。

いい取引相手がいるって。


連れて帰られたらその人のところに行くことになっちゃう。

そしたらもう2度と母様を助けられない!


ダメだよ、そんなの。

1番ダメ。


少女は懇願する。

人生で初めて心の底から願った。


誰か、助けてください。

誰でもいいです。


私を助けてくれるなら。

私の目的のために、一緒に戦ってくれるのなら!


一緒に……戦ってくれるのなら……



私の全てをあげます。



本来ならその言葉に返事が来ることはない。

当たり前だ、ピンチに陥った時に偶然神様が助けてくれるなんてことはない。

それはあくまでフィクションの中での話なのだから。


だが、それがもし必然であったなら。




『まかせろ』




「え?」


誰かはわからない。

ただ声がした。


カランッ


私がたった今起きたことを飲み込まないでいると首元の首輪の力が緩まり地面に落ちる。


「え?」


「く、首輪が……不良品か? くそ、こんな大事な時に!」


「隷属の首輪が……壊れた? いや、違う。上書き? それも違う。契約が破られた? いやいや、そんな、そんなことをできるやつなんて……!」


今目の前にいる2人の声じゃない。

じゃなきゃこんな慌てるわけない。

そう、声が聞こえたのは……私の真横……


「っ!?」


私が横を見ると、そこには黒いモヤがあった。

そしてそれはだんだんと人の形を成していく。


顔、手足などの肌が出ている部分は黒いモヤとなっている。

何もかも見透かしているかのようにその鋭い目は白く光っている。


そんな姿を、軍服とコートを掛け合わせたような黒い衣装で身を包んでいる。


一般人からしたら対面した時点で死んだと思わず考えてしまう。

そんな邪悪な姿をしたバケモノ。

首輪が外れたが勝てる気なんて全くしない。

逃げる気も起きない。


逃げることはできないと察しているからだ。

だが、それ以上に


「敵……じゃない?」


敵意を感じなかった。



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