第23章 予兆
崩壊する施設の中、エリカは敵対組織ノクスのボス、ヴァルデスにさらわれてしまった。目の前で相棒を奪われ、自分の無力感に怒るライアンの前に、同じく目の前で仲間を失ったノクスのサラ・エヴァンスが現れる。崩壊する施設から脱出し、ヴァルデスに会うという目的のため、二人は一時的に協力関係となって助け合い、無事に施設から脱出に成功した。
脱出後、ライアンとサラの二人は協力関係を継続し、ヴァルデスを捜すために動き出すのだった。
ライアンは、闇医者の隠れ家から数日ぶりに市街地に戻っていた。体は治っても、心に残る焦燥感は消えなず、ライアンはエリカの手がかり捜索のために歩き回っている。彼の隣には、顔に不満を残したサラ・エヴァンスが立っていた。
「もういいでしょ、ライアン?なんの成果もないまま、こうして街をうろついてるだけだよ。こんなアナログで非効率的な方法、時代じゃないよ」
「今はどんな情報でも欲しい。おまえを信用していないわけじゃないが、俺は体を動かしていないと落ち着かないんだ」
ライアンはそう言いながら、スマホの画面に目を落とす。街の掲示板にエリカに関する情報がないか確認しているようだ。サラはそんなライアンを見て、はぁっと溜息を漏らす。
その時、路地の奥から、耳を劈くような悲鳴が上がった。
ライアンとサラが顔を見合わせるより早く、建物の影から、ひび割れた皮膚と異様に肥大化した体を持つ化物が飛び出してきた。理性なきその「化物」は、逃げ惑う一般市民を無作為に追い回しているように見える。
「っ暴走者か!?」
声を上げるのと同時にライアンが飛び出す。左手の甲から黄色い光の盾が展開され、化物と市民の間に滑り込んだ。バチッと甲高い音が鳴ったかと思うと、化物の両手が光の盾に阻まれる。
一瞬よろけたかに思えた化物は、次の瞬間に足を大きく踏み込むと、大きな雄叫びを上げて大きく拳を振り上げた。
化物の拳が盾にあたる寸前、ライアンは盾を解いた。
盾が消えたライアンに拳が迫る。だがその拳は、ライアンが軽く身をよじっただけで、命中することなく、地面へと激突した。すぐ横の地面はひび割れ、大きな土煙を上げる中、ライアンは冷静に化物をにらみつけていた。
「邪魔、しないでくれ」
土煙が晴れていく中、ライアンのシルエットが拳を避けた姿勢のまま、だんだんと形を帯びていく。
その左の拳には、盾と同じ黄色い光が強く収束して宿っていた。
渾身の一撃を避けられた化物は、拳が地面に突き刺さった姿勢のまま、半身をよじったライアンを見る。
ライアンはそのまま、光輝く左手の一撃を化物の顔面に叩き込んだ。
「お~。見事、見事~」
暴走者が地に倒れ伏し、一難去ったか、とライアンが胸をなでおろしていると、ぱちぱちぱちとわざとらしい拍手をしながらサラが戻ってくる。
「いやー、さすがライアン殿。シリウス管理局の警邏隊長の名は伊達じゃないですな~」
サラのセリフは清々しいほどの棒読みではあったが、ほめる気持ちが無いわけではないらしい。
ライアンはこの数日、サラと一緒に行動していて、なんとなくではあるが言動の裏が読めるようにはなっていた。
「やめろ。お前と一緒に行動しているこの数日間は、管理局では行方不明扱いなんだぞ。素性がバレるような言動は避けろ」
「そんなこと言ったってぇ、ライアンが勝手に動くんでしょ?私だって一応指名手配犯みたいなもんだし、目立つような行動はしてほしくないよ。」
「それは…すまない。見過ごせない性分なんだ」
ライアンがばつの悪そうな表情を浮かべて目をそらすと、サラは「知ってる」と短く言って軽く周りを見回すような仕草をした。
サラがこういう行動をとるときは、誰かに見られていたり、近くに何か懸念事項があるときだ。
「どうした」
サラは、さっきの騒ぎの影響で近くに誰もいない状態だというのに、ライアンの胸倉をつかみ、小声で耳打ちをしてくる。
「おかしい」
「なにがだ」
「こんな暴走騒ぎがあったのに、まだ管理局の局員が来ない」
管理局だって飛んでくるわけじゃない。対応が遅れることだって何度も経験している。ライアンはサラの話の意図が見えず、疑問の顔を浮かべる。
「はあ……管理局の局員だったのに気づかないの?ここ、管理局の本部の目と鼻の先なのに、よ」
その言葉を聞いて、ライアンはハッと上を見上げる。その目線の先には、大きくそびえる管理局の本部棟が見えていた。
「まあ、大通りじゃないし、ライアンがすぐに鎮圧したけど、あのシリウス管理局が気づいてないわけないでしょ。こっちに人員を回せない理由があったと見ていいでしょうね」
サラがため息をつくように推測を話す。その言葉の裏には「チャンス」という気持ちと「得体の知れない事件の予感」の両方が見て取れた。
「で、俺たちはどう動くべきなんだ」
ライアンから発せられた、純粋に指示を仰いだ言葉に、サラは虚を突かれたような顔をする。
「私に、頼ると思ってなかった……」
サラは大きく目を見開いたまま、目をぱちぱちとさせてライアンを見る。驚いたのは一瞬で、すぐに頭を振って思考を戦略的に戻していた。
「なにが起こるか次第。もし、ノクスが……ヴァルデスが関わるような事件が起きるなら、チャンス。事に乗じてヴァルデスを問い詰める。もし違うなら……スルーかな。無駄にかかわるデメリットが大きい」
サラの意見はあくまでエリカ奪還に対して合理的に考えた結果だった。多分、今は説明のために大雑把にまとめただけで、本当は事件の規模や管理局側の対応も含めてもっと細かく行動を考えているのだろう。
「……教団関連ならどうだ」
ライアンはノクスではない場合の一例、として聞く。さっきの話ではスルーということだったから、すぐに返答が来ると思いサラの方を見ると、サラは思ったよりも難しい顔で斜め上を眺めていた。
サラはひとしきりうーんと唸ると、結論に至ったのかライアンに向き直った。
「それが一番厄介。でもそれが一番あり得る」
*
医務室でアザレア・ファマーに諭され、自分の意思で管理局を出てから数日。
ソフィアは、具体的な情報もなく、ヴァルデスを捜して彷徨っていた。歩き回るために必要なエネルギーである食事も水分も、幼少期の訓練によって得た知識で、公園に生える野草やキノコ、場合によっては食べ残しを漁って辛うじて食いつないでいるような状態だった。
正直、ソフィアは早くも後悔しかけていた。管理された生活を抜け出し、自分ひとりでは生きるだけでこの始末。目的のヴァルデスに関する具体的な情報もなく飛び出したのは愚策だったのでは。と。
だが、ソフィアにとっては、その後悔すらも初めてのことだった。
今までは誰かに決められた生き方に疑問を持たず、それで不自由なく生きていた。自分で決めたことがないからこそ、後悔も初めてのことだった。だが、ソフィアにはなぜかその感情が、不快なものには感じなかった。
――お腹が空いた。
目的をもって、逃げるように管理局を飛び出したソフィアは、自分が、あくまでただの”人間”であることを、空腹によって否応なしに自覚させられる。
だが、その時間は、通りかかった男の言葉によって突如として終わりを告げた。
「お前……リストにあった管理局の犬……だな?」
うずくまるように自分の足元を見つめていた視線を上げると、そこには白いTシャツとジーパンを着込み、後から取って着けたように赤いローブをまとった男が立っていた。
「ああ、ツイてるぜ?いやツイてないのか?」
その男は手に携帯端末を持ち、ソフィアの顔と端末を見比べながら、早口にまくしたてた。
「ああ、時間遅れたらあの方は怒るよな?いやむしろ褒めるか?ああ、こいつは弱ってそうだから今のうちか?いやこいつ強いよな?ああ、一人でしゃべる変なやつとか思ってないか?いやこいつに思われても関係ないか?ああ、一人で行動するべきじゃなかったか?いや一人だから会えたのか?」
男は空虚にうつむくソフィアの前でひとしきりまくしたてると、目を見開いて最後に叫ぶように言い放った。
「ああ、殺すべきか?ああ、殺すべきだろう?……そうだよなぁ!!」
ソフィアは、その一連の動作には全く反応すること無く、ただじっとその男を見つめるだけだった。
男はそんなソフィアを見て、興が冷めたのか直前までが嘘のように落ち着きを取り戻し、凛々しい声で宣言した。
「失礼した。俺は、アカツキ教団最高幹部が一人。格名を”ノーデン”。たった今、お前を殺すことに決めた男だ」
ノーデンと名乗った男は、それだけ言うとソフィアが立つことすらも待たず、赤いローブの裏から2本の短剣を取り出し、姿勢を低くして構えた。
構えると、ノーデンは深い溜め息とともに口が裂けるかと思えるほどに不気味な笑顔を浮かべる。
「俺が相手で、残念だったなぁ!」
不敵な叫びとともにノーデンの刃がソフィアへと近づく。
今、ソフィアの眼前には初めて、”自分の敵”が迫っていた。
どうも、クジャク公爵です。
23章ですな。
えー、まず、一か月、更新が遅れたことをお詫び申し上げます。反省はしてません。
説明したいんですけど、説明をするにはまずですねぇ、
……マーダーミステリーって知ってますか?
実はマーダーミステリーを作ってまして、そっちがひと段落するまで執筆ペースが遅れてしまったんですよ。
……いや、言い訳ですけど。でも、アイデアは大事ですからね!アイデアがあったかいうちに作れるもんは作っておきたいんで……。
多分これからも、なんどかあるとは思いますが、この作品を忘れたわけではないので、安心して読み進めてくださると幸いです。
今回内容触れてねえな。でもこんな時もあっていいと思います!
今回の作品もお楽しみいただけていれば、幸いです。
評価・感想もらえれば空を飛んで喜びます。
良ければ、また次回、お会いしましょう。




