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~The Tears of Sirius~少女成長戦闘記 白い花のエリカ  作者: クジャク公爵
第2編 暴走

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第22章 正義を探す者たち~後編~

医務室を抜けて廊下に出たソフィアは、静まり返った廊下を歩いていた。

腹部の痛みを無視することは、幼い頃から叩き込まれた訓練だ。だが、その痛みはただの傷の痛みではない。胸の奥に、氷の針のような冷たさが刺さっている。

「人殺しは間違っている」

救護班のアザレア・ファマーが残したその一言が、私の思考を冷やしている。

私は管理局特殊鎮圧部隊の一員だ。任務は明快──シリウス能力者の反乱を抑え、躊躇なく排す。秩序を守るために、私たちは兵器として育てられた。「能力者は悪である」。それが絶対的な正義であり、私の存在意義だった。

しかし、あの戦闘。ラゼル・カーソンとの戦闘が心に影を落とす。

彼は死んだ。ノクスの主要戦力は排除された。任務は成功したはずだ。だが、腹を貫かれた私は五人の仲間を失い、心には勝利ではなく敗北感だけが残った。だが反対に、あの「鬼」は最後の瞬間まで守るべきものを守り抜き、結果として私の「正義」を揺さぶっている。

軋む身体を押さえつけ、薄暗い廊下の奥にある人気のない場所へと向かう。周りに人がいないことを確認すると、ソフィアは端末を起動し、機密回線に繋いだ。すぐに冷たく機械的な初老の男声が響く。管理局最高幹部の一人、レナード・スミス管理官の声だ。

「ソフィア・クレインか。応答を待っていた。報告は既に受け取っている。君の部隊は壊滅、ノクスの主要戦力ラゼルは排除した。ご苦労だった」

「管理官。この任務は成功といえるでしょうか。部隊の全滅は、今後の任務に支障が出る可能性があります」

感情を排して報告する。

「気にするな、クレイン。特殊鎮圧部隊は元より、安定した部隊設立までの消耗品として設計されている。君たちのような非能力者が、大規模な能力者と相打ちになった。これほど効率の良い事故はない」

管理官の声に、微塵の惜しむ気持ちも感じられない。冷笑さえ滲んでいる。

「……私たちは、消耗品……」

「黙れ、クレイン。君の意見は不要だ。君たち特殊鎮圧部隊は、すでに役目を終えた。その存在は、能力者職員に不要な疑念を生む。組織として、君たちの部隊は即時廃絶が決定している」

頭を殴られたような衝撃。私が全てを捧げてきた「兵士」という居場所が、上層部の都合で崩れ去った。反論する気はない。私たちに命令の是非を問う訓練はされていない。

「では、引き続きノクス鎮圧のため、ノクスのトップ、ヴァルデス・アストラへの対処をいたします」

動揺を押し殺し、私は次の責務について確認をした。

「ヴァルデスについては、既に後釜の部隊を派遣した。君たちようなの旧式とは違う。ラゼル・ダンパーのように後天的にシリウス能力を付与し、身体の大部分を機械化した暗殺部隊だ。彼らの方が遥かに効率的にヴァルデスを排除するだろう」

「……」

「用は済んだ、クレイン。君たち旧式は、組織の処理すべき闇でもある。そこで、君に最後の使命を与える」

管理官の声に、わずかな愉悦が混じるのを感じた。

「この度のヴァルデス排除任務は、後釜部隊の実戦能力試験も兼ねている。君は、その部隊の餌になれ」

「餌……」

「そうだ。君は、管理局が正式に存在を認めない非公式の追跡者として、ヴァルデスを追い続けろ。君の行動情報と、ヴァルデスへの攻撃は、すべて後釜部隊の貴重なデータとなる。成功すればよし。失敗すれば、そのままヴァルデスに殺されるか、後釜部隊の手で処理される。どちらにせよ、君の存在は組織の闇と共に消滅する。これは、君たち特殊鎮圧部隊への、最後の、そして最高の功績だ」

私の命は、私の存在意義は、まるで実験動物のデータとして扱われている。もはや価値は「正義」ではなく、「利用価値のある使い捨て」でしかない。

訓練された反射が、すぐに命令を受け入れようとする。だが、胸の奥の氷が微かに割れた。

――本当にこれが、私の正義なのか?

ラゼルの「守る」という行為。アザレアの「人殺しは間違っている」という言葉。そして、仲間を「消耗品」と切り捨てた管理官の声。全てが、私の絶対的な「正義」を内側から食い破ろうとしていた。それでも、私にはこの管理局の教え以外に、生きる指針がない。

この任務を受けなければ、私は何者でもなくなる。

「どうする、クレイン。組織の決定に従うか?それとも、ここでただの能力のない裏切り者として拘束されるか」

「……承知しました」

私は命令を受諾し回線を切った。頭には「餌」という言葉だけが残る。しかし、私はこの屈辱的な任務を、自分の正義を貫くための最後の、そして唯一の手段と解釈することで、かろうじて自我を保った。ヴァルデスを殺し、組織の闇を排除する。その結果がどうなろうとも、それが信じた正義の証明になる。

立ち尽くす私を、廊下の奥から声が呼び止めた。

「ソフィアさん、やっぱりここにおったんですね」

振り返ると、そこにいたのはアザレア・ファマーだった。息を弾ませ、心配そうにこちらを見ている。

「まだ安静にしてなあきませんよ?なにをしてはったんですか?」

「終わった。私は、最後の任務を命じられた」

「……そうですか。けど、まだ動いたらあかんですよ?」

「なぜ、私を追ってきた?」

私の問いに、アザレアは少し唇を噛み、そして顔を上げた。その瞳は、涙で潤んでいるように見えたが、どこか意地のような光を宿していた。

「……ソフィアさんを、死なせたくなかったからです」

「もう、誰も死んでほしくないんです。あんなの、もう嫌やから……」

「私は、人殺しだ。なぜ私を死なせたくない」

「そんなん……わかりません。でも、ラゼルさんは誰かを守ろうとしてたんやないですか?報告書を見て、あの人も人間なんやって思いました。だから、誰かを殺して終わりなんて、間違ってる気がして」

ラゼルがサラを守った行為。それが私の胸の氷の針を突き破り、新たな痛みを呼び起こす。

私は、管理局という絶対的な座標軸を失った。これまでの私の「正義」は、上層部の都合で無価値と断じられた。私は今、どこへ向かえばいいのか。

「私は……何をすればいい」

思わず口から出たのは、命令を求める兵士の言葉ではなく、道標を求める人間の言葉だった。

アザレアは、私のその言葉に、驚きと、安堵の表情を浮かべた。

「ソフィアさん……」

彼女は、静かに私の手を取った。その体温は、私の冷えた身体に、確かな熱を伝えた。

「ソフィアさんが、ほんまにしたいことを、したらええと思います。管理局がどうとか、ノクスがどうとか、そんなんより……今、ソフィアさんの心が言うことを、信じてください」

私は、この感情を持つ少女に、私の進むべき道を求めようとしている。この非効率的で、感情的な行動こそが、私が兵器ではなく、人間であることの証明なのかもしれない。

私の道は、組織の命令ではなく、自分の意志で決める。

「……わかった」

私の声には、もはや迷いはなかった。管理官から宣告された”廃棄”を受け入れる。

「私は、ノクスの頂点――ヴァルデス・アストラを追い、その先にある真実を見極める」

「……()()()()()、アザレア」

「ううん。……気ぃつけてくださいね」

私はアザレアから手を離し、路地の暗闇に向かって一歩踏み出した。

失った仲間たちへの追悼は、ヴァルデスの排除をもって完結させる。そして、その先の道は、人間として見つけ出す。

”兵士”のソフィアは死に、”人間”のソフィアが産声を上げた瞬間だった。

どうも、クジャク公爵です。


正義探究編の終わりでっす。

難しいですね。言語化って。もっと考えていることはあるけど、うまく言葉にできない。そんなときは誰にでもあると思います。そんなときは胸に手をあてて「私はわかっているよ」とつぶやくだけで気持ちが楽になる気がしますね。

いや、なんでもないです。


今回の作品もお楽しみいただけていれば、幸いです。

評価・感想もらえれば空を飛んで喜びます。

良ければ、また次回、お会いしましょう。

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