第20章 正義を探す者たち~前編~
崩れ落ちる研究所から脱出するため、サラとライアンは非常階段へと続く扉を抜けて、ぽっかりと空く闇の中へと歩を進めていた。
一寸先は闇。そう表現するほかない漆黒から、ふと、モーターの駆動音が聞こえる。
「誰か、いる?」
「いや……“誰か”じゃないな」
生物の発する音ではない。無機質で、冷たい気配がそこにいるのを感じる。
モーターの音はサラたちに向かう。冷たい気配は少しづつ、にじり寄るように近づき、数メートル程度の距離で止まった。
やがて、暗闇の中に、ぼうっと青白い光が灯る。
「10、9、8、7……」
光は、手を伸ばせば触れられそうな距離まで急速に移動すると機械音声のカウントダウンとともに激しく点滅を始めた。
「自爆ドローンかッ……!」
隣のライアンも咄嗟に退いて回避しようとしているが、もう間に合わない。
ドローンの発する青白い光が、最後に見たラゼルの光と重なる。
ああ、ここであたしも死ぬのか。
ハッキングも、窃盗も、スパイ活動も、ノクスに入ってから色んな悪い事をした。そんな今までの報いが、こういった形で現れてる。信頼してたヴァルデスの残した機械によって殺されるというのも皮肉なもんだなぁ。
たった10秒のうちに、そんな今までの思いが、サラの内に走馬灯のように流れる。
「……0」
カウントダウンの終了とともに、二人の目の前の光から爆発音が響いた。
――
―――
――――だが、爆発音とともに襲い来るはずの痛みは、サラにはほとんど届かなかった。
衝撃波と煙で眩まされた目をゆっくりと開けると、目の前には黄色い光があった。その光はサラを覆う程度に大きく、その中心には太く筋肉質な傷だらけの腕があった。
いや、むしろ光の中には腕しかなったのだ。
傷だらけの腕を目でたどると、そこにはライアンが血みどろで立っていた。
「無事……か……?」
黄色い光で見えるのは背中だけで、正面がどうなっているのかはわからない。
「あたしは……大丈夫だけど……」
その言葉を聞き届けると、ライアンはほんの少しだけ笑う。左腕から展開された黄色い光はふっと消え、暗闇にドサッと倒れる音が響く。
なんで。なんでなんでなんで。
頭の中に疑問が駆け巡る。ライアンにとってあたしは”敵”だった。なのに、なんであたしを守ったの?ライアンは直前の戦闘でボロボロだったはず。盾を展開できたのならあたしではなく自分を守るべきでしょ?
「なんで……あたしを守ったの……?」
「なんでもいいだろ……」
暗闇からライアンの今にも消え入りそうな返事が聞こえた。
生きてる。
サラは床へとへたりこみ、安堵の息を吐いた。
……目の前でもう誰も死んでほしくない。
サラは闇の中、手探りでライアンを探し当てると、持ち上げようと腕を力いっぱい引っ張った。
――が。
重すぎてまったくと言っていいほどに動かない。さっきの一言を最後にライアンは気絶したのかほとんど反応が無い。
ここで悠長にしている時間はなかった。
こんな時、あたしじゃなくラゼルだったら普通に運べたのになぁ――――
考えるべきではないことが頭によぎる。かぶりを振って余計な考えを振り払い、ライアンに向き直る。
――――――数分格闘したが、ライアンの体は数センチ程度しか動かなかった。あきらめよう。
幸いなことに施設の崩壊は止まったのか、入り口の方から聞こえていた破壊音もいつの間にか聞こえなくなっていた。
「ここで助けを待つのもあり……かなぁ」
誰に聞かせるでもなく呟く。だが
「……当てがあるのか?」
掠れた声に、サラは思わず振り返る。
ライアンは瓦礫の影に横たわったまま、うっすらと目を開けていた。声に力はないが、意識は戻っているらしい。
「当てって……そんなの、ないに決まってるでしょ」
強がるように笑いながら、サラは額の汗をぬぐった。
「でも……このまま待ってても、崩れて終わりでしょ。とにかく出ないと」
ライアンは小さく息を吐くと、壁を支えにして無理やり体を起こそうとした。
しかし、すぐに苦痛に顔をしかめ、動きが止まる。
「……内臓がやられてるな。流石に二回目はきつかったか……」
「だったら動かないで」
「動かないわけにもいかないだろ。ここで寝てたら死んじまう」
「でも――」
反論しかけたサラの手を、ライアンが軽く押し返した。
その仕草に、怒鳴り声もなく、妙な落ち着きがあった。
「どうして、そこまで冷静でいられるの……?」
「冷静じゃないさ」
ライアンは壁に背を預けたまま、かすかに笑う。
「ただ……こういう時、焦ると死ぬ。昔、嫌ってほど教えられた」
その言葉のあと、二人の間を沈黙が満たす。
粉塵の匂いと、血の鉄臭さが空気に混じっていた。
サラが暗闇を慎重に歩を進めようとすると、足にコツンと何かが当たって転がった。
「何?」
手探りで探し当て、それを拾い上げる。ほんのりと熱い。闇にも次第に目が慣れ、手元程度は見えるようになっていたが、拾い上げたそれは何かの部品のようだった。
「これは使えるかも」
「何か見つけたか?」
ライアンが声のした方向に問いかけると、青い光が強く光った。
サラの手にしたそれはさっきのドローンのライト部分だった。爆発で飛散したのだろうが、ライトの点灯に必要な回路と補助バッテリーは焼けずに残っていたらしく、回路をつないだだけで明るく点灯した。
「良いでしょ?」
サラは得意げに鼻を鳴らして笑う。
ただ、青い光に照らされたライアンは目を覆いたくなるほどに重傷だった。体の前面は火傷に覆われ無数の破片が刺さっている。見た目には見えないが、内臓や骨も多くがやられているのだろう。壁にもたれかかり、息を吐くのもつらそうにしていた。
「肩を貸してくれないか」
ライアンがかすれた声で呼びかける。
サラは何も言わずに歩み寄り、肩を貸す。ずっしりとした重さが肩を中心に全身へとかかってきた。
「すまん」
「だって……助けられたから」
「……死なれては困るからな」
「まだお礼言ってなかったね。ありがと」
サラが短く感謝を述べると、それ以上二人は会話することなく、地上へと続く階段を昇って行った。
二人はやがて、地上の扉にたどり着く。
どうも、クジャク公爵です。
20章ですね。お待たせしました。
最近マダミスにハマっておりまして、プレイするだけならよかったんですけど、
「作りたい!!!」となってしまって衝動的に作り始めたので投稿が遅くなりました。
本編の話をすると、ライアンとサラの話です。
ここまで読んでいる人がどこまでいるかわかりませんが、実はサラは第二の主人公のつもりで書いてます。なのでしばらくはサラとライアンの物語が進むと思います。。。
何故エリカが”次目覚めたら自室だった”のかもこのパートで描く予定なので、楽しみにお待ち下さい。。。。
あ、あとこの章「正義を探すものたち」は前編中編後編の3章構成の予定です。
主人公以外のキャラたちにフォーカスしたパートをお楽しみに~~
今回の作品もお楽しみいただけていれば、幸いです。
評価・感想もらえれば空を飛んで喜びます。
良ければ、また次回、お会いしましょう。




