表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
~The Tears of Sirius~少女成長戦闘記 白い花のエリカ  作者: クジャク公爵
第2編 暴走

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/25

第19章 美女と野獣

薄暗く灰色に照らされた部屋の中、ライアンが振り向くと、入り口のひしゃげたドアから、金髪の少女が覗いていた。

「サラ・エヴァンス……?」

エリカとライアンをここに来るように仕向けた張本人。その顔を見つけると、ライアンは痛む身体も気にせずにずかずかと詰め寄り、苦痛とも悲哀とも取れない表情を浮かべ声を上げた。

「嵌めやがったな!ここには、"アカツキ教団"なんていなかった!」

「ちが……」

ライアンはサラの微かな抗議の声も聞くことなく続ける。

「お前のせいで……お前のせいでエリカは!」

ヴァルデスの腕の中でぐったりとしたエリカの姿が脳裏に浮かぶ。

エリカを助けることができたのは、自分だけだったのかもしれない。ただの八つ当たりだったとしても、今は誰かを責めずにはいられなかった。

サラは、何か思うように目を逸らしたあと、躊躇いながら口を開いた。

「違う……そんな、つもりじゃなかった……」

言い訳をするようなその言葉が、ライアンは許せなかった。

激情に任せ、ライアンは少女の胸倉へ手を伸ばし、勢いよく掴み上げた。このまま殴り飛ばそうかと拳を振り上げた時、覚悟したかのように目をつむるだけの少女を見て、何かが胸に引っかかる。

……こんなことをして何になる?

拳を下ろす代わりに、ライアンは歯を噛みしめた。

「ここで足踏みしている時間はない。脱出が優先だ」

迫る拳がなくなっても、サラはただ、俯いてうなだれているだけだった。

ライアンはそんなサラを今はただ、一人の少女と認めて話しかける。

「俺はここから逃げるが、サラ、お前も一緒に来てもらうぞ」

「……なんで?」

「俺たちを嵌めた理由を話してもらう。それまで死なれては困る」

その言葉に、サラは顔を上げて目の奥に小さな光を戻した。静かに頷く。

が、その余韻も残らぬうちに天井を突くような轟音が響く。

「まずい!ここは崩れる!」

ライアンがサラの手を引き部屋の外へと連れだした。

直後、轟音とともに瓦礫がなだれ込み、さっきまでいた場所に鉄骨が突き刺さる。振り返った視界の隅、粉塵の爆炎に照らされる室内に、一瞬――子供用の遊具が瓦礫に飲まれていく姿が見えた。

廊下に転がる瓦礫を踏み越え、ライアンは乱暴に息を吐いた。

「とにかく出るぞ。入り口に戻れば――」

「多分、無理だと思う」

背後のサラが短く言い切った。

ライアンは振り返り、苛立ちを隠さずに睨みつける。

「何だと?」

「……ヴァルデスなら、正面は潰してる。追っ手を逃がすわけない」

確かに、普通ならそうするだろう――頭では理解している。だが認めてしまえば、エリカを追うどころか自分たちすら閉じ込められる。焦りと苛立ちを押し殺すように、低く呟いた。

「俺たちは実際に通ってきたんだ。戻れば……出られるはずだ」

言い捨て、ライアンは足を速める。サラも黙ってついてきた。

やがて、通路の先に出入口を示す非常灯が見えた。

だが――。

「……っ!」

瓦礫が山のように積み重なり、入口は完全に塞がれていた。折れ曲がった鉄骨と崩落したコンクリートが絡み合い、どこからも抜けられそうにない。

ライアンは歯噛みした。拳で壁を殴りつけても、鉄骨はびくともしない。

「くそっ……!」

背後から、か細い声が届く。

「だから言ったでしょ。別のルートを探さないと」

振り返ると、サラの瞳には皮肉も勝ち誇りもなく、ただ静かな覚悟だけがあった。

焦げた鉄骨とコンクリート片が絡み合い、まるで巨大な壁のように立ちはだかっている。崩落の衝撃で天井の蛍光灯も砕け、残るのは土煙と火の匂いだけだった。

ライアンはしばらく黙ってその壁を見つめていた。肩で息をつき左腕を押さえている。その手の下には乾きかけた血が滲んでいた。

「……しょうがない、正面突破だ」

かすれた声でそう呟き、彼は左腕を前に突き出す。シールドを展開しようとした瞬間、膝がわずかに揺らいだ。

それでもライアンは歯を食いしばり、力を込める。

サラは彼の横顔を冷ややかに見つめ、溜め息をついた。

「馬鹿じゃないの?そんな体で、できるわけないでしょ」

「やってみないとわかんないだろ」

そう答えたライアンの息は上ずり、説得力を欠いていた。

サラは一瞬言葉を飲み込み、それから視線を伏せる。胸の奥にざらついた不安が広がり、舌先に苦い味が残る。

「……私なら、別の脱出ルートを知ってる」

ライアンの眉が動いた。疲労と疑念の入り混じった目が彼女に向けられる。

「何だって?」

「非常機材搬出用のエレベーターホール。エレベーターはさすがにもう止まってるだろうけど……階段を使えば、地上までは出れる」

言いながらも、サラ自身、その道が本当に安全かどうか分かってはいなかった。けれどボロボロの人間が瓦礫を突破するよりはまだ可能性がある。

ライアンは短く息を吐き、瓦礫から視線を外す。

「……信じるぞ」

その声音には決意よりも、諦めに近い響きが混じっていた。選択肢が他にないことを悟った者の声だった。

二人は互いに距離を取ったまま、崩れた廊下を進み始める。

天井のパネルは何枚も落下し、床には破片が散らばっていた。踏みしめるたびに、ガラス片が小さく音を立てる。

ライアンは片腕を抑え、無理をしているのは明らかだったが、それでも足を止めることはなかった。

サラはそんな彼の背中を見て、自分の胸の奥に小さなざわめきが起こるのを感じていた。

(この人……こんな無茶してでもエリカちゃんを助けたかったんだ)

その姿が、爆炎に消えたラゼルの影に重なる。思い出した時に込み上げる痛みに、思わず唇を噛む。これ以上は考えるだけで震えてしまいそうで、今はただ歩を合わせるしかなかった。

「……ここ」

サラが短く発すると、何度か角を曲がった廊下の突き当たりに、大きな扉が現れた。

壁一面に埋め込まれた金属製の扉。上部には「ELEVATOR HALL」と消えかけた文字。

だが、灯りはすべて落ちていて、そこから先は深い闇が口を開けているようだった。

「……灯りはついてないか」

ライアンの声は低く、警戒を含んでいた。

サラは頷き、手元の端末を取り出してドア横のパネルにかざした。

無反応。やはりすでに電源が落とされている。

「動いてないな」

「予想通りね。エレベーターは使えないけど、ホールの奥に階段がある。そこを登れば……地上まで行けるはず」

「はず、か」

ライアンは皮肉めいた言葉を返したが、それ以上は何も言わず、闇を進む。

サラの持つ端末の明かりだけを頼りに進むと、奥から「EXIT」と書かれた鉄の扉が現れた。

肩を入れて押し開けると、軋む金属音が響き、埃と冷気が一気に吹き出してくる。

中もホールと変わらぬ闇だった。非常灯さえ落ち、遠くで水滴の落ちる音だけが反響している。

コンクリートと鉄の匂い。そこに、焦げたような異臭が微かに混じっていた。

「……行くしかないな」

二人が足を踏み入れた瞬間、空気の冷たさが一段と強くなり、ぞっと背筋を撫でた気がした。

階段の手前まで来たところで、サラが足を止める。

暗闇の奥から、かすかな機械音が響いていた。

低く、規則的なモーターの唸り。金属がわずかに擦れ合う気配。

「……ライアン」

サラは小声で彼の袖を引いた。

「誰か、いる?」

ライアンは耳を澄まし、すぐに頷いた。

「いや……“誰か”じゃないな」

足音ではない。もっと無機質で、冷たい気配がそこにいるのを感じる。

制限時間が迫る中、死の緊張が場を満たし、二人を覆った。

どうも、クジャク公爵です。


19章ですね。

えー。主人公が出てきません。大丈夫でしょうか。

ちなみにしばらくこのライアンとサラのパートが続きます。エリカの出番は。。。

次章はこの続きからになります。闇に潜むものは何なのでしょうか。

引き続きライアンとサラのギスギス脱出劇をお楽しみに。


今回の作品もお楽しみいただけていれば、幸いです。

評価・感想もらえれば空を飛んで喜びます。

良ければ、また次回、お会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ