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第2章 ソフィア・クレイン

エリカたちは仮設作戦拠点を離れ、要請のあった現場に向けて車両を走らせていた。

エリカは助手席でじっと前を見据えたまま、淡々と現場の事前情報が記載された情報端末を操作している。隣では運転中のライアンが簡易ヘッドセットを通じて管制と通信していた。

「こちらダンパー、了解した。現場到着次第、制圧行動に入る」

ライアンがヘッドセットを外すと、ふとエリカの表情を横目で見た。

「管制からの情報では、現場は市街地北東部、旧商業地区に隣接する公園だ。被害規模は軽度だが、暴走者が一名確認されていて、民間の警備会社が現地を封鎖中とのことだ」

「了解しました。到着後、状況を見て即時制圧に移行します」

エリカはいつも通り冷静な顔つきだが、口元がわずかに引き締まっている。

「緊張してるのか?」

「していません。ただ……」

情報機器を操作する指が一瞬止まる。

「事前報告書の暴走者の発動契機と頻度に、少し不自然な点があります」

「不自然って?」

「通常、暴走者は感情の高まりによって能力制御が失われることで暴走に至ります。ですが、この記録では.......この場所での暴走が一週間に5件も起きています。()()()()()()()()()()()()()なのに、です」

「まあ……人が多い場所だったりすりゃ起こりやすいこともあるんじゃないか?」

「暴走は理性を欠くほどに感情が動かされた状態で引き起こされます。今は人通りも少なくなった旧商業地区でそれが頻発しますか?」

ライアンは腕を組んで少し考え込んだ。

「つまり、何かおかしいってことか」

「ええ。ですが、それは現場を見てから判断します」

その時、車両の通信端末が点滅した。追加情報だった。

「暴走者がもう一名確認された?!」ライアンが目を見開く。

「……状況が急変していますね。現場での即応体制を」

エリカは落ち着いた声で言いながら、ホルスターからグローブを取り出し装着する。

旧商業地区に隣接する公園は、夜の闇に包まれながらも騒然としていた。

街灯の明かりがチラつき、破壊されたベンチや地面の亀裂が、ここでの戦闘を物語っている。

ライアンとエリカが到着すると、警備隊が緊急封鎖ラインを張り、周囲の避難誘導を進めていた。

「到着しました。暴走者の位置は?」

「公園中央の広場に一名。……ですが、もう一人が突然暴れ出して……! 我々では対応できません!」

通信越しの警備隊員の声には、明らかな混乱があった。

「……暴走者が同時に二名。偶然にしては出来すぎています」

エリカが小さく呟いた。

「考えるのは後だ。今は止めるぞ!」

ライアンが先陣を切って公園内へと駆け出す。

エリカも続いた。

二人が広場に踏み込んだ時、空気が震えるような気配が走った。

ひとりは、警備隊の報告にあった初期の暴走者。怒りのままに地面を砕き、炎のようなエネルギーを腕に纏わせている。

だが、その隣にいた人物——民間警備会社員の制服を着た青年が、突如として叫び声をあげた。

「この力が……俺を、解き放ってくれる……ッ!」

その身体から爆発的な光がほとばしり、地面が一気に割れた。瞬間、制御の効かないエネルギーの奔流が広がり、周囲の木々がなぎ倒された。

「もう一人も……!」

ライアンが叫ぶ。

「下がって!」

エリカが即座に指示を飛ばし、二人は左右に分かれて回避行動を取った。

しかし、その青年の暴走は異様だった。

初期の暴走者とは違い、動きに一定の規則性があり、無駄のない攻撃が展開されている。

「理性が……残ってる?」

エリカの眉がわずかに動いた。

彼の瞳は完全な狂気に染まりきっておらず、どこかに目的意識のようなものを感じさせた。

「ライアン、包囲を——!」

「わかってる!」

ふたりは連携し、暴走者二名の間に挟まれる形で戦闘を展開する。

吹き荒れる力の奔流。

だがその中心には、不気味なまでの沈黙を守る青年の姿があった。

「この暴走……何かがおかしい」

エリカは自らの直感に、確かな違和感を覚えていた。

だが、その答えにはまだ手が届かない。

沈黙に咲いた狂気の花は、夜の街で静かにその蕾を開きつつあった。

エリカとライアンは、暴走者二人に対して間合いを取りつつ、応戦を続ける。

最初の暴走者は無秩序に力を振り回し、地面を砕きながら突進してくる。一方で、後から暴走した元警備会社員の青年は、異様なまでに冷静で、力の使い方にもある種の規則性が見える。

「こいつ……本当に暴走してるのか?」

ライアンが唸るように言いながらも、間一髪で能力の射線から身を翻す。

「それでも、制御不能な力に変わりありません。挟み込んで、動きを止めます!」

エリカが冷静に指示を飛ばし、地面を跳ねるようにして敵の背後へと回り込む。

一人は炎をまとった腕を叩きつけ、もう一人は地を這う衝撃波を放つ。絶え間ない攻撃に、二人は紙一重で回避を繰り返す。

そして、ついに。

「今!」

エリカが叫び、ライアンと同時に左右から突撃する。


その瞬間——夜の公園に、衝撃的な破裂音が鳴り響いた。


閃光と共に火花が散り、暴走者の一人が吹き飛ばされてコンクリートの地面を転がる。

「——後方、確認を」

低く鋭い声が響いた直後、スモークの切れ間から姿を現したのは、黒髪を短く整えた一人の女性。

紺を基調に銀のラインが走る特殊仕様の管理局制服。拳銃とトンファーを装備し、小柄な体躯に相反するような殺気を纏っている。

「ソフィア・クレイン……特殊鎮圧部隊?」

エリカが呟くと同時に、ライアンが思わず身構えた。

「な、なんだよあの目……めちゃくちゃ怖いぞ……」

ソフィアは彼らに目もくれず、地に伏した暴走者を無造作に蹴り飛ばし、その眉間に銃口を向けた。

「まだ、息がある。致命傷ではない」

「やめてください」

エリカが即座に前へ出る。

「命を奪う必要はありません。気絶させれば——」

「甘い」

ソフィアの冷ややかな声と銃声がエリカを遮った。

「理性なき能力者など、ただの兵器。それを“救う”など、幻想とやらに、興味ありません」

「それでも、私は信じたい。間違っても、やり直せるって」

「理想論。犠牲を増やすだけ」

睨み合う二人の間に、戦火の余韻がまだ立ち込めていた。

「あなたがいくら排除を正義だと言っても——私は私の正義を貫きます。私の正義って、こういうことですから」

ソフィアの瞳が、わずかに揺れた。

だがその隙を突くように、倒れていたもう一人の暴走者が咆哮と共に立ち上がる。

「——まだだあああああっ!!」

破壊された地面を踏みしめ、暴走した能力が爆発的に展開される。

「くっ……!」

ライアンがとっさにエリカを庇い、爆風の余波を受けながら後方に吹き飛ばされる。

ソフィアは敵の動きを見極めると、ためらいなく一歩踏み出した。拳銃をその場に落とし、腰のトンファーを引き抜く。

「処理する。それだけ」

彼女の目には、迷いも同情もない。ただ粛々と“排除”という任務を遂行する意思だけが宿る。

「やり方、見せてあげる」

一閃。トンファーが火花を散らしながら暴走者の攻撃を逸らし、続く一撃が顎を跳ね上げた。暴走者の体が宙を舞い、石畳に叩きつけられる。

「終わり」

とどめの一撃を打ち込もうとするソフィア。その背に、エリカの声がかかる。

「もうやめてください! 気絶させたなら、それで十分です!」

「未練とやらに、意味はない。私は任務を遂行するだけ」

「その任務で、人を切り捨てるのが正義だと?!」

ソフィアは振り返らず、ただ冷たく言い放ち、トンファーを暴走者の頭部に鋭く振り下ろした。

——————ザクッ

「能力者という存在そのものが、災厄。排除、それが最善」

静まった闇夜に、シリウスエッセンスのわずかな残光と血で濡れたトンファーが鈍く光る。

「私たちにも選ぶ余地はあります! あなたのやり方には、賛同できません!」

ソフィアが振り返り、鋭い視線でエリカを射抜く。

「ならば——次は、君だ」

空気が張り詰めた。

ライアンが低く呻くように言う。

「まさか……この混乱に乗じて……っ」

ソフィアは言葉を遮るように構えを取った。

「能力者とやら、例外はない」

"能力者である以上、敵である"これが彼女の理論だということを悟り、エリカも静かに構える。

「それでも、私は譲れません。これが、私の正義ですから」

張り詰めた夜に、再び咆哮が響く。だが今度は、鋼鉄の意志が交錯する音だった。

瞬間、爆ぜるような疾風が巻き起こる。足元の砂埃が一気に舞い上がり、視界が白く煙る。

「くっ……!」

霞の中、エリカは即座に身体を低く構え、拳を握り締めた。一瞬の気配を捉え、ソフィアの接近を察知すると、鋭い踏み込みで前方に拳を突き出す。

だが、それは空を切る。

ソフィアの身影は音もなく横合いに逸れ、まるで影のように滑らかにエリカの死角に回り込む。

「――!」

気づいた時には、すでに遅かった。エリカが振り返るより早く、ソフィアのトンファーが唸りを上げ、彼女の拳を受け止める。金属と肉体がぶつかる音。衝撃で腕が痺れる。

「速……っ!」

すかさず反撃の構えに転じたエリカは、膝を使って地面を蹴り上げるような回し蹴りを放つ。だがソフィアはそれすらも予測していたかのように軽やかに一歩退き、回避。

そのまま重心を前に移しながら、逆手に持ったトンファーでエリカのわき腹を狙い撃つように突き上げる。反射的にエリカが防御の構えを取ったが、その腕のわずかな隙間を縫ってソフィアの手が動いた。

拳銃――それが、エリカの膝元へと突き出され、乾いた銃声が鳴った。

「――あっ……!」

銃弾が正確にエリカの足を貫通し、彼女の身体が崩れるように地面に倒れ込む。その顔に走る苦痛の色。

「これで一人目。」

ソフィアが正確にエリカの眉間へと拳銃を構えなおす瞬間、ライアンが背後から組み付こうと奇襲を仕掛ける。

だが、奇襲もむなしく、風を割く鋭音とともに、ソフィアのトンファーが回転しながらライアンの腹部へと深く打ち込まれた。

「ぐっ……!反応が速すぎる……っ」

ライアンはよろめきながらも踏みとどまり、即座に体勢を立て直して反撃の拳を放つ。鋭く絞られた右ストレートがソフィアの顔面を捉えんとするも、ソフィアは半身を滑らせて紙一重で回避し、反対のトンファーでその腕をはじき返す。

「動きが見えない……!」

エリカが必死にソフィアの動きを追おうとするも、視界の端に一瞬映る影だけで、その軌道を完全に読むことは不可能だった。

ライアンはソフィアとの間合いを一気に詰めると、肘打ちと膝蹴りを連続して繰り出す。だがソフィアはそれらを最小限の動きで捌きながら、逆手に構えたトンファーでライアンの脇腹を一閃。苦悶の表情を浮かべながらも、ライアンはすぐさま反撃の蹴りを繰り出す。

「殺意も怒りも感じません……ただ、機械のように……」

「その通り。排除する、それだけ」

ソフィアは一瞬後退したかと思うと、再び前傾姿勢で間合いを潰し、右手のトンファーを地面に叩きつけて跳ね上げるような動作とともにライアンの顔面を狙った。辛うじて手で防いだライアンだったが、そのままバランスを崩し、ソフィアの体重を乗せた回転蹴りが腹部を貫いた。

「う……ああっ……!」

地面に叩きつけられるように後方へ吹き飛ばされたライアン。砂煙の中、息を詰まらせた彼の声が苦しげに漏れた。

ライアンは、普通ならすぐには起こすことすらできない体に鞭をうち、言い聞かせるように叫んだ。

「エリカ、まともにやっても勝てねえ! 一旦、距離を——」

「でも……! 彼女を止めなきゃ……!」

エリカの目には、ソフィアが殺した暴走者の姿が焼き付いていた。たとえ暴走していても、それは人間だった。救えたかもしれない命だった。いや、()()()()()()()()()()()()()()()

(見捨てたくない。誰も)

「あなたのやり方では、未来を守れません……!」

「理想とやらに、意味なし。興味ない」

無感情な声とともに、ソフィアの拳が迫る。エリカはかろうじて受け止めるが、全身に電撃のような衝撃が走る。

「っ……! 強すぎる……っ」

トンファーが一閃し、エリカの頬に切り傷を刻む。地面に膝をついた瞬間、ライアンが彼女を庇うように立ちはだかった。

「やめろ! 俺たちは——!」

「能力者。例外、なし」

冷酷な宣言のもと、再びソフィアが踏み込む。

エリカは震える腕で立ち上がり、擦り傷に痣だらけの血に濡れた顔で、なおも訴えかける。

「それでも、私は……救いたい。命を、過去を、自分自身の心を……! 私の正義って、こういうことですから……っ!」

だが、その言葉は風に溶けるだけだった。

ソフィアの目は、ただ次の排除対象を見つめていた。


閃光が交差し、衝撃波が夜の空気を裂いた。

エリカとライアンは必死に応戦していたが、ソフィアの動きは常軌を逸していた。拳銃を一発放てば必ず敵を射抜き、トンファーが唸りを上げるたびに、エリカの防御は崩れていく。

「くっ……!反応が——読めない……っ!」

ライアンが歯を食いしばりながら叫ぶが、彼の能力を使う隙もなく、対等な戦いの土俵にすら立たせてもらえない。

「無駄。経験も、訓練も、思想も——全てが違う」

ソフィアの蹴りがエリカの脇腹に食い込み、体が横殴りに吹き飛ぶ。

「ぐっ……ぁ……!」

破片とクレーターだらけの地面を転がりながら、エリカは血を吐く。それでも、意識が散りそうになるのを必死に繋ぎとめた。

「やめてください……! あなたのそのやり方では、救えるものも——っ!」

「説得とやら、無意味。能力者の理屈など、聞く価値なし」

ライアンが背後から再び奇襲をかけようとするも、それもソフィアに見切られていた。

「二人がかりでも、足りない」

トンファーが横薙ぎに振るわれ、ライアンの胸部を強打する。

「ぐあっ……!」

吹き飛ばされた彼が動かなくなったのを見て、エリカは震える手で立ち上がろうとした。

「まだ終われない……このままじゃ……」

「終わる。今、ここで」

ソフィアが無表情でトンファーを構える。エリカの額に冷たい汗が伝い落ちた。

そのとき——

「特殊部隊、展開! 負傷者を確認、戦闘停止命令を発令!」

複数のライトが差し込み、公園の外縁から救護班と武装部隊がなだれ込んでくる。

「対象、ソフィア・クレイン。任務終了。引き上げろ」

指揮官の一喝に、ソフィアはわずかに眉をひそめた。

「命令とやらには、逆らえない」

彼女はトンファーをゆっくりと収め、血塗れのエリカに視線を向ける。

「次は、命令なしでも——排除する」

その言葉を最後に、彼女は夜の帳に溶けるように姿を消した。

エリカは崩れるように膝をつき、意識を手放す直前にかすかに呟いた。

「まだ……終われない……このままじゃ……」

その言葉とは裏腹に、ゆっくりとエリカの意識は真っ暗な世界へと落ちていた。

どうも、クジャク公爵です。


第2章となります。

唐突な自分語りになりますが、私、かっこいい女の子が好きなんですよね。

今回はめっちゃかっこいい女の子を書いたつもりです。気に入ってくれると嬉しいなあ。。。敵だけど。

あと、書くうえで思っているのが、スムーズな場面転換が難しすぎる!!

このイベントの次はこのイベントで...みたいな構想はあるんですけど、どうやって繋ごうかなあ......ってことが多すぎる!なので、場面転換が急だったりしたら言ってください!善処します!笑

さあ、次回はどのような展開になるのでしょうか。wkwkしながら楽しみにお待ちください。。。。


今回の作品もお楽しみいただけていれば、幸いです。

また次回、お会いしましょう。

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