表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/21

第13章 新たなる始動

―――――音が、空気を割った。

「右、来るぞ!!」

相棒の叫びが耳に届くと同時に、柱の陰からナイフを構えた影が走った。ナイフを振り回す赤いマスクの男。男は刃を無秩序に振り回し、近くにいたエリカへとギラリと光る刃を振り下ろす。

「神の力を抑圧する異端者がぁッ!」

叫びは爆ぜる――だが、その刃は落ちきる前に、止まった。

「っはあぁっ!」

一瞬の白い閃光と共に、乾いた衝撃音が繫華街にあるデパートの天井に響く。

銀髪を一つに結いなびかせる少女――エリカ・ノヴァが、跳ねるように前へ踏み出し、拳を突き出していた。

白く光るその拳は、ナイフを跳ね除け、勢いそのままに敵の腹部を直撃する。空気が圧縮され、爆発のような衝撃音が、デパートの中に木霊する。

圧縮された空気が重く鳴り、男は軽く呻いて、地面に倒れ伏した。

それを見て背後の同じ制服を着た男がポツリとつぶやく。

「さすが、”白い花”らしいな……」

エリカは、銀髪を跳ね上げ、白を基調とした制服の裾を揺らしながら、倒れた男のそばに無言でしゃがみこむ。

彼の懐から、掌サイズの白い結晶をそっと取り出した。

“暴走”は、能力者がシリウス能力を制御できなくなったときに発生する現象。その末に残されるのが、この結晶――シリウスの涙。

「……無力化完了。これで三人目、ですね」

かすかに息を切らせながら呟く。

脇腹にじんわり痛みが滲む。けれど、それよりも今は――この空気、この喧騒が、懐かしかった。

「派手な再デビューだな。なまってないじゃないか」

背後から、穏やかな声が届く。

ライアン・ダンパー。

金髪を短く刈った青年は、端末を操作しながらも、目の端で彼女を見ていた。

「……数週間、ベッドで寝てただけです。すぐに動けないなんて、この制服に失礼ですから」

エリカは背筋を伸ばしたが、痛みは確かにそこにある。

あの任務で受けた深手。退院して、今日が“現場復帰初日”だ。

「でも……やっぱり、現場の空気は違います。身体が軽い。心も」

「お前がそういうこと言うとまた無茶するんだよな」

ライアンの声は静かだったが、どこか呆れを含んでいた。

それが、むしろ心地いい。その一瞬で、彼女の中でようやく、“戻ってきた”という実感が生まれる。

「それよりも、やっぱり”アカツキ教団”の動きが活発になっていますね……」

エリカは、今さっき倒れ伏した男を見て呟いた。布製の赤いマスクに意図的な暴走、加えて、この男の語った”神の力”という言葉は、確かに彼らのものだった。

シリウス能力を神の贈り物と称し、能力の開放と管理局の廃絶を主張する過激派の団体。

「この街だけで、今週もう三件目ですよ。しかも全員、共通して“異様に暴走しやすくなってる”」

「そのくせ、捜査記録には“個人の暴走”ってだけしか残らない。組織的な裏付けは何も出てこない。……腑に落ちないだろ」

ライアンは端末を操作しながら、赤い点が点滅する画面をエリカに見せた。

「さっき解析した地下構造図、ここ。旧流通網に隣接してる未登録区画がある。俺たちのデータベースじゃ、封鎖済みってことになってるけど……俺はここが怪しいと睨んでる」

「未登録区画……?」

「正式名称――“第17分室”。数年前に閉鎖された研究施設の残骸だ。管理局がかつて、能力研究に使っていた」

その名を聞いた瞬間、エリカは胸の奥がざわついた。

(第17分室……知ってる。どこかで。……でも、いつ?)

「今は完全封鎖ってことになってるが、データが変だ。何か動いてる。……調べる価値はある」

だが、その言葉の最後は、急に耳に響いたアラーム音でかき消された。

一瞬の静寂を割って、足音が降ってくる。

目を上げたその先に、唐突に、少女が立っていた。

――フードを被った金髪の少女。

管理局の関係者ではない。ラフはジーンズに、軽い足取り。

そして、彼女は迷いなくエリカの名を呼んだ。

「やっほ、エリカちゃん。元気してた?」

その顔には、見覚えがあった。

「……あなた、“サラ・エヴァンス”? "ノクス"の――」

「しーっ。あんまり名前呼ばないでよ。監視、振り切って来てんだから」

ふわっと笑うが、その目は笑っていない。

サラは、ひらひらと手を振った。その身のこなしは、どこか人を食ったようで、けれど妙に堂々としている。

「何の目的でここに……あなたが、教団と繋がってるわけじゃ――」

「んー、まぁ、あたしは“ノクス”の人間だし、管理局には内緒で動いてる身。だけどさ」

と、サラは不意に、少しだけ声のトーンを落とした。

からかうような笑顔の奥に、冷えた光が宿る。

「あの“アカツキ教団”とやらさ、私たち“ノクス”にとっても邪魔なんだ~」

ノクス。

正体不明の裏組織。管理局にも情報が下りてこない。

「……だからさ。ちょっと、手貸してくれない?」

「協力……ですか?」

「うん。もちろん、あんたらを信じてってわけじゃない。でも、共通の敵がいるときくらい、足並み揃えてもいいんじゃない?」

ライアンが視線を細める。

「非公式接触ってことか。……目的は?」

「それはまあ、ゆっくり話すとして……どう?そういうの、燃えるでしょ?」

サラは手を組み、ニコリと笑った。その笑みに、エリカの胸がざわつく。

「次に向かってほしい場所があるの。“教団”が、潜伏してるって噂の場所――名前は“第17分室”。……聞いたこと、ある?」

サラはそう言い残し、手を振って、くるりと背を向けた。


エリカは息を飲んだ。

数分前にライアンが言った、その名前。

そして、心の奥に張り付いていた違和感の正体が、形を帯びてくる。

「……案内してもらえるんですか?」

「ううん。あたしは同行しない。……今のとこね」

サラはそう言い、くるりと背を向けた。

「まあ、信じるも信じないも、自由だよ」

「でも、“正義”ってさ、人に見せるためのものじゃないよね。自分が信じられるかどうか、だけ。じゃ、検討よろしくね――エリカちゃん」

その名前を呼ばれた瞬間、エリカは思わず拳を握った。

この少女は、ただの使いではない。

彼女の背後には、何か大きな意図と、過去に絡む真実がある――それを直感していた。

(第17分室……なぜ、あの名前にこんなに引っかかるの……?)

「あなたたちがどう動くか、楽しみにしてるよ♪」

そうひとこと、言い残すと、エリカの視線の先でサラは消えた。

嵐のように現れ消えた、その余韻だけが、いつまでも空気の中に残っていた。

どうも、クジャク公爵です。


さて、新編開始です。

今回はこれで初めて読む読者にも世界観や設定が分かるように意識しました。

ここまで読んでた人も、改めて設定の振り返りになったのではないでしょうか。

これを読んで新規の読者が増えてくれるととってもうれしいですね。


今回の作品もお楽しみいただけていれば、幸いです。

評価・感想もらえれば空を飛んで喜びます。

良ければ、また次回、お会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ