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第12.5章~幕間の章~

「で、アレはなんだったんだ?」

真っ白い病室のベッドの上で、エリカとライアンは教団が起こした病院襲撃事件の振り返りをしていた。元々ライアンが入院していた病院は事件によって全焼となり、新たに怪我人となったエリカとともに管理局本部付近の病院へと転院となっていた。だが実際のところは、事件の被害は病院内だけにとどまっており、入院患者にしても、なぜか事件がある直前に外出や移送をされていて、被害が出ていたのは入院していた人と勤務していた従業員を含めてもシリウス管理局にゆかりのある者ばかりだった。

エリカたちは、度重なる怪我と自己判断による勝手な戦闘行動により、警邏部隊の統括部から暫くの入院および病院内での謹慎を言い渡された。ただその実は、病院で発生した事件の被害を食い止めたことによる名誉の休暇だとアズは言っていたが。

それも大方、大きめの事件になまじ関わってしまったばかりに、自分だけいつもより多めの仕事があることへ嫉妬による当てつけだと思うが。

「あれって?」

「ほら、あのテロの首謀者だよ。エリカ、戦ってただろ?」

アレ……と言われて、一瞬、自分自身の真っ白な姿がよぎった。が、その事ではなかったようでひとまず胸をなでおろす。

「違います。あいつは首謀者じゃないです。…………黒幕はほかにいます」

カブト・トリアイナ。エリカの元同級生にして、今回の事件の主犯格。その実行理由はエリカに対しての恨みと復讐によるものだった。だが、カブトの話を聞いた限りでは、カブト自身が計画して実行したわけではなさそうだった。”教祖”と”教団”――その存在が今回の事件の裏で糸を引き、人ひとりでは到底形にできない悪意を実行に移させた”首謀者”となっているとみていいだろう。

「……黒幕、ねぇ」

ライアンが小さくつぶやいた。上半身を起こしかけていたが、痛む肋骨のせいでまたベッドに沈み込む。

「その存在って、あの暴走者の口からも出てきたのか?」

「ええ。はっきりと“あいつに力をもらった”って……。私に勝つために、"あれ"を渡されたって」

赤いシリウスの涙。暴走を誘発し、理性を焼き潰す結晶。

それが、どういう経緯で生成され、誰の手から渡されたのか――その全ては未だ不明のままだ。

「でもよ」

ライアンが天井を見上げたまま、ぽつりと続ける。

「あのタイミングで、病院にいた患者や医者たちが全員別の場所に移されてたってのが……偶然にしては出来すぎだよな」

「ええ。私たち以外、病棟の中には一人もいませんでした。四階も、五階も」

その不自然さは、戦闘の最中からアズも感じていたらしい。

最初から“彼ら”が襲撃するのを前提に、誰かが"舞台"を整えていたかのような――そんな気配があった。

「それにさ。あの結晶、事件の実行犯が作ったんじゃないんだろ?じゃあ……誰が?」

「…………わかりません。ただ、ラゼルの時のものと“同じ種類”ではあると思います」

白銀の中に灯った紅。記憶と感情が封じられたあの涙は、エリカの精神を飲み込み、焼き尽くそうとした。

そして、あれほど深く刻み込まれた“他人の記憶”を、彼女はまだ忘れられていない。

焼け焦げた皮膚の感覚、身体を割かれる痛み。

誰かの怒り。誰かの憎しみ。そして、誰かの――絶望。

「アイツ……カブトは、私に殺されたって思ってたんですよ。だから、復讐のために全部を捧げた。自分を壊す覚悟で」

エリカの目が細くなる。あの日の爆炎の中、交錯した過去と現在。

憎しみに染まったまま死んだ少年の顔が、脳裏にこびりついて離れない。

「私は……きっと、一生この罪を背負って生きていくことになります」

一呼吸、間を置いて、淡々と続ける。

「彼の記憶を、感情を、わたしは"受け取って"しまったから。感じたんです。皮膚が焼かれていく痛みも、道を閉ざされた苦しみも……。怒りも、憎しみも……全部」

「……エリカ」

「でも、あの感情に飲まれなかった。逃げなかった。立ち向かって、受け止めたうえで、私は――彼を殺したんです」

その声は震えていなかった。けれど、どこか壊れてしまいそうなほど静かで、深く、刺さるようだった。

「彼は……私の過去の被害者で、今の加害者だった。でも、あのまま彼が生きていたら、きっと、もっと多くの命が奪われていた……だから、殺すしかなかった」

ライアンは、何も言えなかった。

憎しみで動く者を止めるには、それ以上の覚悟が必要だ。

エリカはその覚悟を、あの瞬間に背負ったのだ。誰よりも強く――誰よりも、悲しく。

「ねえ、ライアン。私が……白くなった時、見てましたか?」

「……ああ。忘れられるわけがない」

「正直、私も、あれが何だったのかは分かりません。あの赤い結晶を砕いた瞬間、心が焼かれそうになって、それでも踏みとどまったら……目の前に白い光があって。気づいたら、立ってたんです」

「……強かったな」

「強くなんて、ないです。ただ――あの時だけは、そうならなきゃいけなかっただけです」

そう呟くエリカは、自分でも気づいていなかった。

その言葉が、隣で聞いていたライアンの胸に、静かな影を落としていたことを。

それでも今は、嵐の後のような穏やかな時間だけが流れていた。

「で?」

ライアンが、ほんの少しだけ笑いながら言った。

「次はどこに連れて行ってくれるんだ? また修羅場か?」

エリカもまた、肩をすくめて微笑んだ。

「それは……私の謹慎が解けてから、ですかね」

窓の外から、午後の風がそよいだ。

真っ白なカーテンが揺れ、陽光が病室を優しく包み込む。

痛みはまだ残っている。

罪も、悲しみも、全部が終わったわけじゃない。

――けれど、それでも。

「今は、少し休みましょう」

「そうだな」

ライアンは静かにエリカの病室をあとにし、自分の病室へと戻っていった。

エリカもまた、それに倣って、しばしの眠りに身を預けた。

新しい日常が始まる。

それは、静かで、暖かくて――どこまでも、真っ白だった。

どうも、クジャク公爵です。


第1編、これにて完結です。

いや、話は全然終わりませんよ?

ヴァルデスやソフィアとの決着もありますし、アカツキ教団についてはでてきたばっかりですし。

ただ、一旦、エリカ自身が大きく成長し、日常へと帰るということで区切りとなります。

まだまだ謎は残っているので、エリカが次の戦闘に赴くまでしばしの休息ということで。。。


裏話メモ:::

エリカが白い形態になるときにこころの中で叫んだ「ヴァイス・ヘルツ・ブリューヘン」ですが、

シリウスの涙を砕いて理性を持ったまま暴走する時はみんな心で色にちなんだセリフを叫びます。

なので、ラゼルが「コード:亡霊」になったとき実は「ブリューヘン…ブラウ・クノッヘン!(解放……青き槍!)」と叫んでます。※作中に出てくる予定はないです


今回の作品もお楽しみいただけていれば、幸いです。

評価・感想もらえれば空を飛んで喜びます。

良ければ、また次回、お会いしましょう。

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