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マハラリィの花13


一年後。今日は王女の結婚式だ。といってもカサブランカ側でするのは代理結婚で、本番はヘメロカリス側が自国で行うことになっている。結婚式の後は盛大な祝宴が行われる。

「姉さま、もういいかな。」

今日は王子の付き人をする係だから時間厳守だ。

「ちょっとじっとしてなさい。もうちょっとだから。」

メルトの髪型をあれこれするマリア。

「僕男の子だよ、そんなに頑張らなくてよくない?」

「特別な日はお姉さまプロデュースなの!」

特別な日というのは僕のお仕事の日のことだ。僕が付き人をするのはだいたい公式行事なので、服の指定があり、王子の服装とどこかしら合わせた服が下賜されている。お姉さまプロデュースとは、下賜品から王子の痕跡をできるだけ消そうとあれこれすることだ。

「姉さまも行くんだから、こういう日は自分に時間を使ってくれていいんだよ?」

「これはお姉さまの楽しみなの。お姉さまはパーティーから参加だからまだ時間があります。」

マリアは髪型だけが完成している。初夏に相応しく、まとめ髪に小さなバラが散りばめられている。

「できた!うん、可愛い。」

鏡を見る。クリーム色のスーツを着て、髪型は、普段とどう変わったのかわからん。

そろそろ可愛いばかり言ってられない年齢だというのに、姉の贔屓目が過ぎる。

マリアの方がよっぽど。

「姉さまの方が可愛いよ。」にこっ。

マリアが顔を伏せて何かぶつぶつ言っている。

もしかして照れてる?

くすくす「やっぱり可愛い。」

「もう、メルティ!からかわないで。」

マリアの弱点発見。

*

王宮の北側の庭で結婚式は行われた。

今日の王子の付き人は、ジョンとメルトだ。ジョンはメルトと違って大人の正装をしている。

二人の違いは社交界デビューをしているかどうかにある。

へメロカリスからはモーリスが来て、新郎の代理人を務めた。

新郎(代理)と新婦は向かい合うと、ミカエル祭司が青・白・金のリボンを束ねて二人の右手首にゆるく巻きつけた。リボンの青色は誠実さを、白色は清らかさを、金色は祝福を表している。

新郎から誓いの言葉が始まった。

「風が私たちを導くとき、私はあなたと共に歩みます。」新郎。

「火が私たちを温めるとき、私はあなたの心を守ります。」新婦。

「水が私たちを清めるとき、私はあなたの悲しみを共に分かち合います。」新郎。

「大地が私たちを支えるとき、私はあなたと共に根を張ります。」新郎新婦。

祭司はリボンを二人の手首からほどき、三本の右端をまとめて結んで、結婚の証として二人に渡した。

深緑の中、三色のリボンが風に靡き、とても美しかった。


祝宴が始まると、メルトは王子に付いてモーリスと挨拶をした。

モーリスは新郎代理人になるにあたり、いろいろと身分をロンダリングして、老い先短い老伯爵の令息に収まっていた。

「君も王太子付だったの?」

実質王太子の前でモーリスが言った。

「こう見えてボディーガードです。」えっへん。

王子より華奢な少年が胸を張っている。

モーリスは思わず、ぷっと笑った。

メルトは少しむくれてみせた。

「ごめん、ごめん。ちゃんとわかってる。君はいろんな意味で最強だ。」

王子は、王女とのダンスを終えて戻ってくると、ジョンとメルトに、交代で最後の挨拶に行くように言った。王女に対してもそうだが、王女がいなくなれば王女の学友も王宮からいなくなる。

「ご令嬢。旧知の友と最後に1曲、踊っていただけますか。」

ジョンがリリスに手を差し出した。

「喜んで。」

リリスは手をとった。

ワルツが始まった。

リリスは王女についてメロカリスへ行く。

「こんな日が来るとは思わなかったな。」とジョン。

「そう?」

「あぁ。お前はずっと俺の側にいるものだと思ってた。」

二人は幼馴染だ。

「何を根拠に?」

「お前のことを一番わかっている男は、俺だから?」

「そうね。だからヘレン様について行くことも賛成してくれた。

 いつも背中を押してくれて感謝しているわ。

 もしあの時、ジョンが行くなと言っていたら……」リリスは少し考える。

「行かなかったとでも?」

「無いわね。」

クスッと笑った。

「だろ?物分かりのいいのも考えものだな。」

「そういうところも好きよ。」

「俺は嫌いかな。……元気でな。」

「そっちもね。」


ジョンが戻ってくると、メルトはヴィヴィのところへ行く。

ヴィヴィはヘメロカリスへは行かないが、これまでのようには会えなくなる。

「ヴィヴィ、僕と1曲踊っていただけますか。」

メルトにジョンのような悲壮感はない。

「ええ、もちろん。」

ヴィヴィもにっこり笑った。

華やかなドレスのヴィヴィと、正装ではないメルト。

ワルツが流れ始める。

「王宮では会えなくなるね。ヴィヴィはこれからどうするの?」

無邪気に聞いた。

「私、もうすぐ結婚するの。」

「え、誰と?」

びっくり。

「アストラガスで薬品輸出の特許状を持っている商人。」

「へぇ……おめでとう。」

びっくりし過ぎてうまく言葉がでないや。

「ちっともおめでたくなんかないわ。私にはこうする以外の選択肢がないのだから。」

ヴィヴィは一瞬目を伏せ、もう一度顔を上げる。

「でも、私は自分が可哀そうなんて思いたくない。

 社交界で渡り合える教養がある。

 家業を手伝ってきて商売のいろはだってわかる。

 ……私には幸せな家庭像があるの。

 こうなったら、全部、ぜーんぶ手に入れてやるんだから。」

今にも泣きだしそうな目で笑った。

「ごめんなさい。びっくりさせてしまって。」

メルトは大きく首を横に振った。

「ううん。現実を受け入れて、それでも進むヴィヴィ、かっこいいよ。」

ヴィヴィは少し照れたように笑った。

「そのピアス、マリア様とお揃いね。さっきご挨拶をしたときに同じものをつけていらしたわ。」

「昔、姉さまと半分こしたんだ。」

毎日綺麗にして再装着されるので存在自体を忘れるくらい体の一部になっている。

ただ、姉さまが外出先でつけているというのは意外だ。

「ピアスを分け合う意味を知ってる?」

「仲良しってこと?」

「まぁそうなんだけど、もっと、『君を守るよ。』ってこと。」

今のところ、メルトがマリアの時魔法で守られてばかりだ。

「姉さまは僕が守るよ。」

かなり現実的な決意を込めて言った。

ヴィヴィがくすくすと笑い出す。

「もう、今それ言う?しかもわかってなさそう。」

メルトの頭に大きなはてなマークが浮ぶ。

これではマリア様がお可哀そう。

「こういうことよ。」

ちゅっ。

ヴィヴィはメルトの頬に軽いキスをした。

「!?」

「メルティ。楽しい思い出をありがとう。

 また、会いましょうね。」

ちょうど一曲終わり、ヴィヴィはきれいなカーテシーをして去って行った。

まるで嵐みたい。

メルトは頬を押さえて立ち尽くした。

「メルティ、どうしたの?」

声の方を見るとマリアがいた。

デビュタント前の女の子のドレスは、純粋さを強調する可憐なデザインが好まれる。マリアのドレスもクリーム色のふわふわで裾に淡いピンクのバラがついていた。

「あっ、えーと……。姉さま、今日はとっても可愛いらしいですね。」

マリアは嬉しそうに微笑んだ。


*

翌日、王女はヘメロカリスへ旅立った。

誰もいなくなった女の子の勉強部屋で、王子はメルトにハープを聞きたいと言った。

メルトは、布を被せて部屋の端に置かれていたハープを久しぶりに引っ張り出した。


――― 花盛りの夏の朝

緑は香り 小鳥は歌う

バンブリッジの町で出会った

青い瞳の愛しい人

カントリーダウンに咲く一輪の花

マハラリィの花


揺れる金の巻き髪に

青いリボンのボンネット

白いレースがひらりと揺れる

まるで僕の女神様

青い瞳の愛しい人

マハラリィの花のようなあの娘は


君と手をつなぐ日がきたら

風にも雨にも逆らって 

僕の愛する故郷へ連れていこう 

うらやむ人たちの前で

僕はあの娘と結婚するのさ

マハラリィの花のようなあの娘と


「下手くそ。」

「本当にそうだね。」


中近世ヨーロッパの社交界デビューとは何ぞ?王や王妃への紹介を受けて宮廷の一員になること。異世界なので細かいことは気にしなくていいのに、ついつい面白くて知りたくなってしまいます。メルトやマリアは宮廷に出入りしていますが、それとこれとは別の話らしい。14歳から17歳が一般的だとか。メルティはこの夏に12歳になるので(ちょっと自信ない。)まだお子様です。マリアは何でデビューしていないかというと、当然メルティと一緒にデビューしたいからです。

 プロクシー婚(代理結婚)でハンドファステイングをやってみました。プロクシー婚では代理人と指輪の交換をするみたいなので、ハンドファスティングを代理人としてもおかしくないのかなと。

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