ヒーロー7
王子「皆、辛い練習に耐え今日の日を迎えられたことを嬉しく思う。まぁ、申し訳ないと思わないこともない。」ゴニョゴニョ。
「だがこれが集大成だ。チームカサブランカ!」
「「「オー!」」」
「頑張っていこー!」
「「「オー!」」」」
舞台袖で円陣を組んで気合いを入れた。
仮面劇の会は、こだわりの強い王妃からなかなかOKが出ず春にズレ込んだ。子供たちの退屈な冬を楽しくする目的で発案された会なのに、王妃は劇の準備が楽しくて当初の目的をきれいさっぱり忘れていた。そのせいで演目と実際の季節にズレてしまった。「四季の舞踏」は冬の精から始まる。しかし冬があってこそ春が引き立つので劇の構成は変更されなかった。
「緊張する。」ヴィヴィが言った。
広間には子供たちとその保護者、王族、廷臣たちが観客として集まっている。
「今日のためにずっと練習してきたんだから絶対成功させよう!」とフィン。
ヴィヴィが不安そうに頷いた。
「練習は本番のように、本番は練習のようにだよ。頑張ろうね。」メルトは言った。
三人で頷いて、真っ白いフルフェイスの仮面を被って舞台に出た。
四季の舞踏は、季節の循環の中に生命の循環を投影する演目であり、冬に始まり冬に終わる。最初の出番で、冬の精は氷の杖で地面を三回突いて後ろに隠れていた春の精に舞台を譲った。春夏秋とそれぞれの精霊は演技の最後に仮面を外していく。最後は、冬の精が飛び跳ねて世界に冬を振りまき、遊び疲れて中央で寄り添い、一時の静寂の後、再度杖で地面を三回突いて仮面を外した。春の陽が差すように可愛らしい笑顔を見せて、冬は春の前奏者であり、死は生の始まりの始まりであることを表現した。割れんばかりの拍手をもらった。終幕の拍手を冬の精が独り占めにした。演者全員が舞台に出てもう一度挨拶をすると、またたくさんの拍手をもらった。王妃が舞台に上がり、親バカな感想を無邪気に述べて舞踏会への移行を告げた。劇場は瞬く間にダンスホールに作り替えられた。
最初はカドリール。基本は男女ペア二組四人で踊る。演者は、冬の精、秋の精、王子と王女と秋の精からセオドアを加えたものすごく高貴な寄せ集め組に分かれて、それぞれ会場から女の子一人を加えることになった。
メルトはマリアを呼ぼうとして、マリアが加わるなら隣の高貴なる寄せ集め組だと思い、止めて観覧席に向けて呼びかけた。「女の子あと一人、誰か僕たちと一緒に踊りませんか。」秋の精も、高貴なる寄せ集め組も同じように募った。
「ちょっとメルティ、どうして誰かなの?」マリアの不機嫌そうにやってきた。
「えーと、このならびだと、姉さまは殿下やセオドアの方に行くのが自然かなと思いまして。」
「嫌よ。あんな恐ろしいところまっぴら御免だわ。こっちの方がずっといいに決まってる。」
フィンがぷっと噴出した。ヴィヴィもこれには納得する。
王女は花冠に淡いピンクのふんわりしたドレスを着て、まさしく春の精を体現している。しかし、王子は赤いマントと葉冠をつけた初代ローマ皇帝みたいだし、セオドアは白い貫頭衣にボルドーの一枚布を撒きつけてギリシャの賢者みたいで、今にも二人の間で何かの激論が交わされそうだ。春の精が可哀そう。一方冬の精、中でもヴィヴィの衣装は一番かわいい。薄水色のノースリーブのワンピースドレスに白い短丈のケープと手袋、ブーツ。男の子はハイネックのシフォンのブラウスに短丈のケープ、ショートパンツにブーツ。メルトはもともと冬の精みたいなものなので似合い過ぎるくらい似合っている。フィンもメルトに似た雰囲気を持っているので似合っている。
「あの方々と同時に踊る機会なんてそうそう無いでしょうから、他の方にお譲りするわ。」マリアは、冬の精と踊ることになっていたピンクのリボンをした女の子を高貴なる寄せ集め組みにねじ込んだ。
牧歌的なメロディーが流れてダンスが始まった。カドリールは二組のカップルが交差したりペアを交換したり、立ち位置を交換したりする。終盤テンポが速くなると頭がこんがらがってきて、あちらこちらで笑い声が起きた。
「姉さま、次は誰と踊ったらいいかな?」以前、夕食の席で、マリアはメルトに次のパートナーを紹介すると言っていた。
「カドリールは二人で踊ったうちに入らないわ。」マリアは言った。
メルトはそういうことには疎いので、そういうものかと思う。
メルトは両足を揃えてマリアに軽くお辞儀をした。
「では姉さま。僕と踊っていただけますか?」
2曲目ワルツ。マリアは自分がリードをしてあげないとと思っている。メルトはこれまでの練習の成果を見せたいと思っている。二人でリードの取り合いをして、最後はマリアが折れてメルトが勝った。
「ありがとうございました。とっても楽しかったです。」満面の笑顔でメルトは言うと、「ご丁寧にリードしてくださって、こちらこそ楽しかったです。」マリアは皮肉交じりの返事をした。
二人の目が合って、同時に笑った。「上手くなったわね。」「たくさん練習したからね。」
観覧席に移動すると、マリアは公爵令嬢と踊りたい男の子たちと、その仲介をしたい大人たちと、冬の精と踊りたい女の子たちにを囲まれた。人員整理をするためにメルトのパートナー選びを先にすることにした。
可愛らしい女の子が「先ほどのダンスはとっても楽しげで素敵でした。是非私にも銀花と戯れる機会をくださいませ。」とマリアに話しかけると、
「今日のマリア様のドレス姿は冬を惜しむ湖の精のようですね。ぜひ私にも名残雪を惜しむ機会をお与えください。我が家には眼下に湖を臨む別荘がございますの。よろしければご招待申し上げますわ。」と算盤を弾くことを覚えた女の子が言い、
「では私は、その真珠の髪飾りにあうブローチを、いいえ、ブローチに限らずなんだって差し上げますわ。ですからその雪花をお譲りくださいな。溶けないように一生大切にいたしますわ。」と言った女の子は子供かどうか疑わしい。
みんな怖い。引き気味に周りの人々を見渡すとカドリールでマリアに追いやられた女の子がいることに気づいた。
「姉さま、あのピンクのリボンの女の子、カドリールの子だよ。あの子と踊れないかな。」というか踊らないといけない気がする。
「そうね。もしかして私、申し訳ないことをしてしまったかしら。」
そうだね、かなり傍若無人だったよ。
「メルティ、こちらキャロライン・バガンザ伯爵令嬢です。バガンザ家は遡れば王家にもつながる由緒あるお家柄なのですよ。」マリアもあまり知らないので表面的な説明をした。
「キャロライン・バガンザ伯爵令嬢、僕と踊っていただけますか?」
キャロライン嬢は一瞬嬉しそうな顔をして、おずおずとぽっちゃりぎみの左手を差し出した。
メルトは手を握った。キャロライン嬢が驚いた顔をして握った手を見つめている。
「?」メルトが首を傾げると、プッと誰かが笑った。
マリアが慌てて言った。「ごめんなさい、キャロライン様。お気を悪くなさらないで。この子、知らないのだわ。」それからメルトに向かって言った。「ハンドキスよ。」
「ハンドキス?」
「女性が手を差し出されたら、男性はその手をあまり動かさないように右手で支えて、口を」
ああ、手の甲にキスをするあれだ。マリアが説明のために差し出した手を取ってキスをした。ちゅっ。「こう?」
マリアが固まって、黄色い騒めきが起きた。メルトはマリアの手を取ったまま首を傾げる。
「こらメルティ、話は最後まで聞きなさい!ハンドキスは本当にキスをする必要はないの。ていうか、しちゃダメなの!」
「ごめんなさい。」しゅん。また怒られた。
マリアは落ち着きを取り戻す。「それから、握手も間違えではないわ。ハンドキスは目上の人や女性に対する尊敬表現だから、したくないと思えば握手をすればいい。ただ、相手に恥じをかかせないようにだけ気をつけなさい。」
もう一度最初からやり直し。
「キャロライン・バガンザ伯爵令嬢、僕と踊っていただけますか?」
キャロライン嬢はもう一度ハンドキスを求めた。期待されているのがわかる。形を真似るだけなのだから大したことではない。メルトは右手を伸ばして、、、また握手をした。
「ダメ、かな?僕、まだ君のことをよく知らないから。」心のこもらない形はやっぱり不誠実だ。メルトがキャロライン嬢を見つめると豊満な頬が朱に染まった。「な!?大丈夫。全然大丈夫。お友達から始めましょう。ええそうしましょう。」
いい子でよかった。
キャロライン嬢との力強いダンスが終わると、その知り合いの女の子と軽快なポルカを踊った。ダンスを踊った子がその知り合いを紹介してくれるので、ダンスの相手には困ることはない。希望者の間で話がまとまらず曲を飛ばすことも度々あって、思っていたよりも楽に感じた。まだリリスと王女と踊ってないことを思い出して二人を探しにでかける。リリスと踊って、王女に辿り着くと三曲先を指定された。
「王女殿下、僕と踊っていただけますか?」
王女がにっこり頷いて左手を差し出したので、メルトは口づけを落とす仕草をした。
二人はワルツを踊りながらおしゃべりをした。
「メルティ、大人気ね。」
「殿下ほどではないけど?」
「だって、私が壁の花なんてあり得る?それはみんなが気を遣うわよ。おかげでくたくただわ。」
「気を使っているわけじゃないと思うよ。本当に春の精みたいだもの。」笑って言った。
「メルティ、ダンスだけじゃなくてお世辞までうまくなったの?汚れた大人になっちゃダメよ。」
ちょっと飛躍し過ぎ。笑って「お世辞を言っているつもりはないんだけど。」と口を尖らせた。
「ねぇ、誰と踊るのが一番踊り易かった?」
「うーん、踊り易さでいうと、やっぱり王女殿下かな。」王女とリリスとヴィヴィとは練習で何度も踊っている。リリスとメルトは身長差がありすぎるし、ヴィヴィより王女の方がダンスがうまい。
「お姉さまじゃないの?」
「だって、姉さまはどこまで行っても姉さまだもの。」気の強さがダンスに表れている。楽しいけど。
「覚えておきましょう。」王女は笑った。
曲が終わった。
「素敵な時間をありがとうございました。」
「こちらこそ。とても心地よいステップでした。また踊りましょうね。」
メルトは王女と踊った曲が終曲のワルツだったことを後になって知った。
Would you do me the honor of dancing with me? この素敵な響きを日本語にすることは不可能だと思いませんか。
出してからいっぱい修正してごめんなさい。筋は変わってないので大目に見てください。お詫びに豆知識をご提供します。え、要らない?でしたら飛ばしてくださって大丈夫です。何の役にも立ちませんから。
ここで参考にしている宗教はですね、昔は、一日の始まりは夜からで、一年の始まりも冬からでした。ハロウィンの夜は元旦です。これをそのままお話に投影することは、あまりに私たちと違い過ぎるのでできておりません。




