第二章 軍艦島の鏡池 弌
爺ちゃんの探偵事務所に隠されていた八咫の鏡。
そこに突如映し出された軍艦島のどこかも分からない場所に佇んでいた爺ちゃん。
少しの間見ていると、映し出された爺ちゃんは目の前にある廃墟と化したコンクリート製マンションの暗い影の中に歩いて消えて行ってしまった。
一体爺ちゃんと軍艦島に何の関連があるのか、それを探る為に俺と藤井さんは軍艦島に行く事にしたんだが。
あの後、いざこざはあったけど俺は葬式が終わった直後で疲れているのもあり予定を立てるのは後日改めてとなって一旦解散していた。
「藤井さん…昨日の事で長崎に行く日時決めるんじゃなかったんですか?」
それに、その日の夜に八咫の鏡から見せられたもう一つの光景は藤井さんには言ってない。
言うかどうか悩んだけど、俺の中で嫌な予感が芽生えて言う事が出来なかった。
つまり、いや多分あの映し出された光景には藤井さんも何かしら関係している気がするからだ。
だけど今はその事は一旦置いておいてこの人は可笑しい、それか本当に空気を読み間違える馬鹿かもしれない。
「何言ってんの、やからこうして改めて喫茶店に集まって決めようとしてるんやん?」
やっぱりこの人は…俺が言いたい事を何も分かっちゃいない。
「…自分達が何を目的に行くか分かってます?」
「静護さんと軍艦島が何故関係してるんかを探りに行く?」
「そうです。じゃなんで、こんなBAR &喫茶みたいなオシャレな所で集まるんですか?しかも貴方が持ってるん旅行雑誌やん!」
そう、藤井さんが集合場所にしたのは京阪電鉄樟葉駅から少し離れた所にある、喫茶店にしてはBARによりすぎている様な『喫茶店 Seravi』って言う所だった。
「旅行にして観光も楽しむき満々やん!」
しかも藤井さんが持って来たのは観光する気満々の長崎の旅行雑誌。
探偵事務所で見せてた会社でも見たいぐらいの真面目な感じはどこに行ったんだ。
なんでこの人面倒くさいんだと思ってると、少しばかり声を荒げすぎてしまって強面で目力が強いけどそれ以上に綺麗なお姉さん店員に睨まれてしまった。
その睨んでるお姉さんを横のカウンター内にいる、背筋が綺麗に伸び俺達が入店した時からずっと優しい笑顔を絶やさない店主らしきお爺さんが宥める事になっているのが大変申し訳ない。
「ちゃうって旅行雑誌を持って来たんは軍艦島上陸ツアーを調べる為や。軍艦島には個人で入れへんし船をチャーターするなんて事も出来へんやろ?」
初めて知った、軍艦島には個人では入れないんだ。
管理人が入ったり、船着場の整備や現地の人達は上陸許可があって少しは自由に上陸して出入り出来るものだと思ってた、一応島だし。
自分の軍艦島の知識の無さに驚きつつも、やっぱりちょっと信用できないからスマホで少し調べてみた。
「何調べてんねん。って言うか俺ってそんな信用できへん?」
この人の独り言は無視して調べ続ける。
本当だった。
入るには藤井さんが言ったとうり上陸ツアーやコンシェルジュなどの入港許可を持っている旅行会社を利用するしかないようだった。
「ほら見たことか、禁足地やこう言う国が管理してる所にはな先急がずにどう侵入するかよく考えへんとあかんねんで」
「すみません…って言うかその侵入って言い方罪悪感出るんでやめて下さい」
一旦反省しておいて、藤井さんの持って来た旅行雑誌のページを巡って行き軍艦島ツアーを探して行く。
でも軍艦島ツアーはどこにも見当たらなかった。
「この旅行雑誌、軍艦島ツアーのってないですよ?」
「え?嘘やん。ほんまに?」
「本当ですって。ほらもくじのところ見てください」
机の真ん中に雑誌を置いて改めてもくじのページから巡って調べて見るも、やっぱりどのページのどの欄にも軍艦島ツアーやコンシェルジュは無い。
「ないわ。買う都道府県間違えた?」
「いや、これちゃんと長崎のですよ?」
戸惑ってると店主が注文した珈琲を持って来てくれた。
テーブルに置かれた珈琲は香りが湯気になって鼻腔をくすぐってくる。
深く煎られた豆の香りだけど、でも店主のこだわりで色んな豆をブレンドしてるんだろうか、深いだけじゃないフルーティーな香りもする心地のいい珈琲だ。
一旦この珈琲を飲んで落ち着いてから計画を立て直そう。
一口飲む、美味い。
味は深みのある淡い苦味、鼻に抜ける香りは飲む前に香ったあの香りがそのまま抜けていく。
気分が落ち着いて頭が冴えて考えがまとめやすくなっていく。
「ないから言うてあんなの見せられて行かへんわけにはいかんけど。どうしたもんやら」
身内ごとだけどそのとうりだ、手段がなくても行かずに無かったとこにするなんてことはもお出来ない。
何が何でも行って調べたいと考えこんでいると、さっき藤井さんが言っていた事を思い出し店員や店主に聞こえない様に思いついた事を小声で言う。
「…不法侵入…」
不法と言うと他人が聞いたら何かしら疑われそうだ。
だから俺は小声で言ったのに藤井さんはわざわざ分かりやすい顔をして聞き返してどうする。
「…え?」
一応用心して小声で喋り続けよう。
「…さっき言ってたじゃないですか、国が管理してる所には先急がずにどお不法侵入するかって」
「いやちょっとちゃうよ。不法侵入じゃなくて侵入やって。友貞の言い方じゃ俺が犯罪者みたいやん」
許可を取らずに侵入してる時点で何も変わらないだろ。
「いや、それも犯罪ですから」
「……変わりないやろうけど…自分に対していたたまれない気持ちになるわ…」
いたたまれようとなかろうとする事は変わらない。
不法侵入でもしないと八咫の鏡に見せられた謎は解けないし、俺たち2人しか解明しようとする人もいないだろ。
「でもツアーがあったとしても途中で抜けると怪しまれて同じ様なもんになりますよ」
「んん〜それもそうか」
藤井さんも結局のところそれしかないと分かっていながら旅行雑誌を持って来たんだろうか。
案外あっさりと納得してその方針で行く事になった。
「そうなったら改めて日時を決めて新幹線の席取って、あと数日覚悟やから宿泊先も取らなあかんな」
「ですね」
結局今日集まった事にほとんど意味をなさなかったけど。
理由は分からないが軍艦島ツアーの観光が廃止になってる事は分かったのは侵入するのを前提に準備していく事が出来るから良好の兆しってものだろう。
一旦向かう先は中継地点として長崎港がある長崎市、そこで宿を取り軍艦島ツアーが何故なくなったのか現地で詳しく情報を集めと同時に漁港船で何でもいいから足を探す、一旦こんなものだろう。
出発日は8月1日の午前に予定。
そして、有休消化と言う出発日の時期には無理矢理な理由で6日までの休みを取る。
6日もあればそこそこ大丈夫だろって言うのとそれ以上は休みが取れないから6日間で何とかしないといけない。
最悪でも6日の夜の新幹線には絶対に乗って帰って来ないと仕事に差し支える。
それにもう一つ心配事が残ってる、それは宿泊先だ。
今は7月中旬、出発日は8月1日。
何処かしら予約は取れるだろうけど、宿泊先を確保できないと最悪向こうで野宿するか1日でこっちに帰ってくる事になるかもしれない。
「宿どうします?」
「時期が夏休みと被ってるから予約取れるかちょっと難しいな…」
8月って言う事は世間一般では夏休みでどこも旅行者や里帰りする人で混んでるかもしれない。
「でもまぁ探せばアパかどっかは空いてるやろ」
どこかは空いてるだろう、そんな軽い望みを込めてスマホで色々と調べてみる。
旅館・ホテル予約サイトで探しているとやっぱりアパは部屋が空いていた。
中には値段が目が出るほど高い高級ホテルや旅館なんかもあったけど、目的外だからスマホを上にスワイプして飛ばしていくと下の方に1つ気になる旅館が出て来た。
それは最初の紹介として『軍艦島紡ぐ出雲旅館本店』って書いてあり、今俺達が求めている物だと思いタップして詳しい詳細を見る。
―長崎の老舗名店宿 出雲旅館本店 ―
―1950年代・軍艦島出身『山岡博才』が、軍艦島の歴史を後世へ繋ぎ忘れられない為に始めた旅館です。
旅館内には一般に公開されていない当時の軍艦島内部の写真や実際に使われていた道具や精巧な模型が展示されており旅館と言いつつも軍艦島博物館と言ってもいいほど特徴な旅館です。
今現在も旅館は『山岡博才』の御氏族が経営されており、その歴史を一途に受け継いで経営されています。
料理も長崎県名産品のあご・からすみ・枇杷などを使った卓袱料理が有名で知られている。―
軍艦島の歴史を紡ぐ。歴史は関係ないけど精巧な模型や当時の写真があるならもしかしたら爺ちゃんが映し出されていた場所を特定するには丁度いいかもしれない。
そう思った俺は旅館のページを開いたままにして、藤井さんが他のホテルか旅館を勝手に予約しない内にスマホを見せる。
「ここめっちゃ良くないですか?」
「どこ?」
そう言いながら手を伸ばしスマホ画面を確認しようとしてきたからそのままスマホを渡した。
「いいやん、この旅館の写真とかであの場所が分かれば一手間減るなからこの旅館にしよ」
藤井さんも即納得してくれたからスマホを返してもらいそのまま今見ているサイトから予約画面へと進めていく。
名前、住所、電話番号、人数を入力して部屋の空きを調べてみると、驚いたことに名店と言う割には部屋は全然空いているじゃないか。
しかも、出雲旅館本店名物・枇杷の卓袱料理付きで1泊2日が25000円で予約が出来る。
俺達の場合は5泊6日で予約すると「長崎応援キャンペーン割」で1人55000円になって定価よりも少しお得だ。
「okです。予約取れましたよ」
「1人いくらやった?」
「えっとですね、5泊6日の枇杷卓袱料理付きで割引が少し入って1人55000円でした」
「…代金別々で払おな」
これで宿泊先も取れて安心だ。
この後、藤井さんは会社に行き無理矢理有給をねじ込んで、そこから出発日8月1日までに終わらせておく仕事を終わらせて、引き継ぎするものをまとめて自分達の準備をまとめるのみ。
勿論あの八咫の鏡も忘れずに持って行かないといけない。
軍艦島に入る事が出来れば何か手がかりをまた映し出してくれるかもしれない。
御葬式の徹夜のせいなのか母さんの体調も良くない、それが心配で長崎に行くまでは一旦実家に泊まって母さんの様子を見る事にした。
そうなると荷造りしている時にどこに行くの?となったから、母さんには俺が仕事を休んでいるうちに出張が決められて6日間ほど長崎に行ってくるって本当と嘘を織り交ぜて言っておいた。
そんな忙しない日々が過ぎて出発日当日。
仕事の引き継ぎは信頼できる同僚に、母さんには出来るだけ体調に差し支えない様に言ってきた。
今現在時刻は8時10分、京都駅の新幹線改札口前で藤井さんと集合して新幹線に乗って長崎に向けて出発した。
今から約4時間半は新幹線で移動、向こうに着くのが12時過ぎぐらいの予定だ。
そこからは一旦宿に向かい荷物を預け手軽になってからまず旅館内の軍艦島の展示を資料代わりに場所を特定し、そこからさらに足探しになる。
新幹線での移動はそれまでの休息になる。
だけど何もしていないのも退屈だ。
なら今の時間を使って以前八咫の鏡のせいで聞きそびれていた何故爺ちゃんの手伝いを始めたのかを改めて聞いてみるのもいいかもしれない。
「なんで静護さんの手伝いを始めたっか…」
藤井さんにとっては10年ぐらい前の事だったか、過去を思い出しながらその時の気持ちを偲ばせながら言葉を選んでから話し始めた。
「別にな恩義を感じたからとかじゃなかってんな。んん〜…色々ありすぎてあんまり覚えてないけど、もしかしたら大学生で自分の身に起こった事も含めてやけど、当たり前の中じゃあ知り得なかった非現実的な現状に惹かれたんやと思う?」
霊体験や呪い、そして呪物。
それらを祓い解決したりする除霊師に霊媒師。
普通に生きていればTVの番組とかで見て少し知っている程度で終わって、実際に身近に体験して被害者になるなんてない事だけど。
そんな一生に起こるか起こらないかを藤井さんも体験したからなのだろうか、でも。
「惹かれたって。そんなん関わり続けてたら下手せんくても呪われて死んでたかもしれないんですよ?大学生で浮かれてたとしても流石に馬鹿すぎるでしょう?」
悪く言うわけではないけど、大学生と言うだけで浮かれ気分に酔って現実では味わえない非日常の刺激に惹かれて死地に足を踏み入れるなんて事は俺には考えられない。
ましてやそんな軽い気持ちが手伝い始めた理由だなんて信じたくない。
いや、当初の藤井さんには軽い気持ちなんかじゃなかったのかもしれない。
でもそれに近い気持ちで、軽く曖昧だった事に対して心に詰まるものを感じてしまう自分がいるのかも。
そんな俺を見て藤井さんは察したんだろう、兄が弟の駄々を笑う様に静かに1度笑い弁解にも思えない事を言う。
「近くで見てて漫画やアニメを見てる様な感覚ですまへんのはちゃんと分かってたで。もしかしたら『人生も命もドブに捨てに行ってるのかも』ってな」
「…」
(そんな事、自身が体験した事を思い帰ればわかる事やろ。それに…先立たれて1番悲しいのは親族や友人達やのに)
俺の知る限りではこう言う人達はいつも笑顔で去っていく。
「…理由は、まぁ分かりました。でもその間になんで面識が無かったんですか?」
藤井さんが手伝いをしてたのは20歳から社会人になるまでの約2年間、その間に紹介される事も事務所で鉢合う事もなかった。
ましてや親父にさえ何も言わなかったのは何でなぜだろう、何か事情があったんだろうか。
「いや、それな。静護さんから『ウチの家族に会うたりしなや』って念押しで言われとったんよ。でもなんでそんな会わせたくなかったから俺も知らんし分からんのよ?」
爺ちゃんが家族に言わなかった理由…そんなの俺も分からないけど、少し考えてみて何となくだけどこの人を俺達に会わせたくない理由がピンと来た。
藤井さんの大学時代を知っているわけじゃないけど、人ってそう簡単に変わらない事を考えると昔からこんな感じでプライベートがこんな毎度気疲れさせる人だとしたらそりゃ家族に会わせたくはないよなって。
「大体想像つきますよ」
「え?なんで?」
たかだか自分が思った事だけど藤井さんに言っても無駄かもしれないし、めんどくさいだけだろうから話を逸らして無かったことにしとこう。
本人はもしかしたら今後も気づかないだろう。
そんなこんなで京都から約4時間半、新幹線の中ではあれから半分は寝ていたけどやっと長崎に着いた。
現在の時刻は昼の12時20分、途中車内販売で昼食としてご当地駅弁を食べたけど広島の牡蠣弁当は本当に美味しかった。
甘辛く味付けされた牡蠣の佃煮はご飯が進む進む、藤井さんなんて真昼間からそれをつまみにビールにまで手をつけようとしてたぐらいだ。
昼間酒をグッと我慢した俺達は長崎に着いてからまずはじめに予約してある出雲旅館へとタクシーで向かっている最中だった。
なぜって5泊分の荷物は流石に持ち歩くには重いし邪魔すぎるし、一度先に旅館に行って先に展示されている物を見て回ってからでも船を探すのも遅くはないと思ったからだ。
「お客さん、着きましたよ」
「ありがとうございます」
代金を払ってタクシーのトランクから荷物を受け取ってから旅館の方を向くとそこには旅館の歴史を感じさせる堂々とした門が佇んでいた。
門を潜り中へ入ると正面玄関まで行く為のこじんまりと落ち着いた普段では見て歩くこともない立派な日本庭園の道が続いていて何とも風情がある通り道だろうか。
旅館の外装も予約サイトで見ていたけど、それ以上に歴史ある古風の古き良き建築の旨みを生かしているのが建築素人が見てもそう思わされる。
しかも旅館は建てられた当初では珍しい3階建でその2階部分の半分が軍艦島の歴史を収めた資料が置かれているらしい。
1階は玄関に帳場、お土産店、旅館の温泉、お食事所に2部屋だけ宿泊室がある。
2階には軍艦島歴史館に一部屋が広めに作られた宿泊室が10室。
3階は宿泊室のみで12室ある。
中の方はと言うとしっかりとリノベーションされていてバリアフリー対応もされている。
出雲と書かれた暖簾をくぐって中に入る、玄関先は広く作られていて凄く綺麗にされているし、車椅子のお客さんもすんなりと上がれるように緩やか過ぎるぐらいの坂も用意されている。
三和土を上がって右手側には帳場がある、けど人がいない。
こんな歴史ある旅館には上がり框でお客さんを待つ玄関番もいそうなのにいない。
静かすぎて声を上げて旅館の人を呼ぶのも気が引けたから、靴を脱いで帳場前で周りを見渡している。
見渡して直ぐに帳場の横にある、三和土に直結してる扉ところから『松尾』と書かれた名札を付けた従業員が心地のいい笑顔で出て来て出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。本日ご宿泊のお客様でしょうか?」
多分俺が帳場を見渡した時と従業員の松尾さんが扉に向かったタイミングが被って見えなかったんだろう。
チェックインの2時間前に到着したとこに申し訳なさを感じながらも俺はネット予約した友貞と伝えると松尾さんは予約帳簿を確認せずに『お待ちしておりました』と一声くれた。
多分だが今日宿泊に来るお客さんの名前を全て頭に入っているんだろう。
「友貞様ですねお待ちしておりました、本日は長旅お疲れ様です。お早いお着きですとお荷物のお預かりで宜しかったでしょうか?」
この道何十年なんだろうか、察する心遣いの早さが俺達の旅疲れを労ってくれる。
「あ、そうです。それと今から旅館内のの軍艦島歴史館を見て回る事って出来ますか?」
「えぇ、問題ございません。歴史館の方は常に一般公開させて頂いておりますのでどうぞご自由にご覧になられて下さい」
常に一般公開されているらしいけど、一応は許可を貰った。
リノベーションされているけど流石にエレベーターは付いてない。
ホテルじゃないし当たり前と言えば当たり前だから階段を使って2階へと上がって行く。
階段を上がって行くと旅館の正面から見て左側に2階の歴史館として使われているのは旅館の正面側だけで、階段を上ると丁度辿り着くようになっている。
長崎にいられるのは最長で6日間、その間に軍艦島まで行って爺ちゃんの謎を解明しないと行かない俺達は時間が惜しい。
出雲旅館に着いて歴史館に上がってからも一息つく事なく壁に飾られている写真を見て回り始めた。
展示写真を一つ一つ確認して見ていく。
漁港に船をつけ網魚で取ってきた魚を仕分ける魚師、何気ない定食屋の前、小さな公園のブランコで遊ぶ子供たち、市場で買い物をする主婦たち。
どれもTVの特番やネットで上げられる写真に近しい所はあるけどでもやっぱり旅館に飾られている写真の方がどれも写っている島民達の私生活がリアルにおなめられていてその時代の暮らしが生き生きと撮られている。
そのまま流れなるように当時の貴重な歴史写真を見て行くと廊下の中心部に差し掛かったところにサイトでも見た軍艦島の模型が置かれていた。
俺達はその模型でさっき見てきた写真の場所を特定しながらまだ見れていない場所、どこが1番あの場所に近いかを指しをしながら模索していく。
見た写真の中には漁港が2つ、定食屋が1つ、公園とその公園で遊ぶ子供たちのものが4つ、市場が1つの計8つの写真。
写真の8つの場所を当てはめた事で、角度的にはまだ全然見ていない所の方が多いけど、大雑把に軍艦島内部を区分した時にあと確認出来ていないのは炭鉱とその近く、そしてマンション65号棟と絞り込めた。
廊下の中間地点にある模型からあと半分、反対側の通路壁にその2ヶ所の写真が飾られているかもしれな、思いそのまま写真を見ながら進んでいく。
ここは違う、ここも違うと俺も藤井さんも独り言がぶつぶつと口から出てしまう。
廃墟と言ってもまだ27棟程の建物が残ってい軍艦島にネットの情報だけを頼りに行っても闇雲すぎて時間を無駄にしてしまう、それなやこの出雲旅館で場所だけでも特定できた後に行く方が時間を有意義に爺ちゃんに当たる事ができる。
そんな事も考えながら一つ一つ写真を細かく確認していく。
俺は一つの写真で足を止め反対側の壁に飾られている写真を見ていた藤井さんを呼んだ。
「ちょっとこれ見てみて下さい藤井さん」
目の前にある写真は鉱山前マンションの島民達と書かれてある。
その写真は20数人程の人が集まってマンションの前で笑顔で集合写真を撮ってもらっている、皆んな凄く幸せそううだ。
でも、そんな顔も名前も知らない人達の後ろには見覚えのあるマンションが建っていた。
限られた土地の中に建てられた10階建てのマンション、写真を見る限りでは正面の塀から逆Uの字に見える様に撮られていて、その中央奥の階段、正面の塀の位置、劣化したマンションのひび割れや欠けて崩れかけたコンクリートの位置までが記憶に残る八咫の鏡に見せられたものと一致してる。
でもおかしい。
俺が今見ている写真は『当時の写真』のはずなのにどうして八咫の鏡に見せられた現代のものに見えているんだろう。
―軍艦島の鏡池 弌 阿吽―




