霊媒探偵の死 弍
俺は元々は親父の部屋で、今は亡くなった爺ちゃんの物置になっている部屋のドアを開いた。
すると開け切る前に扉の隙間からゾグッとする風が俺の横を流れて行くのを感じ取った。
「うゎ…何…今の?めっちゃ変な感じ…」
悪寒のする風が俺の横を通り過ぎた後、上がって来た階段の方から軽くキィと軋む音が聞こえて来てつい振り返って見てしまう。
「ん?母さん?」
母さんかと思ったんだけど、誰も上がって来てない。
古い家だし何処かしらにガタが来ていても可笑しくないし何段目かな階段の歪みが鳴ったのだろう。
だと思うのだが、軋んだ音の軽さに違和感を感じてしまう。
「違うか、まぁいいや早く片付けてしまわなあかんし。それに遺書も探さへんとな」
そんな事よりも部屋の遺品整理を済ませてしまわないといけないのだが。
部屋の中きら流れて来た悪寒のする風、階段の勝手に軋む音、不気味な感覚そのものが俺の背筋を撫でて行ったせいで部屋に入る一歩が重く感じてしまう。
だがそんな事で部屋の片付けに手をつけない理由には出来ない。
俺は少し開けて止めてた部屋の扉を開け切って中を見たのだが、扉の前には段ボール、部屋の中は物で溢れかえってる、さらには所々埃も溜まっていた。
「…こんなん、今日中に片付けられへんやつや…整理意外に少しだけでも掃除せえへんとあかんな…」
あまりの物の量と埃に今日中に終わらせる事が出来ないと悟った。
「母さんにヘルプして欲しいけど爺ちゃんの知人に亡くなった事を電話かけるで忙しいしな…やるしかないか…」
今日は通夜で明日が葬式、通夜は母さんと俺だけだが明日の葬式は爺ちゃんと親しい人達や仕事でお世話になった人達が来る、なので今日中に半分程でも終わらせないと次に片付け始めれるのは明後日になってしまう。
「…もしかして藤井部長はこれを知ってたから今後忙しくなるって言ってたんか…」
部長は以前爺ちゃんの依頼者だったらしく、そのご縁からか依頼解決後に少しの間だけ爺ちゃんの手伝いをしていたらしい。
「!もしかしてあの人!」
もしかしたらこの部屋に溢れるほど荷物を詰め込むのも手伝っていたの可能性が出て来た…
「…あの人…明後日絶対にここの片付け手伝わしたらぁ…」
違っていても間違っていなくても俺はもお上司であろうと容赦はしないと心に決めた。
「兎に角片付け始めなどうしようもないか」
俺は覚悟を決めて入り口前の荷物から手をつけ始めた。
部屋の入り口から段ボールが積まれていて、中を開けて確認してみると依頼者の個人情報が記された書類が入っている。
「マジか…これは市役所に持って行くか電話して処分の仕方聞くしかないな…」
探偵の仕事として取っておかないといけない物だが、処分の方法を1番知っていた本人が亡くなる前に始末して欲しい…こんな物…
その後は単純作業で積まれてある段ボールを開けて中を確認して行くって作業で、中身のほとんどが依頼の書類や写真やらで個人情報だらけで頭が痛くなる…
言っておくが中身の確認だけで依頼内容やその他の事は読んでないから安心してほしい。
段ボールを運び出すだけで大仕事だと思ったけど、それだけで部屋の3分の1を片付かれてたのがちょっと拍子抜けな気分だ。
一階に下ろした段ボールとその中身は母さんに報告済み、後日市役所に確認しに行くことにした。
そんなに広くない部屋の入り口に積まれてあった段ボールは全部で9箱、スムーズに一つ一つ中を確認して運び出す作業だけでも結局のところ時刻は17時半過ぎになっていた。
時間が経つのは早い。
「智幸お疲れ様、一旦休憩する?」
母さんが少し声を張り上げてそう言いながら2階へ上がって来ていた。
「んん〜、そうやな〜」
だけど俺は部屋の残りのスペースを埋め尽くしていた骨董品を物色するのに夢中になってて、それに気づかず適当な返事を返す。
母さんは階段を上り部屋まで来て中を覗いていた事にも気づかなかった。
「凄いやん、もおこんなに片付け終わったんや」
「おぉ!母さん上がって来てたんや」
「そんな驚く事ないやん」
「ごめんごめん、めっちゃ集中してたから気づいてへんかった」
「集中って言うよりも物色してるような後ろ姿やったけど?まあ好きにしたらいいけど遺書はあった?」
「いや今のところまだ見つかってへんけど、こんな所に遺書とかは残してへんのちゃう?」
「そうやね、やっぱり物置にしてる様な部屋にはおいとかへんよね」
「そうやと思うで?」
俺と母さんは爺ちゃんが自殺した理由が遺書に残されていないかと期待していたのだが、物置部屋とかした所にはなかった。
探偵事務所にあるのかもと考えてはいるけど、事務所は警察が調べ終わっているらしくそんな物は見つかっていないらしい。
「そう言えばさ、部屋片付け始めるために上がった時、少し後から母さんも階段上ってた?」
「ううん、あの後はお爺ちゃんのお友達に電話するので忙しかったからこっちには来てへんよ?」
「そっか、分かったありがとう」
あの音はやっぱり歪みのせいで鳴った軋む音だったのだろう。
「そう言えば階段の途中に足跡みたいな汚れあったで!あの跡あんたちゃうの?」
でた、母さんの観念的な物言い…
「シャワー浴びてんからそんなわけないやん!」
「浴びるだけで石鹸使ってへんやろ」
流石は母さん…即論破された…
「…そうやけど…でもそんなん足だけ汚れてるわけないやん!それに、もしそうやとしても俺が歩いたところどころが汚れてるはずやん」
「そうやな、でもこの部屋は掃除してる時に足裏汚れてたら?」
「あぁ〜、それやと俺やわ」
当然至極で納得しかない。
「後で拭いときます…」
「お願いね、じゃあお茶にして少し休憩しよ」
「そうしよ、それとちょっとこの段ボールの中も見てみたいから居間に持って行ってもいい?」
「いいけどちゃんと埃払ってや?」
「埃は大丈夫やで、この段ボール埃も何もついてへんから多分爺ちゃんが自殺する前に置いてったんちゃうんかな?」
下に持って行こうとしている段ボールは埃はついてなく、上フラップを開けて確かめてみると、中身はまた別の箱らしき物が入っていて、一つ一つが几帳面に仕舞われている。
中に何箱入っているかはパッと見ただけでは分からないけど、自然と興味を惹かれてた。
早く中身を確かめたくて仕方がない欲求に駆られる。
「よいっしょっと、下いこ母さん」
オジサン臭い掛け声と共に段ボールを持ち上げた、俺が思っていたよりも重さがあってビックリだ。
「はいはい、ふたばの黒豆大福もあるから食べよっか」
「ほんまに!?食べよ!」
俺も母さんも大好きなふたば屋の黒豆大福があるなんて最高だ。
ふたば屋の大福と温かい緑茶を合わせるのが俺の大好物で他人にもおすすめしちゃう程だ。
そんな事で陽気になりながら一階へと向かう、母さんはキッチンの方にお茶を入れに行ったが俺は一度段ボールを置き階段に振り返った。
母さんの言っていた足跡の汚れを確認しておくためだ。
「あぁ〜…つま先側だけの足跡?まぁ後で拭いとこ」
足跡の汚れはつま先部分だけのもので、向き的に降りてくる時に出来たものに見える。
だけど少しおかしくて踵側に行くにつれて擦った様になっている、俺は段ボールを持っていたし階段を踏み締めて降りたはずなんだけどな?
「智幸〜お茶入れたで」
「はーい、今行く」
掃除は後回しにして今は段ボールの中身とふたば屋の黒豆大福が先だ!
好物のお菓子一つに年甲斐もないって事は分かっている、けど!ふたば屋のお菓子なのだから仕方がない!
居間に入ると母さんはもお座っていたので俺は対面側の座布団に座り母さんからお茶と黒豆大福を貰った。
「ありがとう母さん」
持って来た段ボールの確認は後回しにし、先に黒目大福をゆっくりと味わおう。
黒豆大福を右手の親指、人差し指、中指で優しくつかみ表面の片栗粉がこぼれても大丈夫な様に受け皿を左手で持ちながらゆっくりと口に運びまずは一口。
伸びる求肥を噛み切ってから味覚に意識を集中させる、あんこの柔らかな甘味が口に広がっていき、香りが鼻口へと抜けていく…
そして、ゆっくりと咀嚼する。
「あぁ〜…うま、流石はふたば屋の黒豆大福…黒豆が柔らかすぎず食感がちゃんと残ってるけど、あんこの舌触りを邪魔せえへんのが匠の技やわ〜」
「…あんた…食のレポーターになったらどう?…」
「何言ってんの?無理やで?好きな物のレポしてるだけやねんから」
「…そうか」
そう言った母さんは一口緑茶をすする。
母さんは何を言い出すやら、食レポの才能なんて俺には無い。
そして俺も母さんが淹れてくれた熱々の緑茶を飲む。
…最高だ…あんこの甘さに満ちていた口が淹れたての緑茶の苦味と香りによって一旦リセットされる。
でも黒豆大福の全てが持っていかれるわけじゃない、ほのかにあんこの香りが口の中に残っているこの状態…
甘すぎるお菓子じゃあこの感覚は絶対に味わえない…俺の、いや、和菓子好きの究極のひと時…
「めっちゃ幸せそうな顔してるで?」
「いや、実際に今めっちゃ幸せやから」
そりゃ好物を食べたら老若男女誰でも幸せになるだろうに。
「そうか、早く食べちゃわな食べるで?」
「なんで!?別にゆっくり食べてええやん!」
「まだ階段拭いてへんやろ?」
「…はい、早く食べ終わります…」
当然至極しか言わない母さんが強すぎる…
なので俺は好物のふたば屋の黒豆大福を名残惜しくそそくさと食べ切った。
「…あぁ…最後の一口…」
「早よしい」
…パキィン…
最後の一口を頬張った時だ、キッチンの方からパキィンと何かが落ちて割れる音がした。
母さんと俺は驚いてキッチンの方を向く。
「ふぇ?ふぁに?」
黒豆大福を頬張っていて声にならない声が出た。
「お母さん見てくるわ」
「ふぅん」
そう言って母さんがキッチンへと向かったが音からして食器が落ちて割れたのは一目瞭然だと思う。
「お父さんが使ってたマグカップが落ちて割れてるわ」
黒豆大福を飲み込む途中で声が出なかったから、緑茶を一口飲んでから俺もキッチンへと向かった。
「ほんまや、親父が大切にしてたのに。ちゃんと仕舞ってへんかったん?」
「ううん、ちゃんとこの食器棚に仕舞っててん……?」
「ほんまに?でも食器棚の扉はちゃんと閉まってるし落ちて割れそうにないで?」
俺は食器棚の扉の取手を引いて確認する。
うちの食器棚は地震対策で軽いロックが付いているタイプで、何もなければ勝手に開く事はまずないはず。
それなのに親父のマグカップだけ落ちて割れた、他の食器は何も落ちてないのに。
「じゃあお母さんが直したい思い込んでてそこら辺に置いちゃってたんかな?」
「多分そんな感じちゃう?もぉ割れてしまった物は仕方ないし怪我する前に片付けよ」
思い出の物でも破れてしまったらしかたがない、怪我をする方が大変だから早く片付けないといけないと思った。
「そのとうりやね、じゃあ新聞紙と掃除機持って来てくれる?」
「分かった、持って来るまでに触ったらあかんで?怪我するから」
そう言って母さんが無理に触って怪我をする前に俺は包むような新聞と掃除機をとって来た。
「はい、素手で触ったら指切るかもしれへんから軍手も持ってきたで」
「そんなん大丈夫やのに」
「一応用心で」
軍手をした俺と母さんは思い出のカップを片付け始める。
何故だろう、破れた破片を一つ一つ新聞紙に置いて行くたびに親父の事を思い出す。
まるで親父との思い出に触れているみたいだ。
俺がそんな事を感じているなら母さんは何を思い出しているのだろうと思い、母さんの方に振り返る。
やっぱりだ、母さんも親父との思い出を懐かしんで微笑んでいる。
そんな同じ感覚に酔いしれている事に親子感を互いに感じながらも、マグカップの破片を掃除機で吸いひと段落したが。
大切なマグカップが割れたのにどこか暖かい気持ちが心に残っていた。
「このついでに階段も拭いてくるわ」
「お願いね。 お母さんは晩御飯の準備してるからね」
そうして俺は階段の足跡の汚れを掃除する為のバケツを取りに風呂場に行った。
バケツは火事や地震で水が止まった時用に風呂場に置いておくのがうちの習慣になっている。
俺はそのまま風呂場で水を入れ階段前へと持って行く。
雑巾は階段下の物入れに入れてるからそこから取ればいい。
「よし、早く終わらせよ」
水を入れたバケツに雑巾をつけて硬く絞る、室内でも夏日で暑くなってるか水に手をつけるのは気持ちがいい。
硬く絞った雑巾で階段についた汚れ拭き取ろうとするが。
「ん、なんでや? 全然とれへん」
どれだけ拭いても汚れは少しもとれないし、拭いていて気づいた。
足跡の汚れのところだけその形に少し凹んでいる。
「俺そんな強く踏みしめてたか?」
変に思い右手に持っていた雑巾をバケツに入れて素手で触れてみた、その瞬間。
「…!」
爺ちゃんの物置部屋の扉を開いた時のような悪寒がまた背筋を走っていった。
同時に後ろにある玄関から奇妙な声が聞こえて来た。
『…開ッけ…、ろッ…、』
背中を向けていても分かる、玄関の外にも内にも『人』はいない。
でも声だけが聞こえて来る。
背中に冷や汗が流れて声が出ない。
(どうする…どうしたら…)
どうする事も出来ない、心に恐怖が溢れていくのに頭の中にら冷静な部分も残ってる。
でも、そんな余計な冷静さと恐怖心の矛盾が俺の視界を邪魔な程に薄暗く感じさせる。
誰もいないのは分かっているが、俺は振り返る事を躊躇ってしまう。
それでも俺はゆっくりとだか振り返り玄関の周りを見渡して確認する。
振り返ると時に足跡からも手が離れた。
「…やっぱり、誰もおらん…」
分かっていた事だが安堵してしまう、喉で詰まっていた声もやっとちゃんと出る事にも安心する。
「…何これ…ヤバすぎるやろ…こんなん母さんに絶対に言えへん…」
なんとかしないといけない、でも現状ではどうする事も出来ない。
そしてそれ以外に問題がもう一つある。
冷静になって思い出してみれば、声は玄関の内側から響いていた。
(…家の中に…この足跡の主がいる…)
このまま『それ』を放置していれば確実に母さんにも被害が出る可能性がある。
それは何としても阻止しして母さんを守らないと。
(…確か『開けろ』って言ってたばすや、この家から出たがってんのか?)
『それ』が言っていた事を思い解してみれば簡単だった、玄関の前で『開けろ』って言ってた、なら。
「…言われたとうり…開けたるやん…!」
それが分かれば早急に玄関を開けるのみ。
俺は立ち上がりスリッパも履かずに玄関に出て扉を開けた。
「…あ、開けたけど」
でも、それだけの事で本当に『それ』が家から出て行ったのかが分からない。
だから、もう一回足跡に触れて確かめてみる事にする。
土汚れがついたままの足で家に上がり足跡の前に立つ。
またこの足跡に触れる、冷や汗とは別の嫌な汗が流れる。
だがこのまま確かめない訳もいかない、恐る恐る触れてみた。
「…」
ちょびっとだけ気分が悪くなるが、それはさっきの感覚が体に残っている名残りだろうと思う、いや思いたい。
でも、あの変な声も悪寒も襲って来ない、なら上手くいったって事だろうか。
「玄関を開ける…それでよかったんや…」
まだ本当に出て行ったかは分からないがひとまずは安心していいのだろう。
でもこの消えない足跡をどう母さんに説明するかがまた問題になってくる。
「どうしよ…でも今の出来事を素直に言うても無駄やしな…」
どう考えても足跡部分を削るとか、絵の具やらで色を塗るとか馬鹿みたいな事しか思いつかない。
自分の低脳さにはうんざりさせられる。
こうなったら馬鹿な言い訳をするよりも素直に言った方がいいと小学校時代に培った経験が言っていた。
「素直に汚れ取れへんかったって言うか…」
結局それしか思い浮かばなかったしもお難しく考えるのも諦めてキッチンへと向かう。
「母さんごめん…あの汚れこびりついてとれへん」
「はぁ?あんたどんな脚力で踏みしめたんよ?」
「いや俺にそんな脚力ないよ、またお葬式が終わった次の日にでも強い洗剤買って来て落とすから許してな…」
「はぁ…分かったわ、晩御飯もう少しかかるから、ゆっくりしとき」
「は〜い、ありがとう」
時刻はもお18時だった。
出来上がるまで居間で一息つきながら段ボールの中身を確かめよう。
「やっとこの中身を確かめれるな」
俺の呟きがキッチンにいる母さんの地獄耳にまで届いていたようで、茶化す一言が返ってきた。
「物色するんやろ?」
「…そんな人を茶化してたら包丁で指切るで!」
母さんはクスクスと笑うだけだった。
何も間違ってはないけど…
「じゃあ改めてと」
段ボールをすりながら手前に持って来て、埃の被っていない上フラップを開ける。
まずは中に入っている箱を全て外に出してみる事にした。
小さな箱か全部で5つ入っている、一つ一つにラベルが貼ってあり神社の名前が書いてあった。
八阪神社、城南宮、上賀茂神社、松尾大社と書いてあった。
どれも京都で有名な所で、よく五社巡りで知られている。
でも平安神宮だけがなく、最後の一つは全く別の物だった。
「滋賀•童子の柄杓?」
滋賀で有名と言えば多賀大社、日吉大社、近江神宮だが。
童子の柄杓が関係する神社なんて聞いた事がない。
「童子の柄杓…五社巡りとはなんも関係ないよな?中身だけ確認しとこ」
箱を開けると中にはさらに木箱が入っている、入れ子と言うものらしい。
入れ子状態から取り出してやっと中身を確認できる。
木箱の蓋を開けてみると中には木目の柄をした石が丁寧に綿の上に置かれていた。
「…全然柄杓じゃないし…ってか柄杓のどの部分かすら分からへんやん」
童子の柄杓って書いてあったから先端の水をすくう部分かと思ったが全然違った。
これは、ただの石だ。
中身は違ったが童子の柄杓自体は気になったので、それだけでも調べてみる事にする。
机の上に置いてあったスマホを手にWeb検索で調べてみる。
Web検索_『滋賀県、童子の柄杓』
ヒット_『三重県伊勢市本町の外宮参道の柄杓童子』
「全然滋賀とは関係ないし、違う県の出て来るやん、ってか柄杓童子なんてあったんや」
滋賀とは全く関係のない、子供が犬の背にのり柄杓を担いでいる銅像の画像が出て来た。
「ちょっと可愛いけど…」
検索しても出て来ないものは仕方がない、他の箱も開けて確かめてみる事にする。
「他のも開けてみるか」
4つの箱の中から最初に手に取ったのは八阪神社のラベルが貼ってある箱。
開けて中を確認してみる。
「真っ赤な鳥居の置物?」
手のひらサイズの全てが真っ赤に塗られた鳥居の置物が綿の上に置かれて箱に入っていた。
よく神社のお守りや置物として売られている物に似ている。
2つも開ければもお分かる、残りの箱の中身も期待して開けても仕方がない物だろう。
後の3つは開けるだけ開けて中身の確認だけして直ぐに片付ける事にした。
城南宮のラベルの箱ー菊の飾り物
上賀茂神社のラベルの箱ー八咫烏の焼物
松尾大社のラベルの箱ー漆器の酒器
残りの3つも俺にとってはなぜ箱に入れてまで残してあるのかが分からない物ばかりだが。
「多分…爺ちゃんの御朱印とか五社巡りに行った思い出の品なんやろな」
そお思うと少しほっこりするが。
遺品を物色して、勝手に爺ちゃんの思い出の品に浸って名残惜しくなってしまった事に罪悪感が抱いてしまう。
名残惜しさと罪悪感が沸いた物色に私感的な感情を巡らせていると、食卓の方から晩ご飯が出来たと声がかけられた。
「お待たせ、ご飯できたから食べよっか」
「はーい」
確認した箱を段ボールの中に戻し、食卓へと向かう。
母さんが作ってくれた晩ご飯は細切りにしたハムが入ったサラダ、煮込みハンバーグ、ズッキーニの入ったオニオンスープだった。
「おぉ〜久しぶりの豪華なご飯」
「普段からちゃんと食べてんの? 夏場やねんからちゃんと食べなあかんで」
「そんな言っても、いつもは仕事が忙しすぎて流石に無理やって」
彼女もいない独身一人暮らし男性が普段から家でこんな豪華にご飯が作れる訳がない。
「でも心配してくれてるんはありがたいけど」
「体に気をつけてほしいだけ、それより段ボールの中身はどうやった?」
聞いてくるって事は、母さんも中身が気になっていたのか。
「置物とかで多分お爺ちゃんの思い出の品やったんかなって物が入ってた」
「そっか、じゃあお爺ちゃんの棺の中にどれか一つ入れてあげる?」
「あくまで俺が見てそうかなって思っただけやで、それにもっとお爺ちゃんの思い出の詰まった物入れてあげよ」
俺が見てそう思ったからで棺に一緒に入れてあげるのじゃあ流石に駄目だと思うし、あの品々はお父さんが亡くなった後に集めたものかもしれないから、逆に入れてあげたら悲しくなってしまうかもしれない。
なんて事は全てを伝えなくても母さんも分かったいるだろう。
「確かにそうやね…じゃあお婆ちゃんがプレゼントしてた杖にしとこっか」
「うん、俺も絶対に杖の方がいいと思う」
お爺ちゃんは散歩の時も依頼の仕事に行く時でも婆ちゃんがプレゼントした杖を大事に使って持って行っていた。
だから段ボールの中の品よりもよっぽど一緒に入れてあげる物だと思った。
「じゃあ入れてあげる物はそれで決定やね」
「そうやね、それと明日は何時ぐらいに俺は葬儀場に行けばいい? 母さんはこの後はもお向かうやろ?」
母さんはこの後から御線香の番をしないといけなくて、晩御飯の後は準備をして向かう事になっている。
「親戚はもおおらんけど、お友達と仕事でお世話になった人が結構きそうやから9時ぐらいには来てくれる?」
「9時ぐらいやねok」
それから、晩御飯を食べ終わり明日の事も一通り話終わったあと母さんは準備をしてお願いしている葬儀場に向かって行った。
俺も明日の葬式の事もあり早めに風呂に入った、時刻は21時と少し早いが今日一日色々とありすぎて疲れた、早々に寝る事にしよう。
―霊媒探偵の死 弐 末期―




